REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.29 魔人(4)

『……斯波ユキトに対する反応は、おおむね今申し上げたようなところです。ルルりん……』

 

 むんむんとした湯気とウインドウ越しに報告し、鎌田は大理石の浴室でバラ風呂にゆったりつかるルルフにぼうっと見とれた。黄金の清流のようなブロンドをタオルで頭にまとめ、バラの花が一面に浮かぶ湯から蜜をたっぷり蓄えた上乳をのぞかせる天使のエロティシズム……見ているだけで魂をねっとりしゃぶられるような陶酔に、今にも昇天しそうだった。

 

「ふぅ~ん……みんな、ユッキーのこと時限爆弾みたいに思ってるのねえ」

『へえっ? あ、は、はいっ! 遺跡から追放するべきと考える者も少なくありません』

「委員会の発表によると、あの霧の魔人って666人トリプルシックスの1人だったって話だもんね。ユッキーもあんなふうに狂っちゃうかもしれないって、怖がってるんだ~」

『そ、そうです。何かあって封印の手錠が外れ、危害を加えられたりしたら……たまらないって……ことです……』

 

 湯で火照ったなまめかしい表情と胸の谷間とに視線を上下させる鎌田は、意識がとろけそうになるのをこらえた。

 

「そうなんだねぇ……」

 

 湯の中で右腕がゆらあっと泳ぐと、花園が揺らめいてその下が見えそうになり、ジト目と鼻の穴が興奮でかつてないほど大きく開かれる。

 

「――ルルは別に気にしないけどなぁ~ 委員会に返してくれるようにかけ合おっかな」

『……は、はい? え、い、今、何と?』

「だから~ユッキーを返してくれるように要求しようかなって言ってるの。ユッキーはうちの一員じゃん。権利はあると思うんだけど?」

『い、いや、それを言えば、警備隊の一員でもありますし……それに、伝え聞く様子からすると、引き取っても使い物になりませんよ』

「ベッドに潜り込んだままなんだっけ? 残念だなあ~」

『な、何を言うんです、ルルりん! ルルりんには、僕ら――僕がいるじゃないですか! 彼なんかいなくたってへっちゃらですよ!』

「うふふ、そうだね。サンキュー、カマック。――それじゃ、報告ありがとね」

『え? あ、はっ、はい、あッ、あの――』

 

 眼福がんぷくの終わりに慌てる鎌田を消し、ルルフは湯船に背中をもたれ、肩までどっぷり湯につかった。

 

「……ハイパーに頼もしそうだったのに。もったいないな~」

『そうだね! そうだね! キャハキャハキャハッ♪』

 

 宙にロココ調フレームの楕円だえん型鏡――ミラが現れ、湯気で曇った浴室内をくるくる飛び回る。

 

『――強いのがいれば、ケンカするにも貢がせるにも役立つもんね。キャハキャハ♪』

「ホントそうよ。ルルはもっともっとポイントが欲しいんだから」

『キャハキャハ♪ ポイントがあればあるほど、カリスマレベルもぐんぐんアップ! ルルりんの魅力、うなぎのぼりだもんね! キャハキャハ♪』

 

 ミラがルルフの正面に来て、鏡面にカリスマレベルを表示する。3分の1くらいまで達したレベルゲージにしつつ、ルルフは「まだまだ足りないな~」と不満を口にした。

 

『キャハキャハ♪ がんばれ、ルルりん! レベルをガンガン上げていけば、そのうち世界さえ動かせるようになるよっ! キャハキャハキャハッ♪』

「マジで? ハイパーにすごいじゃん! ふふふ、そっかあ……!」

 

 高揚したルルフは湯に唇を沈めて両端をつり上げ、美しく磨かれた目を貪婪どんらんそうに濁らせた。