REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.29 魔人(3)

「――入るわよ、斯波」

 

 玄関ドアを開けた紗季は、充満する陰鬱な空気に思わず顔を引いた。夕暮れが近いこともあるが、掃き出し窓のカーテンがぴっちり閉められた1LDKは、別世界のように薄暗い。紗季と沢城がスリッパを履いて上がると、奥に浮かんでいたカンシくんの上部が回転して2人をカメラで追う。監視されながらカンシくんをくぐった紗季は、ソファ、ローテーブルが置かれたリビングとベッドルームが合わさった部屋の角にくっ付くセミダブルベッド上で焦げ茶色の掛け布団を引っかぶっているのを見つけた。

 

「……暗いから、明かりつけるわよ」

 

 壁のスイッチを触り、照明をつける紗季。それで部屋は明るくなったが、空間のくすみは消えなかった。ベッドに近付いた紗季は、カンシくんがスウッと宙を滑ってベッドの足元側に移動し、やり取りをすべてカメラでとらえようとするのに眉をひそめた。

 

「トイレとか以外全部監視なんて、たまらないわね……――ねぇ、斯波、調子どう? 何か困っていることとか無い?」

 

 返事は無かった。紗季と沢城が代わる代わる声をかけても一言として返って来ないどころか、掛け布団の下からいら立ちが伝わってだんだん強まり、今にも破裂しそうなほどになる。少女たちは顔を見合わせ、今はそっとしておいた方が良さそうだと小声で話し合った。

 

「……ごめんね、休んでいるところ……また、来るからね……」

 

 そっと声をかけた紗季は沢城にうなずき、カンシくんを不快げに一瞥すると、照明のスイッチを切って玄関から出て行った。陽が暮れ始め、次第に暗くなっていく部屋の片隅で、掛け布団の盛り上がりはじわじわと闇に沈んでいった。