REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.32 荒廃(6)

 

「――はあぁ……とろっとろにとろけるわぁ……」

 

 恍惚としてアヒル口からふわあっと煙を吐き、入谷玲莉はチャコールグレーのパーカーを着た体をソファの背にだらしなくもたれかからせた。その右手指の間には、電子たばこが挟まれている。だが、隣でワインレッドのラグに足を投げ出している黒Tシャツの矢萩、ローテーブルの横で両膝を立てて後ろのベッドに寄りかかっているロックファッションの真木、そして、矢萩と入谷の正面、ローテーブルの向こうで壁際に立ち、ダーツボードを見据えているカジュアルな身なりをした中塚の口から出る煙も、一般的なリキッドとは違う甘ったるい臭いでカーテンがぴっちり引かれた中塚宅の空気を汚していた。

 

「……魂が、天国に吸い込まれていくぅ……さすが『ミスター・ケミストリー』、大した純度じゃぁん……」

 

 にやつく真木を褒め、呆けた笑みに憑かれた入谷が、ゆらあっと手を伸ばして黒レザーの肩をばん、ばん、と叩く。そして、並んでソファに座っている矢萩にしなだれかかり、的をダートで狙う中塚をとろんとした目でとらえた。

 

「ねぇ、中ちゃんもそう思うでしょぉ? フツーに売ってる薬からSOMAを作っちゃうんだからさぁ~ 天才よねぇ~」

「まあな……」

 

 中塚は吸引器を口から離し、右手に持つダートを指先でいじった。

 

「……けど、佐伯さんにバレたらヤバいよな……おれたちがStoreZから原料と器材を調達し、製造してるって……」

「ビビってんなよ。中塚ぁ」

 

 頬骨尖った顔がゆがみ、嘲る。

 

「――SOMAでポイントを稼ぐのは、俺たちが力をつけてコミュニティを正しく動かしていくために必要なことなんだ。ビーカーだのガスマスクだのはその都度廃棄し、臭いは消臭機で消してるんだから、そう簡単にバレやしない。――それに……」

 

 胸を反らしてふんと鼻で笑い、矢萩はうねった焦げ茶髪を揺らして頭を傾けた。

 

「――バレたって別にどうってことないんだよ、あんな男」

「あははぁ、矢萩さん、強気ぃ~」

「だって、そうだろうが」

 

 矢萩の手がデニムショートパンツから出た入谷の太ももをねっとり撫で、口から天井めがけてぶわあっと煙が吐き出される。

 

「――俺たちに歯向かうイジンのクソガキを見逃し、その上あのピンク頭にすかしたこと言いやがって……!」

「『付き合う相手は選んだ方がいい。自分を貶めることになるぞ』だよねぇ? あはは、ひょっとしてタイプなんじゃない?」

「ロリコン……」

 

 ぼそっと真木がつぶやき、くっくっくっと低く笑う。ぷっと吹き出した中塚は表情をアシンメトリーに緩め、瞳をとろけさせながらSOMAを吸った。

 

「あのクソガキは、留置場に逆戻りさせるべきだったんだ。そして、ふざけた口が利けなくなるまでボコボコにしてやれば良かったんだよ。――だろ、中塚?」

「そりゃ――」

 

 夢心地を乱された顔をし、中塚は撃ち抜かれた胸を忌々しげに見た。

 

「――おれは、あのクソガキに殺されかけた被害者ですからね。なのに、問題行為があったとか言われて罰ポイントに謹慎のコンボですよ。ふざけるなって感じです」

「怒っちゃってるね、中ちゃぁん。あははっ」

「やっぱり、あれだな……」

 

 矢萩は投げ出していた足を引いて座り直し、注目を集めてから続けた。

 

「――けじめをつけるしかないな。俺たちの手で」

「けじめ、ですか?」と、中塚。

「そうさ。落とし前をきっちりつけさせるんだよ。下等生物に身の程を教えてやるのは、俺たちヤマトの役目だからな……」

 

 醜い笑みで顔を溶かし、矢萩は甘い毒を深く吸い込んでまぶたを閉じた。