REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.31 手の平(3)

「……分かった。あたしもそろそろ引き返すから……うん、ありがと。それじゃね」

 

 すさぶ風と耳障りな葉ずれ、枝葉打つ雨音にかき消されぬように声を張り、コネクトを閉じたオレンジジャージ姿の紗季は、躍る栗色の髪を右手で押さえ、号泣する天候がうねり、木々と下生えがくねって流れる空間の時化しけをにらんだ。呼びかけに応じた数人と手分けして捜索すること3時間弱……コネクトは通じず、ヘブンズ・アイズで位置情報を取得することができないユキトの行方は、ようとして知れなかった。

 

「……いったい、どこにいるのよ?……おーい、斯波ぁ! 聞こえたら返事しなさいよー!」

 

 バリアで雨をはじいて声を張り上げ、〈シルバーブレイズ〉――以前のものより力強さを感じさせる銀の洋弓片手にのたくる泥をスニーカーで踏み、闇の深みへ進むそばでコネクトが着信を知らせ、ベリノイズで崩れた新田の深刻な顔が映る。

 

『もう戻るんだ、篠沢さ――君だけ大分――離れているぞ。これ以――危険だ』

「分かってますけど……」

『これ――命令じゃない。お願いだ。斯波君のことはつらい――ど、君まで犠牲には――ないんだ――頼む……!――』

「新田さん……」

 

 懊悩おうのうのしわを深めたとき、アラートがモンスター接近と大騒ぎする。ヘブンズ・アイズに映るいくつかの赤い光点――タブをはめた右手に銀の矢が出現し、グッと握られた。

 

『モンス――か、篠沢さ――』

「ごめんなさい、新田さん! 続きは後――!」

 

 引きつった薄闇から飛び出す、複数の影――カンガルーに似た人間大の怪物〈マ・クロビ〉が三方に跳び、泥を蹴り、樹間をブォンブォン跳ねて急接近する。素早く矢をつがえた紗季は、両手の尖った爪を構えて迫る正面の個体めがけて飛び出した。

 

「――やアッ!」

 

 突っ込みながら放った矢が光の尾を引き、剛毛生える筋肉質の胴体にズグッと突き刺さる。さらにシルバーブレイズを盾に体当たりして地面に倒した紗季は、暗い樹間に飛び込み、つがえると発光する矢を踊りくねる幹の陰から次々放った。

 

「……きついけど、マ・クロビ3体くらいならどうにか――」

 

 風のうなりをかき乱す、一気に総毛立つ羽音――振り返った紗季は、視界に飛び込む巨大ゴキブリに悲鳴を上げた。ステルス能力を持つ、体長約1メートルの黒い怪虫〈ブラ・タア〉は、逃げようとする相手に飛びかかって押し倒し、バリアに牙を立てて破ろうとした。

 

「――やめてよッッ!」

 

 右手に出現した矢が逆手に握られ、矢じりが怪虫の脇腹に突き立てられる。体液が噴き出し、押さえる力が弱まったところを振り飛ばし、蹴り飛ばしてすかさず矢で射ると、吹き散らされる光のちりの向こうから新手のブラ・タアが2体、震える羽で雨をはじきながらブオオォォォ――と飛来する。

 

「まっ、まだ来るの?――ぅわあッッ!」

 

 横からマ・クロビの爪に襲われ、紗季は張り出した根にガッとかかとを引っかけて尻もちをついた。そこにブォッと繰り出される、獣の強烈な蹴り――銀の洋弓とバリア保護された腕でガードした頭上から黒い怪虫が降り、半ばパニックに陥らせて両腕をブンブン振り回させる。

 

「――ちょッ、勘弁して――あッッ!」

 

 突然ゴオオオッッッと渦を巻いて暴れ出した流動が紗季とモンスターをさらい、混沌の森を波が砕けるごとく四分五裂させる。必死にもがいて抗う紗季は、モンスターたちが散り散りになるのを目の端にとらえながらむなしく押し流されていった……