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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.26 調査隊派遣(3)

 

 薄墨でぼかしたような昼下がり――丈の短い、枯れかけた草がぽつぽつ生える大地を乾いた影の連なりが行く。隊長の新田を先頭に矢印形のフォーメーションで北北西、ふもとに森が広がるかすんだ山々の揺らめき目指し、黙々とステップ地帯を歩く調査隊の面々……消耗した顔とやや乱れた髪が汗で臭い、戦闘服とプロテクターのあちこちに裂け目や傷が残る隊員たちは、どろっとした流動に抵抗しながら黒いコンバットブーツを履いた足を前に出し続けており、とりわけ新田の背を追うユキトは度重なる戦闘で活性化したデモン・カーズにもさいなまれ、何かがおぶさっているかのように重い体に鞭打っていた。

 

「大丈夫かい、斯波君?」

 

 声をかけられ、ユキトは並んで歩く年上の青年を見た。

 しゅう 由大よしひろ――シベリアン・ハスキーを思わせる、鋭くも親しみやすい顔立ちをした中国系日本人。戦闘では両腕に装備するパイル・シューター――金属製の杭を高速射出する武器――で勇ましく戦う、調査隊の副隊長を任されている好男子。

 

「あ、はい、何ともないです」

 

 くたびれた表情が引き締められるのを見て秋は柔らかく笑い、先刻の戦闘を振り返った。

 

「さっきは助かったよ。斯波君がその右こぶしの一撃で一つ目装甲巨人――〈ルスコ・ギガ〉の右膝を破壊してくれたからさ。ありがとな」

「いえ……隊長の命令に応えようと必死にやっただけです」

「にしても、あの動きの切れと硬い装甲を砕いたパワーはすごかったよな。――ねぇ、新田隊長?」

「ん? ああ、そうだな」

 

 振り返った新田が、ドライに同意してまた前を向く。面映おもはゆい思いで謙遜するユキトの右上腕を優しく叩いた秋は近くの隊員――檀や北村愛美、大鳥たちを交えながら雑談をし、すり減ってささくれ立った一行を和ませていった。その輪に連なっているうち、ユキトの疲労やだるさは薄れていった。

 

(……行方不明のメンバーかもしれないけど、救助隊であって欲しいな……)

 

 和らいだ仲間たちを振り返り、いっそう強く願う。調査隊メンバーの中には狩りで同じチームになり、休憩時間の雑談で個々の事情や思いを聞いている者も複数いた。例えば双剣使いの檀耀真は獣医学部に戻ることを望んでいるとか、大型の槍を操るフィリピン系日本人のフリーター青年・阿須見ノエルは相方とお笑いタレントを目指していたとか、淑やかな性格ながら魔力で破壊力を増すマジックハンマーを振り回す同い年の女子高生・沢城麻綾は片思いのテニス部の先輩に告白しに戻りたいと思っているとか……秋とも一、二度同じチームになって、そのときにここで彼女ができてペアリングをはめているとか、家族がいるリアルに彼女と一緒に帰りたい、ゲーム制作の専門学校に復学したいと話しているのを耳にしていた。

 

「――君たち、少しペースが落ちているぞ」

 

 数メートル隔てて振り返った新田にピシッと注意され、ユキトたちは口をややへの字に結んだ。妻子がいるリアルに戻りたいと切望する新田は無意識に足を速め、後ろと距離が開いたのに気付いていら立たしげにペースを落とすことを繰り返していた。

 

「――隊長殿ッ!」

 

 最後尾――紗季の後ろからうねったアッシュブロンドの少女が呼び、皆の足を減速させる。振り返った新田は、少女――カナダ系日本人少女ミリセント・サカキが仲間たちを背に身構えているのを見て、どうかしたのかと尋ねた。

 

「モンスターの気配がするでござる」

 

