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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.26 調査隊派遣(2)

 辞令

 

 阿須見あすみ ノエル

 大鳥おおとり 拓巳たくみ

 北村 愛美まなみ

 久喜宮くきみや 香

 坂本 蓮吾れんご

 沢城さわしろ 麻綾まあや

 篠沢・エリサ・紗季

 斯波 ユキト

 しゅう 由大よしひろ

 だん 耀真ようま

 遠山 冴織さおり

 ミリセント・サカキ

 

 以上12名をUnknown調査隊メンバーに任命する。

 

 期間 テンペスト・ライフ 174日目 ~ 177日目 予定

 

 

 テンペスト・ライフ 173日目   コミュニティ・ハーモニー運営委員会

 

 薄曇りの早朝、軍隊のようないでたちをした小集団が数百の仲間に見送られながらゆがんだ石段を下り、遺跡の西側に回って北北西へ針路を取った。

 

 Unknown調査隊、総勢13名――

 

 カーキ色の戦闘服、胸と背中、肩と肘をガードするプロテクター、黒いコンバットブーツの一団は、サブ・リーダーの後藤に留守を任せた新田に率いられて流動を歩み、だんだん離れて小さくなっていく。それを追って若者たちは遺跡西側へぞろぞろ移動し、ところどころ崩れて坂になった石垣越しに懸念と期待のまなざしを送り続けた。そうした群れから独り離れ、シン・リュソンは自分の胸くらいの高さの石垣に両腕を乗せて寄りかかり、岩石砂漠を進む調査隊を斜に眺めて口角をニヒルに曲げた。

 

「……ふん……」

 

 嘲り混じりのため息を鼻から漏らしたシンは頭を重たげに垂れて足元をぼんやり見、右足をふらっと動かして黒いスポーツサンダルの先で石垣をこっ、こっと蹴った。そのままいたずらに蹴っているうちに胸の奥から何もかもが憎いような、どうでもいいようなない交ぜの感情がこみ上げ、眉間にカッと稲妻を走らせる。

 

「――ッ!」

 

 思い切り蹴りつけてはじかれ、つま先に鈍い痛みを覚えながら一、二歩後退したシンはがっちり積み重ねられた角石をにらみつけ、小石が転がる地面にペッとつばを吐いた。

 

「!――」

 

 気配を感じて振り返ると数メートル隔ててジュリアが見え、つり上がった眉がピクッと揺らぐ。かつては建物を支え、今は形がゆがみ、ぼろぼろになった大石の土台越しに見つめる少女……ぽつんとたたずむ姿から苦い顔をそらし、再び石垣に寄りかかったシンは揺らめきに消えていく調査隊の影を見るともなく見た。

 

「……もうみえへん? ニーちゃんたち」

 

 エジプトサンダルを履いた足で大石の列を乗り越え、問う声が近付く。張りのない声を無視できず、視線はそのままにシンはぼそぼそ返した。

 

「……もうほとんどみえねーよ」

「……ほんまやね……」

 

 人1人分ほど空けて横に立ったジュリアが石垣越しに確かめ、シンをうかがって遠慮がちに続ける。

 

「――……シンちゃーもニーちゃんたちのこと、きになってたんやね」

「……まわりがさわいでいやがるせいで、ねていられなかっただけだ」

「……コネクトしてきたひと、みつかるとええね」

「まあな……」

「……シンちゃー、うちのこと……キライになったん?」

「……ナンだよ、いきなり……」

「……だって、さいきんつれないんやもん……つかれてるとか、いそがしいとかゆーて……うちのこと、さけとるやろ……」

「……べつに……ここんところ、ホントにたいへんなだけだ……」

「じゃ、うちをキライになったんじゃないんね?」

「……」

「……やっぱり、キライになったん……?」

「……んなコトいってねーだろ」

「じゃ、キライやないんね?」

「ん……まあ……」

「ほんま? よかったあ」

 

 しょげていた顔がほころぶ。間近で無垢な喜びを目にしたシンはそれを無下むげにできず、石垣の上でこぶしを固め、岩肌に走ったひびをにらんでうめくように言った。

 

「……オレは、クソなんだぞ……」

「クソ? なにがウンチなん?」

 

 シンは胸のうずきに奥歯をかみ、眉間に刃物で切り裂かれたようなしわを現した。

 

「……オフクロは、ガキをすててオトコにはしるクソ……ニホンザルのオヤジは、オレをうさばらしになぐるクソ……このカラダには、そういうクソどものクソきたねえモンがながれてるんだ……そんなクソといっしょにいたら、ロクなことにならねえぞ……」

 

 最後の方は、喉が詰まって声がかすれた。ぼさぼさ髪を垂らしてうなだれ、こぶしを微かに震わせる横顔をジュリアは切なげに見つめ、純朴な瞳を潤ませた。

 

「……でも、シンちゃーはシンちゃーやろ?」

「あ?……」

「シンちゃーは、シンちゃーパパやシンちゃーママやないやろ。シンちゃーはシンちゃーやろ」

「いや、だから……」

「うちは、シンちゃーのことすきや。たいどはわるいけど、やさしいとこあるもん」

「……オレは、そんな……」

「ほんまのこと、ゆーてるんよ。うち、うそなんかゆーてへんもん。うそなんか……ううう……」

「……ナンでなくんだよ、オメー……」

 

 涙がこぼれる目をこすり、鼻をすするジュリアにシンはこわばっていた顔を戸惑わせた。石垣上のこぶしは緩み、震えを止めていた。

 

「……ったく……ハンカチなんてシャレたモンはねーから、これでふいとけよ」

 

 イジゲンポケットから出したスポーツタオルを渡すと、ジュリアはそれでごしごし顔を拭き、くしゅっ、くしゅっと鼻をかんだ。

 

「おおきに、シンちゃー……これ、おせんたくしてかえすね」

「いいよ。やるから、すきにつかえ」

「ほんま? おおきに、シンちゃー。えへへ」

「ちっ、ないたりわらったり、いそがしいヤツだな」

「えへへぇ」

 

 照れ笑いしたジュリアは左手でタオルを持ち、右手でシンの左腕をつかんで引っ張った。

 

「ねぇ、あさごはんまだやろ? いっしょにしょくどういこ」

「……オレ、あんまりはらへってねえよ」

「なにゆーてんの。きょうもかりにいくんやろ。ちゃんとたべなきゃ、ちからでーへんよ。ほら」

「お、おい、ひっぱんなよ」

 

 握ったタオルを元気に振って歩くジュリアに連れられ、シンはでこぼこした大石の列を横切った。その足元からは、もや状の雲越しの陽による薄い影が伸びていた。