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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.32 荒廃(7)

 崩れた石垣を這いずるように上がり、薄暗い住宅地域外周部を歩き続けたシンは並んだドームテント二張りの前にぽつんと立つ小柄な人影を見て目を伏せ、左手と出血で汚れた右手をカーゴパンツのポケットに深く突っ込んで歩を進めた。そして、ジュリアの姿が識別できるようになり、すぐ近くから心配そうに見つめられてもなお目を合わせなかった。

 

「……シンちゃー、ほっぺ、けがしてるよ? どないしたん……?」

 

 右頬の傷に気付いたジュリアを無視してシンが自分のテントの前に立つと、蒼いドームテントが光を発して消える。テントをイジゲンポケットにしまうと、無言のまま黒のスポーツサンダルが北を向く。

 

「シンちゃー!」

 

 ジュリアが前に回り、塞ぐ。

 

「――どこいくん? なんでだまってるん? うち、なんかわるいことしたん?……ちゃんとワケゆーてよ」

「――うるせェ、クソバカザルッッ!」

 

 目を丸くするジュリアを見ず、シンは薄闇をにらんで罵声を飛ばした。

 

「――バカなテメーがつくづくイヤになったんだよ! もうガマンのゲンカイなんだッ! オレのまえからきえろッッ!」

 

 吐き捨て、くしゃくしゃピンク頭の横を足早に抜けたシンは背後からすがる足音を耳にし、自分の足元に手榴弾を叩きつけるごとく怒鳴った。

 

「きえろっつってんだろッッ! ムカつきすぎんだよ、テメーはァッ! それいじょうちかづくと、ブッころすぞッッ!」

「……なんで、そないなこというん……ほんまにおもってるんやったら、ちゃんとめをみてゆーてよッ!」

 

 涙声が食い下がろうとすると、耳をつんざく銃声がとどろいてエジプトサンダルをはいた足のすぐ前が激しくはじける。がく然とするジュリアの瞳には、バイオレントⅣで足元を狙うシンが映っていた。

 

「……ころすって、いってんだろ……!」

 

 たじろぐエジプトサンダルにすごみ、シンは再び前を向いて歩き出した。後を付いて来る足音は、聞こえなかった。銃器を下げたままシンは歩き続け、人気の無い不整地地帯に足を踏み入れた。住宅群の窓から漏れる明かりが遠くにぽつぽつ見えるこの辺りはほとんど闇に没し、雲間から微かに差す月明かりに浮かぶ遺構――ゆがんだ哀れな石の土台がいにしえの墓石の列に見える。その中を幽鬼のように歩き、石にサンダルを引っかけてうつ伏せに倒れた拍子にバイオレントⅣが手を離れ、地面に強くこすった右手の傷口が開く。

 

 ――自分にはクズの血が流れている……結局、同じように他人を傷付け、不幸にしてしまう……――――

 

 きつくつぶった目から涙があふれ、冷え切った地を濡らす。伏せた体を震わせる少年の忍び泣きは、寒々しい夜の闇にはかなく流れ、消えていった。