読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.31 手の平(5)

 うねりが峠を越し、濁りが薄れた黄昏――ぽつぽつと雨粒に打たれながらユキトは紗季の肩を借りてひずんだ石段を一段一段、膝が崩れないように奥歯をかんで気を張り、疲労困憊で鈍った足を持ち上げてのぼった。やがて上がり切ると、正面――となが食堂前にバリケードと見まごう影が見える。無事を知らせる紗季のコネクトが呼んだ者たち――数十メートル隔てた人だかりを前にユキトは雨と泥でひどく汚れた格好、そして忌まわしい右手に目をやってひどい胸苦しさを覚え、重くなった頭を垂らした。

 

「斯波、足が止まってるよ」

「……篠沢、僕は……」

「いいから、ほら」

 

 促され、薄暗がりの中、水たまりを避けてのろのろ歩を進めると、正面に立っているのが佐伯、そして矢萩を含む警備隊メンバー数人だとはっきり分かり、黒い隊服の間から出て来た新田が出迎えようとする。

 

「お待ち下さい、リーダー」

 

 佐伯が腕を上げて制止し、目配せされた矢萩が封印の手錠を手にいかめしく近付くと、紗季が身構えた顔をする。

 

「必要なんですか、そんな物?」

「いいんだ、篠沢」

「だけど……」

「いいから……」

 

 オレンジの肩から腕を外したユキトは、ふらつく体を痛む足で運んで矢萩の前に立ち、左手と節くれ立った黒い右手を差し出しておとなしく手錠をガチャッとはめられた。

 

「ふん」矢萩が鼻で笑う。「逃亡したくせに、のこのこ戻って来るとはな。情けないヤツだ」

「分かったようなこと、言わないでよ」

 

 紗季がユキトの隣に立ち、反発する。

 

「――戻る方が勇気のいることだって、あるんだから」

「生意気な口を利きやがって。イジンの分際で」

「やめろ、矢萩」

 

 佐伯にたしなめられ、矢萩は唇を不満げにねじって下がった。そして入れ替わりに新田が近寄って無事を喜ぶ。

 

「……すみませんでした、リーダー」と頭を下げるユキト。「……迷惑をかけてしまって……」

「いいさ。ともかく、2人とも無事で良かった。早く帰ってゆっくり休んでくれ。――それでいいよな、佐伯マネージャー?」

「構いません。斯波は、我々が自宅まで連行します」

「あたし、送っていきます。――いいですよね、新田リーダー?」

「君も疲れているだろ? 無理しないでいいんだぞ?」

「いえ、平気です。――行こう、斯波」

 

 泥にまみれたスウェットの腕を取って、紗季は道を空ける警備隊と衆人の間を歩いた。後ろから警備隊員に付いて来られるユキトはふと横に目をやったとき人垣の中に潤を見つけたが、どこか怒りを感じさせる切れ長の目は、厳しく細まって斜めにそれた。