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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.31 手の平(2)

「……あれてきやがったな……」

 

 無数の蛇が這うような黒雲のうねりを見上げ、ぼさぼさ金髪を吹き乱されるシンは横殴りの雨をバリアではじきながらつぶやいた。黒スポーツサンダルが泥を踏むその後ろには、ダークブルーとピンクのドームテントが並び、大きな雨粒に打たれてバラバラと音を立てている。引きつり気味のまなざしが遺跡西端から石垣の外をぐるっと眺めると、森と砂漠があちこちで混じり合い、彼方の山々が大きく波打っていて、自分たちが孤島にでもいるかのように錯覚させる。

 

「……これじゃ、ムリだろ……」

 

 つぶやいてコネクトをチェックすると、はたして斯波ユキト捜索に携わるメンバー数名から発信されたメッセージ――捜索を中止して遺跡に帰還するという内容――が、タイムライン上に連続している。コネクトを閉じたシンは自テントの出入り口ファスナーを開け、一畳強のスペースの奥で膝を抱えてぶるぶる震えているくしゃくしゃピンク頭――ジュリアを見ながら中に入り、あぐらをかいた。

 

「ホント、りゅうどうとかにビンカンだな」

「だって、こわいんやもん……ねえ、ユキくんみつかったの?」

「いや。もりににげたらしーけど、こんなジョーキョーじゃ、みつけんのはムズイとおもうぜ。コネクトとかヘブンズ・アイズは、つかえねーしよ」

「そうなん……」

 

 ジュリアは眼前の膝小僧を見つめ、ためらいがちに唇を動かした。

 

「――……うち、さがしにいこうかな……」

「はあっ? りゅうどうがヒデーんだぞ?」

「だって、まえにうちがながされたとき、ユキくんもたすけにきてくれたんやもん。だから、こんどはうちがたすけてあげんと……」

「……ほっとけよ。にげだしたヤツなんか――って、おい!」

 

 四つん這いでシンの脇に来たジュリアが、ジジジ……とファスナーを開ける。だが、ピンク髪をいっそうめちゃくちゃにされながら出た外であおられて、のけ反って目に飛び込んだ雨雲のおどろおどろしさに細足はすくんで震えた。

 

「おい、テントにはいれよ」出て来たシンが前に回り、肩をつかむ。「ぬれちまうだろ。オメーのバリアは、あってないようなモンなんだからよ」

「そやかて、うち……うち……」

「いいから、とにかくはいれ! ほらっ!」

 

 無理矢理押し戻したシンは、また飛び出しそうな思い詰めた表情にため息をつき、未熟な形の鼻先に指を突き付けた。

 

「いせきのそとにはモンスターがうようよしてんだ。だから、ここでおとなしくしてろよ! ぜったいだぞッ!」

「え? シ、シンちゃー、どこいくん?」

「べんじょだよ、べんじょ! テントんなかがぬれないように、ちゃんとファスナーしめとけよ!」

 

 言い残すと、シンは荒れる風に逆らって公共トイレがある住宅地域の方へ小走りに向かった。