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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.32 荒廃(1)

「――くッ、おらあッ!」

 

 枯れ葉と下生えの流れを転がり、シンははがね孤狼ころうを思わせるリボルバー――バイオレントⅣからドォン、ドォン、ドォンッと炎を噴かせた。猛る弾丸が爆発さながらに幹をぶち抜き、体長およそ3メートルの巨体に炸裂して赤褐色の剛毛を血で濡らす。だが、手傷を負った赤毛の巨大ゴリラ――スミ・ウスは、両腕をグオォッッと振り上げて息苦しい深緑に咆哮を響かせ、邪魔な樹木をなぎ倒してシンにどすどす突進するや鉄球のようなこぶしを振り下ろした。

 

「――ッッ!」

 

 汗の粒を飛ばして起き、跳ねた瞬間、標的をとらえ損ねたこぶしが地響きを立てて地面を陥没させる。そして、樹間に飛び込んだ標的を暴走重機さながらに猛追し、森を激震させて稲妻状に割るスミ・ウス――

 

「ちぃっ!――」

 

 下生えを蹴って走るシンの目が、凶暴に追い上げるモンスターの斜め後方――揺らめきぼやける木々を隔てて追跡する影たちにぎらつく。巻き添えを避ける狡猾な動きが、憎悪を激しくかき立てた。

 

「――ザケやがってェッッ!」

 

 流動する地面をえぐってターンし、突っ込んで来る怪物に銃口を向けたとき、巨体の後方から投げられたこぶし大の何かが毛むくじゃらの足元を転がり、シンの双眸に焦りの閃光が走る。

 

 ――グレネードッッ!――

 

 とっさに両腕をクロスさせ、ガードしたところを襲う爆風と破片――吹っ飛び、幹にドッと叩きつけられて倒れたシンの耳に、けたたましい銃声と苦悶の鳴き声が聞こえる。突き刺さった破片の痛みにさいなまれつつ起きて顔を上げると、光のちりに変わる巨体の周りに4人の男女が見えた。

 

「――テメーらァッ!」

 

 憤然と立ち上がった血まみれのシンはバイオレントⅣを握り締め、怒声に目を向ける男女――チームメンバーに大股で詰め寄った。

 

「――オレをおとりにしやがって! しかも、バクダンなげこみやがってよォッ! だれがヤリやがったんだァ!」

「おれだよ」

 

 柄Tシャツにグレーのシャツ、黒のデニムジーンズの青年――矢萩三人衆の1人、中塚崇史が黒光る鎖鎌を手にやや引きつった薄笑いを浮かべ、隣でアサルトライフル〈K&H‐G40〉を携える城木シゲルが「ははっ」と追従笑いを足す。他――下島麻夜と中西ヘルマは、自分に矛先が向くことを警戒し、両腕と黒Tシャツ、カーゴパンツが血で汚れた姿を身構えた顔で見据えていた。いつ終わるともしれない日々が落とした影は、伝染病のように多くの心を蝕んでいた。

 

「そうかよ……!」

 

 バイオレントⅣが中塚の間合い外から照準を合わせると、湾曲した黒い刃が揺れ、城木が慌ててK&H‐G40でけん制する。中塚はチームリーダーとして命じて下村にグレネードランチャーを構えさせ、中西の手から光熱弾を発生させると、強気になって肩を怒らせた。

 

「何キレてんだよ? どうせポーションで治るんだから、ぐちゃぐちゃ言ってんなよ」

「そうだ、そうだ」城木が尻馬に乗る。「チームの役に立てて良かったじゃんか。お前にもちゃんと貢献した分のポイントは振り込まれてるだろ?」

「ああッ?」

 

 転じた銃口にうろたえ、城木が目ですがると、しゃちほこばった中塚は侮られてたまるかと鎌を振りかざした。

 

「いい加減にしろッ! これ以上騒ぐと、ただじゃおかないぞッ!」

「――!」

 

 怒鳴る姿に父親の影が重なり、シンの体が反射的にすくむ。弱者を虐げることでしか自尊心を満たせない醜悪な生物――ひどくなる動悸どうきが炸裂させる、忌まわしい記憶――うっぷん晴らしに殴る蹴るされ――首を絞められて窒息し――放置され、まともに食事も与えられず――その加害者が、目の前にいた。

 

「……しねよ……!」

 

 煮えた泥を吐くように言い、シンは『影』を狙ってトリガーを引いた。