 そう言うや否や、戦闘服とプロテクター装備の体がイジゲンポケットから出現した西洋甲冑――プレートアーマーに覆われ、右手に小柄な当人より幅も長さもある刀身の大剣が握られる。ミリセントは柄を両手でガシッと握ってぐわっと上段に振り上げると、茫漠とした枯草色の揺らめきに兜のスリットからグレーの瞳を光らせた。

 

「ミリー?」いぶかる紗季が、鋼の後頭部に声をかける。「モンスターなんてどこにも見当たらないけど?」

 

 続いて、横から遠山冴織が「ビックリさせんなよ~」と文句を言う。流動の揺らめきで遠くなるほど視界が利かなかったが、それでもおよそ半径100メートルにそれらしい動きは見えず、他の者もヘブンズ・アイズに反応が無いとかアラートが発報していないとか言ったが、ミリセントは構えを解かなかった。

 

「サカキ君、本当にいるのか?」

SRGシミュレーテッド・リアリティ・ゲームで鍛えた拙者の感覚を信じて下され、隊長殿。――遠山殿、あの辺りに1発お見舞いして下さらぬか?」

「えっ、サオリが?」

 

 指名された遠山が振り返って指示を仰ぐと新田はうなずき、ミリセントが示すところを撃ってみるよう命じた。

 

「……ゲームで鍛えた感覚だなんて……何も無かったら承知しないんだからな、サムライかぶれ」

 

 ぶつくさ言って遠山が何かを肩に乗せて構えるポーズを取ると、そこに全長2メートルほどの兵器が現れてずしりと乗る。彼女がポイントをつぎ込んで購入したレールガン――破壊力は高いが、1発当たりの単価が高く、加えて連射できないのが難点の武器。遠山は口が裂けた鋼のワニといった感のウェポンを動かして照準を合わせた。

 

「それじゃ、派手にヤッちゃうよッ! そりゃああぁ――ッッ!」

 

 砲身に大電流が流れ、砲弾が高速で撃ち出されて50メートルほど離れた場所にドォォンンッッと着弾する。すると、おう吐に似た鳴き声がはじけて小石や土とともに黒い粘液がバアッッと飛び散り、着弾地点周囲に黒いスライムが十数体浮き上がった。

 緑色の核をいくつも含むコールタール状のモンスター、〈ムーク・ソオ〉――

 自分たちとほぼ同じ高さに盛り上がった黒スライムの出現、そして今さらのように発報されるアラートに遠山たちは驚き、すぐさま近接攻撃を得意とするユキトや秋が紗季たち遠距離攻撃役の前に出た。

 

「ステルス・モードみたいな真似ができるのか……!」新田が、帯電させた両腕を構える。「警備隊の調査報告に無いモンスターだ。注意しろ!」

 

 新田が攻撃命令を出しかけたとき、消えたWARNING表示が再び現れて新たな危険を知らせる。ヘブンズ・アイズをチェックしたユキトたちは、ムーク・ソウの群れと対峙する自分たちの後方――北の方角から急接近する巨大な赤い光点を認めた。

 

「〈スコ・アビス〉だ!」グレネードランチャーを携えた短髪少年・坂本蓮吾が、赤い光点を詳細確認して叫ぶ。「空飛ぶサソリが来るぜッ!」

 

 振り返った隊員たちの目が、揺らめく暗赤色の巨影をとらえる。それは間も無く翼をはばたかせる巨大サソリ――25メートルプールより一回り大きい全長、どでかい両腕のハサミと先端が毒針の尻尾を持つ大型モンスターの姿になった。

 

「――近接攻撃担当は、黒スライムを近寄らせるな!」

 

 新田が命令し、スコ・アビスに向き直る。

 

「――遠距離攻撃担当は、俺と一緒にスコ・アビスを撃ち落とす! 翼を狙うんだ!――来るぞ、バリアをしっかり張れッ!」

 

 一同が気を張ってバリアを強めるのとほぼ同時に、飛来したスコ・アビスが獲物めがけて口からボオオオオォッッッッッとすさまじい火炎を放射した――