REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.32 荒廃(3)

 

 第16回 運営委員会会議 議事録

 

 日時:テンペスト・ライフ 206日目 14:00~16:00

 

 場所:運営委員会事務所 3階会議室

 

 [出席者]

 新田公仁(コミュニティ・リーダー)

 後藤アンジェラ(サブ・リーダー兼情報マネージャー)

 佐伯修爾(軍務マネージャー)

 沢城麻綾(法務マネージャー)

 里見実央(総務マネージャー)

 鎌田キヨシ(財務マネージャー)

 川瀬慶之(労務マネージャー)

 

 葉エリー(書記)

 

 

 [議題]

 コミュニティ・ルール改定について

 黒隊服の上からいかめしいまなざしが左右に動き、それぞれの前に開いたウインドウに対する委員たちを観察する。眉根を難しげに寄せ、結んだ唇の両端を下げる者……居住まいを正し、かしこまる者……戸惑い、落ち着きなく瞬きする者――佐伯が提出した改定案への心情が、静まり返った会議室に並んでいた。

 

「いかがですか?」

 

 佐伯が議長席に問うと、組み合わせた手をテーブルの上に置く新田が、ややかすれた声で厳し過ぎるのではないかと述べる。その顔はいくらかやつれ、目元には疲れが蓄積していた。

 

「――厳罰化でコミュニティの乱れに歯止めをかけようという気持ちは分かるけど……――沢城マネージャーはどう思う?」

「は、はい」

 

 沢城は斜向かいの佐伯をちらっとうかがい、新田と同意見だと表明した。

 

「――軽犯罪でも数十回の鞭打ちに加え、身ぐるみはぐほどの罰ポイントを科す……これは、いくら何でもやり過ぎではないかと……」

「沢城法務マネージャー」

 

 佐伯は斜め前に座る清楚なショートヘア少女を見据え、突き立てた言葉の刃をゆっくりと差し込んだ。

 

「――昨今メンバー間のトラブルが増え、一昨日にはシン・リュソンによる殺人未遂事件も起きた。ドラッグ『SOMAソーマ』も闇で出回り、メンバーを蝕み続けている。罪を犯しても、それほどふところが痛まない額のポイントを支払う程度で許されてしまう現状では、そうなるのも当然。いくら警備隊が取り締まっても、大して意味が無い。だから自分は、ペナルティを重くするとともにルールを厳守させるため警備隊を強化するべきと言っているのだ」

「それは……分かりますが……」

「コミュニティは仲良しクラブではない。今日の乱れは、リーダーの甘さが招いたのではないか?」

 

 不意の批判に新田は水をかけられたような顔をし、うつむいて組み合わせた手を震わせた。その横でエリーが身をすくめ、川瀬や鎌田、里見が双方の顔色をうかがうのをよそに、後藤アンジェラはテーブルの下で黒いスキニーパンツの足を組み、メガネレンズ越しに会議を冷たく眺めていた。

 

「……佐伯マネージャー」新田が、沢城の後を引き取る。「……厳罰と警備隊の力で脅して従わせる……それは恐怖による支配だろ」

「嫌われたくないのですか?」

「何?」

「甘さは乱れを招き、結果としてメンバーに害をもたらす。それは現状が証明しています。安っぽい仲間意識にこだわって侮られるより、恐れによって従わせることができるリーダーの方が、組織をまとめていく上では望ましいのです」

「……俺にも原因があるのは認めるよ。だけど、乱れの一因には君が持ち込んだヤマト主義もあるんじゃないのか? 今回の事件の発端は、中塚崇史君がシン・リュソン君を挑発したからって聞くぞ」

「取り調べによると、不適切な行為があったのは事実のようです」

 

 佐伯は背をイスの背もたれに預け、黒い腹の前で両手の指を組み合わせた。

 

「――ヤマト主義をゆがめる者がいるのは、自分としても遺憾の極みです。改定したルールにのっとって厳正に処罰していただければと思います」

「俺は、まだ改定を認めてはいないぞ。上から力で押さえつけるより、問題提起してみんなで改善していく――メンバーの心が荒んでいるのなら、それを少しでも癒せる方法を探す方が健全じゃないか?」

「そ、そうですよ」鎌田が逆三角の顔を明るくする。「こういうときこそ、ルルりんの出番です! 天使の歌でみんなを癒し、まとめるんですよ」

「高峰ルルフのしもべを増やして、か?」

「なっ?――ぼ、僕は――」

 

 反論しかけた口が射すくめられて閉じると、佐伯は左隣の川瀬越しに里見を呼び、アンケート結果を発表するように促した。

 

「は、はい。――あの、これは最近のコミュニティの乱れについて、昨夜急きょコネクトで全メンバーに行ったアンケートなんですけどね……」

 

 里見はテキストをコネクトで皆に配布し、それを元に説明した。

 

「有効回答率74.6パーセント――ご覧の通り、みんなコミュニティの乱れを心配していて、トラブルを抑止するために厳罰化や警備隊の強化を望む声が大きいです。うん」

「お分かりいただけましたか、リーダー?」

 

 佐伯は両手のこぶしをテーブルに乗せ、身を乗り出した。

 

「これが『民意』。メンバーは即効性のある対処を望んでいるのです。ここにいる委員たちも、自分の考えに同意してくれると思いますが?」

 

 佐伯が隣に目をやると、川瀬が大きくうなずいて賛意を表し、日和見ひよりみの里見や鎌田も追従する。沢城がためらっていると、その横で後藤が体を後ろに引き、黒く艶めくメガネをずり上げた。

 

「私も、佐伯軍務マネージャーの意見に賛成です」

 

 目をむく新田を無視し、後藤は正面の佐伯を見つめた。

 

「――私は、今まで新田リーダーを支持してきました。ですが、現状をモニタリングした結果、間違いだったと言わざるを得ないようです」

 

 それが決定打だった。沢城に大勢に抗する力は無く、エリーの潤んだ瞳に映る新田は肩を落とし、眉間に幾重にもひびを走らせて、固く組み合った指をわなわなと震わせた。

 

「……分かったよ。好きにしてくれよッ!」

 

 怒声を発し、うつむいた新田に会議室は束の間張り詰めたが、サブ・リーダーの後藤が粛々と佐伯案に基づくコミュニティ・ルール改定を議決し、沢城にメンバーへのアナウンスを指示する。加えて、警備隊に法の守護者としてより強い力を持たせるため、コミュニティから追加でポイントを与えることも決まった。そうしたことが実質自分抜きで進んで行く中、新田は左手薬指にはまるマリッジリングを右手の指で執拗に触り続けていた。