REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.33 獣、現る(1)

 息苦しい暗がりで、ジュリアはタオルケットに包まった体をもだえるように寝返らせた。皆夕食を終え、それぞれの住まいで寝支度を始める時刻……遺跡の端にぽつんと張られたドームテント内では、闇が重く固まって独り横たわる少女を冷たく圧していた。

 

「……シンちゃー……」

 

 枕に顔を半分うずめ、ジュリアは声を潤ませた。あの夜以降、不整地地帯でテントを張るシンには、道や食堂で出くわしても無視され、避けられていた。

 

「……うちがバカだから……かんにんな、シンちゃー……」

 

 涙があふれ、肌を伝って枕カバーを濡らす。うつ伏せになって顔をうずめていると、コネクトがテクノポップなコール音を鳴らす。弱々しく起き上がったジュリアは、内戸うちと英美えみという少女からイメージ・コネクトが入っているという表示を見、涙を手で拭って応答した。

 

『あっ、ごめんね。寝てた?』

 

 ハムスターを思わせる顔がウインドウに映り、バックが真っ暗なジュリアに愛想笑いする。内戸とは何度か調理業務で顔を合わせたくらいで特別親しい間柄ではなく、ジュリアは垂れ目をやたらと瞬く少し年上の少女をいったい何だろうとぼんやり見た。

 

『あ、あのさ、アタシ、今夜『風呂掃除』なんだけど、一緒にやるはずだった人が体調不良で欠勤になっちゃったんだよ。だから、その人の代わりにシフトに入ってくれないかなー?って……他の人にも当たったんだけど、断られちゃって……このままだと、あたし1人であの広いテルマエランドの掃除しなきゃならなくなっちゃうよ……』

「……でも、うち、おふろそうじ、やったことあらへんよ……?」

『でしょうね。ローティーンの子には基本夜勤やらせないようにワークプランは組まれているからね。でもマニュアルがあるし、分からないことはあたしが教えるから心配いらないよ。2時間だけの勤務だし、助けると思って、ね? お願い!』

 

 手を合わせる内戸にうなずき、ジュリアは承諾した。体を動かしている間はシンを忘れられる……そんな思いからだった。

 

『ホント、ありがとう。じゃ、22時までにテルマエランドに来てね。待ってるから』

 

 念押しし、内戸は逃げるようにコネクトを終了させた。ウインドウを閉じたジュリアは時計アプリを起動させて現在時刻を確認し、TシャツとショートパンツからいつものチュニックTシャツとハーフパンツに無言で着替えた。