REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.27 白い闇(2)

 

「――もしもしッ!」飛び付き、唾を飛ばして呼びかける新田。「もしもしッ!」

『――る――聞こ――か――』

 

 声を上げるベリノイズでずたずたの映像――それは形を整えかけては崩れ、もがきながらやがてディープブルーのヘルメット、戦闘服調の制服を、角ばった顔をした中年男性のバストアップをどうにかこうにか成した。

 

『――るか?――聞こえるか?』

「きっ、聞こえます! 聞こえていますッ!」

『おおッ!』

 

 叫ぶ新田に歓喜の声が応じる。

 

『――やっと回線がつながった! 無事だったんだな、君たち!』

「あ、あなたは? わ、私は新田、新田公仁と言いますッ!」

『自分は、JFCF――日本軍サイバーフォース第13小隊隊長の菊長。君たちを救出しに来たのだ』

「軍が動いてくれていたんですね! い、今どちらに?」

『コネクトがつながったのなら、ヘブンズ・アイズでこちらの現在位置が分かるんじゃないか?』

「そ、そうですね。ちょっ、ちょっと待って下さい」

 

 急ぎチェックする新田に続いてヘブンズ・アイズを確認したユキトは、500メートルほど登った先――4日前にコネクトが発信されたのとほぼ同じ地点――に表示される白い光点を目にした。

 

「あった! Unknown表示!」

「今まで映っていなかったのが表示されたわね!」

 

 上気した顔を見合わせるユキトと紗季――両者の肩を破顔した秋が後ろからガッと抱く。沢城や遠山、ミリセントたち女子ははしゃいで抱き合い、檀、大鳥、坂本等男性陣は喜色満面で腕や背中をバンバン叩き合った。夢にまで見た救助、リアル復活への救いの糸を前にした歓喜で調査隊メンバーは沸騰した。

 

『――本当に良かった。このゾーンを発見してジャンプして来たはいいが、この辺りのモンスターが手強過ぎて下山できなかったんだ。恥ずかしい限りだよ』

「いっ、いえ、そんなことありませんッ!」涙ぐんだ新田が声を詰まらせる。「今、そちらに向かいますッ! 待っていて下さいッ!」

『了解した。ここで待機している』

「はいッ!――行こう、みんなッ!」

 

 手をブンッと振って急かし、新田は隊員たちを引き連れて木がまばらになった斜面を跳ねるように登った。ほどなく勾配が緩やかに、そして平らかになっていく。先頭の新田はコネクトで菊長小隊長とつながり、引き寄せられて白い闇の中をいそいそと、倍速で歩いた。

 

「――あっ!」

 

 ぼうっと浮かぶ影に新田が声をはずませ、ダダッと駆け寄って白くかすんだ菊長小隊長の手にすがり付く。灯台のようにがっしりした存在感の後ろにはJFSF第13小隊隊員20名ほどが横列になり、胸躍らせて走り寄る調査隊一同を微笑の花束で迎えた。

 

「……来たのね、救助……」

 

 瞳を潤ませ、くすんと鼻をすする紗季。その隣でユキトは目頭を熱くし、瞬きを繰り返して涙をこらえながら数メートル前に立つ新田の肩越しに菊長小隊長、それからディープブルーカラーの隊員たちを見つめ、左右で立ち尽くす秋たち調査隊メンバーと感動に浸った。

 

(……これで……これで助かるんだ……――……ん……?)

 

 ドクン――ひびを入れるような脈動に視線が斜め下、ナックル・ガントレットの下で熱を帯びた右手へと落ちる。脈は何かに呼応、あるいはシグナルを発信するごとく打ち、どんどん乱れて速まっていく。

 

(……な、何だ、この感覚……?)

 

 得体の知れない不安をかき立てられたユキトは鋼の右手を見つめ、無意識に菊長たちJFSF隊員に転じてまた戻すことを繰り返した。

 

(……?――)

 

 自分でもよく分からないまま、ふらっと踏み出す……どうかしたのかと問う紗季の声が斜め後ろから聞こえたが、視界には新田に手をしっかと握られる菊長小隊長しか映っていなかった。

 

(――どういうことなんだ?――どういう――)

 

 波立つ戸惑い――暗黒の底からわき上がって胸を揺さぶる衝動――総毛立ち、毛穴から冷たい汗があふれた体が微かに震えながら足を速め、ナックルダスターを握り、鋼のこぶしを固めて右脇にググッと引く。

 

「――どいて下さいッッ――!」

 

 悲鳴に似た叫びに新田が振り返り、襲いかかるナックルダスターに驚いて反射的に横へ避ける。鋼の一撃はそのまま菊長小隊長の鼻の下、口とあごとに炸裂――骨が砕ける音を引いてのけ反ったがたいのいい体は後ろに立つJFCF隊員にドッと衝突し、ごつごつした地面に折り重なって倒れた。予想外の出来事に横から見ていた新田も、後ろの紗季たちも束の間ぼう然としていた。

 

「――なっ、斯波君ッ!」

 

 我に返った新田がユキトを羽交い絞めにし、部下たちに両脇を抱えられる菊長小隊長を案じる。

 

「――も、申し訳ありません! だっ、大丈夫ですか?」

「新田さん、違う! こいつらは、こいつらはッ!」

「突然どうしたんだ、君は? 気でも狂ったのか?」

「狂ってなんかいないッ! おかしいのはこいつらなんだッ!」

 

 困惑する新田がユキトのにらむ先を見ると、菊長小隊長――続いてJFCF隊員が白くなり、姿形をはらっと崩して霧に変わる。驚きで見開かれる26の瞳――調査隊からすうっと離れた霧は一所に集まって黒ずみ、人の形を取った。