REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.30 夜陰に消える絆(3)

 

 第15回 運営委員会会議 議事録

 

 日時:テンペスト・ライフ 180日目 10:00~11:00

 

 場所:運営委員会事務所 3階会議室

 

 [出席者]

 新田公仁(コミュニティ・リーダー)

 後藤アンジェラ(サブ・リーダー兼情報マネージャー)

 佐伯修爾(軍務マネージャー)

 篠沢・エリサ・紗季(法務マネージャー)

 里見実央(総務マネージャー)

 鎌田キヨシ(財務マネージャー)

 川瀬慶之(労務マネージャー)

 

 葉エリー(書記)

 

 

 [議題]

 本日未明に逃亡した斯波ユキトへの対処について

 

 バンッとテーブルに手を突いて制服姿を乗り出し、紗季は唇をぎゅっと結んだり眉を寄せて曲げたりした委員会メンバー、議長席で悩ましげに腕組みする新田に訴えた。

 

「追跡した警備隊員の報告だと、森の方に消えたんですよね? 封印の手錠をはめた状態でモンスターに襲われたら、一溜まりもありませんよ!」

「……それは、分かっているよ……」

 

 ちらっと紗季を見て新田が目を伏せると、濁りを増す薄曇りが窓からのぞく会議室は、またしんとした。新田の隣に座るエリーも、ボイスレコーダーアプリのミミがーと文書作成アプリのTextスターを開いたまま息を殺していた。

 

「……篠沢マネージャー、落ち着いてもらえるかしら?」隣席の後藤がたしなめる。「冷静に話し合いましょう」

「助けに行かないって結論を出すために、ですか?」

「状況をよく考えるのだな」斜向かいの黒隊服姿――佐伯から飛ぶ、厳しい声。「流動が、おかしくなってきているのだぞ。安全のため、急きょ狩りを中止しているのに、捜索隊を出すなど許可できるはずがない。第一、コネクトもヘブンズ・アイズも役に立たず、どこにいるのか分からないというのに」

「だから、こんなことしてないで、みんなで手分けして捜すんです! そうすれば、流動がひどくなる前に連れ戻せるかもしれないじゃないですか?――ねぇ、新田さん?」

 

 新田はうつむいた。彼とてユキトを案じており、捜索隊を出そうと考えない訳ではない。しかし、自分が半ば強引に組織した調査隊から犠牲者――秋由大――を出し、秋と付き合っていた少女の悲嘆を目の当たりにしたショックから、新田は己の決断でメンバーに危険をいることができずにいた。

 

「ま、まあ、篠沢マネージャー、落ち着いて。ねっ?」と、手振りする里見実央。「わたしたちも彼のことは心配なのよ、うん……なんだけど、流動ナビによると、これから荒れてくるみたいだしねぇ……ま、多分大丈夫よ。彼だって危ないことはしないって。――ねぇ、川瀬マネージャー?」

「えっ? あ、そ、そうだね。それに、ほら、何かあっても彼は『あれ』だからさ……どうにかなるんじゃないかな、きっと」

「何がどうなるってのよ! 斯波は、封印の手錠をはめられてるって言ってるでしょ!」

「――そんなにまでして助けなくちゃいけないんですか?」

 

 刺すように入る、尖った問い。空気が張り詰める中、紗季は右手側に座る鎌田を斜め上からにらみつけた。

 

「……何ですって?」

「だから、そうまですることが正しいんですかって聞いているんです」

 

 にらみを上目遣いのジト目で一瞥した鎌田は正面を向き、ワインカラーの七分丈ポロシャツにオリーブ色のチノ・パンツ姿をしゃちほこばらせた。

 

「――彼は、時限爆弾みたいなものじゃないですか。いずれ『霧の魔人』みたいに暴れ出すかもしれないんですよ? 心配いりませんよ。川瀬マネージャーが言うように、彼ならどうにかしぶとくやっていくでしょう。何しろ、魔人なんですから」

「あんたねぇ!――」

 

 ガタタッとイスを後ろ足で蹴って詰め寄る紗季に胸倉をつかまれ、腰を浮かした鎌田はどもりながら暴力行為を非難した。下手すると、そのまま2、3発殴りかねない勢い――それは新田に制止され、手を放した紗季は委員たちに向き直ると、栗色の髪を乱暴に撫で付けた。

 

「……分かりました。それなら、あたしはあたしでやらせてもらいます」

「どうするつもりだ、篠沢マネージャー?」

 

 退席するそぶりに新田が慌て、ガタッと立ち上がって尋ねると、ぴしゃりと声が返る。

 

「協力してくれそうな人に頼んでみます。誰もいなかったら、あたしだけでも斯波を捜します」

「そ、そんな勝手はダメだ! 認められない!」

「認めてもらわなくていいです。委員会もハーモニーもやめますから。それなら、文句は無いですよね?」

「篠沢さん……!」

「勝手な行動は慎め」

 

 佐伯が立ち上がり、ドアの方に半分体を向けた紗季を抜き身の眼力で足止めする。彼の前には、コネクトのウインドウが開かれていた。

 

「――呼べば、この事務所を警備している隊員が、すぐに飛んで来る。警備隊事務所にいる者たちもな」

「……佐伯さん、あなただって命をかけてジュリアを助けたじゃないですか? あたしも仲間を助けたいんです」

 

 眼光が鈍った隙に紗季は鎌田の後ろをサッと通って会議室を出、通路を早足で歩いて引き戸を開け、外階段をタ、タ、タッ――と駆け下りた。強行突破も辞さないつもりだったが、階段を下り切っても行く手は阻まれなかった。はるか頭上で揺らめく曇天は会議前よりも黒ずみ、湿り気をはらんだ風が、髪や水色チェック柄のミニスカートを気まぐれに弄んだ。

 

「……絶対、見つけてやるからね」

 

 つぶやいた紗季は運営委員会事務所から離れつつコネクトを開き、手を貸してくれそうなメンバーをピックアップして呼び出し始めた。