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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.27 白い闇(1)

 

「――はぁ……はぁ……く……!」

 

 無秩序に茂り、幹と枝葉をくねらすうっそうとした斜面……湿った深緑のにおいにむせ、ユキトは左手の甲で額の熱い汗を拭った。先を登る新田や横の秋、後ろの紗季たち他のメンバーもたゆたう下生えに汗をぽたっ、ぽたっと滴らせ、重りをはめたような足を動かしながら急勾配に群れる木々の間を縫ってコネクト発信地点である頂のフェイス・スポットをひたすら目指していた。

 

「……まだ、なのか……」

 

 ヘブンズ・アイズをまたチェックし、現在位置を確かめる……4日前の発信時より西に20メートルほど流されているフェイス・スポットとの距離は、マップを見るたびに少しずつ縮まっていた。

 

「頑張れ、斯波君」横から秋が励ます。「流動が弱くなっているだろう? もう一踏ん張りだ」

「そうよ。しっかりしなさいよ、斯波」と、後ろから紗季。「男でしょ?」

「篠沢……そういうの、セクハラなんだぞ……」

 

 プロテクターを付けた背中ではじき、唇をいら立ちで曲げたユキトが揺らめく斜面を踏む右足に力をかけたとき、いきなりアラートが発報してWARNINGの文字が赤く発光する。隊員たちはすぐさまイジゲンポケットから得物を出現させ、マップ上の赤い光点を詳細表示させた。

 

「またアーメ・トの群れだ! 2時の方向ッ!」

 

 構えた新田の右手が帯電し、鋭くスパークする。

 

「――久喜宮さん、北村さん、やるぞッ!」

 

 新田の左右に長身スレンダー女子――久喜宮香とパーマボブヘアの八重歯やえば少女――北村愛美が立って炎と光熱弾をスタンバイさせ、ユキトたちが3人を援護するフォーメーションを取ると、ゆらゆら揺れる木々の向こうから無数の枯れ葉然とした群れがバァァァッッッ――と高速で飛来する。

 

「――撃てェッ!」

 

 新田の号令一下、炎が放射、光熱弾が連射され、猛々しい稲妻が幹をかすめて宙を切り裂く。

 アーメ・ト――の羽根に似た超小型モンスター群は魔法攻撃を受けて連発花火のごとく光のちりを散らしたが、仕留め切れなかった残り数百体がバリアにぶつかり、バリバリバリバリィッッッ――と火花を飛び散らせる。

 

「――くそッ、この羽根めッ!――ぐわッッ!」

 

 鋼の右こぶしを振り回し、ナックルダスターで叩き落とすユキトの背中で激痛が爆ぜ、しびれが脳天を貫く。肉をえぐる毒針――全長約10センチながら、バリアを貫き、プロテクターを貫通する破壊力は、さながら命を持った弾丸。

 

「――ッ、のおオォッッ!」

 

 しびれる痛みに怒声を発し、ナックル・ガントレットが揺らめく空間を滅多打つ。剣に槍、ロッドやマジックハンマーを振るう近接攻撃担当たちは魔法攻撃を続ける新田たちを守って戦い、十数分かけてようやく群れを全滅させた。体のあちこちを刺されたりバランスを崩して少し滑落したりした者はいたが、幸い全員軽傷で済んでいた。

 

「くそっ、いてて……」

「大丈夫かよ、斯波君? ほら、リカ使うから傷を見せるんだ」

 

 秋が白い瓶――状態異常回復効果がある魔法薬〈リカバリー・ポーション〉の蓋を開け、光の粒子をユキトの背中、右ふくらはぎ、左の二の腕の傷にかけると、外傷部位から走るしびれの電撃が薄れて消える。

 

「すみません、秋さん。後でポイント払います」

「いいって。気にするなよ」

 

 ユキトの右肩――プロテクターを気さくに叩いて秋は他の隊員を見に行き、入れ替わりに紗季がフェイスタオルで顔や首の汗を拭いつつ寄って来てため息をつく。

 

「まったくたまらないわよね。バリアが無かったら、あたしたちハチの巣にされてるわよ」

「ホントだよな。森からこっちは厄介なモンスターが多いし……」しゃべりながら、ユキトは自分の傷にポーションをかけた。「警備隊が途中で引き返すのも分かるよ」

「だけど、あたしたちはここまで来れた。目標地点まであと1キロちょっと。頑張ろうね。――ねぇ、霧が出て来たわね……」

「……そうだな……」

 

 いつの間にか山頂の方に霧がかかり、濃さを増しながら少しずつ下って来ていた。それに伴って辺りが冷え、火照って汗に濡れ、蒸れた調査隊メンバーの体をぶるっと震わせる。

 

「みんな、傷の手当は済んだか?」

 

 斜面の上から新田がメンバーを見下ろし、チェックする。

 

「――もうちょっとでフェイス・スポットに入る。行くぞ」

 

 言うが早いか、新田は白くぼやけた揺らめきをかき分けるようにずんずん登って濃霧に飲まれる。ユキトたちも後を追い、視程10メートル程度の霧中を仲間とはぐれないよう、木々とぶつかったり足を滑らせたりしないように気を付けて進んだ。

 

「……すごい霧ね、これ」

 

 ユキトの左隣――かすんだ紗季が白い息を吐く。

 

「ああ、体は冷えるし、困ったもんだよな」

「そうだな」秋が振り返る。「冷気はバリアでガードできる。しっかり張れば平気だよ」

「はい、ありがとうございます」

「すみません。あたしたちのこと、気にしてもらっちゃって」

「いや、俺、おせっかいなところがあるからさ。うっとうしかったら言ってくれよ」

「そんなことありませんよ。――ね、斯波?」

「うん」

「そう?――んッ?」

 

 耳を打つテクノポップなコール音――ハッとした秋、そしてユキトたち調査隊メンバーは足を止め、コネクトのウインドウ――Unknown表示を凝視して固唾かたずを呑む。