REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.32 荒廃(5)

 

 揺らめく闇をふらつき、くねる木の幹にぶつかり、張り出した根につまずいて転ぶたび、生傷や打撲が増えていく……石垣の崩れた部分から下り、遺跡のすぐ外で外敵警戒任務に当たる夜勤者の目をくぐってふらふら森に足を踏み入れたシンは、己の四肢も満足に見えない暗闇をさまよい、次第に奥へと流されていた。

 

「――ッ!……」

 

 のたくる木の根に足払いされてよろけ、ささくれた樹皮に顔をこすりながら倒れる――バリアを張っていなかったためもろに傷付いた右頬はジクジク痛み、指で触れると微かにぬめった。うごめく幹に爪を食い込ませて立ち、茂る下生えに絡まれながらスポーツサンダルを履いた足をふらふら出すと、闇に火花が散り、焼くような閃光がはじける。

 

「――や、やめろッ!……」

 

 ひらめく過去にのけ反り、後ずさった拍子に足をすくわれて転倒――しかし、光は容赦なく瞬き、過去の忌まわしい出来事をむき出しにする。両親の怒鳴り合いで始まる記憶――ぬくもりを求めて拒絶され、足蹴にされた記憶――泣いてすがる自分を振り払って去った母親の記憶――うっぷん晴らしに罵声を浴びせ、理不尽な暴力を振るう父親の記憶――そして、そんな両親の血が末梢まで流れている絶望にのたうつ記憶――――

 

「――やめろッッ!――やめろッてんだァッッ!」

 

 まぶたをきつく閉じても消えない幻を払わんと両腕をめちゃくちゃに振り回すと、右こぶしが幹にガッとぶつかって嘲るように痛みが走る。

 右こぶし――ジュリアを突き飛ばした右手――

 憎悪でたちまち火だるまになり、シンは闇に溶けた幹に全力で右こぶしを叩きつけた。衝撃のたび激痛が炸裂し、息を乱す錯乱気味の表情をどんどんひしゃげさせていく。

 

「――オレはちがうんだッッ! あいつらみたいなクズとはちがうんだッッ! ちがうんだッッ! ちがうんだッッ! ちがうんだッッッ!――」

 

 流動に突き飛ばされ、シンは下生えに顔から突っ込んだ。死んだように静まり返った黒い森に嗚咽に似たあえぎと動悸が低く響き、血に濡れた右こぶしがもだえていた。

 

「……オレは……オレは、ちがうんだ……あいつらとは……ちがうん……――」

 

 うめきがむなしく燃え尽き、か細い煙の筋になって消える。深過ぎる闇は哀れな魂を押し潰し、無慈悲に塗り込めていった……