REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.26 調査隊派遣(1)

 

 募集要項

 

 テンペスト・ライフ 171日目 21時14分頃に発信者不明のボイス・コネクトが発信された遺跡の北北西約40キロ地点を調査する部隊に参加して下さる方を募集します。

 

 応募資格:狩りで1日18000ポイント以上平均して獲得できる方

 

 募集期間:テンペスト・ライフ 172日目 12時00分から同日 22時00分まで

 

 仕事内容:調査隊の一員として、コネクト発信地点である遺跡の北北西約40キロ地点に向かいます。途中でモンスターと遭遇した場合には、隊長の指示に従って戦闘を行っていただきます。

 

 勤務期間:3~4日程度の予定。採用者のワークプランは労務マネジメント局が調整致します。*場合によっては期間が延長になる可能性があります。

 

 手当:5000ポイント/h (戦闘服、ブーツ等支給。けがの治療にかかる医療手当及び食事手当を別途支給致します)

 

 募集人数:20名程度

 

 採用までの流れ:エントリーされた方の中から選考し、採用された方には担当者からご連絡を差し上げます。

 

 応募方法:志願される方は、〖こちら〗からエントリーして下さい。

 

 【問い合わせ先】 コミュニティ・ハーモニー 総務マネジメント局

 

「時給5000ポイント……ずいぶん奮発してるんだよな……」

 

 調査隊員募集のメッセージを読み返したユキトは長袖ニットソーを着た上半身をそらしてソファの背にもたれ、ウインドウに映る紗季に「でも、志願者が少ないのか……」と続けて左手とナックル・ガントレットをはめた右手とを胸の前で組んだ。その隣にはドット柄グレーワンピース姿の潤が座を占め、夕食後ユキト宅リビングでのくつろぎを邪魔したコネクトにマネキン人形チックな態度で応じていた。

 

『そうなのよ。締め切りまであとちょっとなのに、志願者はあたしと数名……やっぱり命の危険があるからみんな二の足を踏むんだよね……警備隊――佐伯さんは隊員の志願を制限しないけど、警備任務に支障が生じるのは好ましくないってスタンスだし……だけど、誰かがやらなきゃいけないでしょ』

 

 つられてユキトはうなずき、潤を横目でうかがった。ブラウンのスキニーパンツで脚線美をぴっちり固めた足は左右の握りこぶしを乗せて閉じられ、冷ややかな横顔には関心の薄さが如実に現れていた。

 

『――だから、斯波と加賀美さんにも志願してもらえないかなと思ったの。2人だってリアルに戻りたいよね?』

「それは、まあ……」

「私は、遠慮させてもらうわ」

 

 そっけないまなざしが、ソファ前にある焦げ茶のローテーブルへ移る。

 

「最近体調がすぐれないの。そんなコンディションじゃ足手まといになってしまうから」

『そう……――斯波は?』

「……救助隊……かもしれないんだよな……」

 

 腕組みしたまま、ユキトは鋼の右手を握り固めた。鋼の下で変異した右前腕が熱を帯び、拳固がもう一つの心臓のように脈打つ。潤がこの件に無関心――不快感さえ抱いているように感じて志願をためらい、自分が参加しなくても問題ないだろうと他人任せにしていたのだが、実情を聞かされた今は強い焦りを覚えずにはいられなかった。

 

(……救助隊かもしれないのに……!)

 

 下唇をかみ、鼻から焦れた息を漏らして……腕に加えてデニムジーンズの足を組み、焦燥感に駆られて自分をぎりぎり締め付ける……

 

「……仲間が助けを求めているのか……救助隊ならリアル復活できる可能性があるんだものな……」

『そうよ。危険でもやる価値あると思うわ』

「……そうだよな……」

 

 ユキトはまた隣を盗み見し、再び紗季と視線を合わせた。

 

「……分かった。志願するよ」

『ありがとう! 斯波が参加してくれれば心強いわ。志願手続きはあたしの方でやっておくね! 一緒に頑張ろうね!』

 

 ぱっと表情が明るくなった紗季が繰り返し礼を言い、締め切りまで勧誘を続けるからと言ってコネクトを終了させるとリビングに静けさの幕が下りた。ユキトは口角が下がった潤をちらとうかがい、左手指先でジーンズのポケットをもぞもぞいじりながら言い訳がましく紗季の言葉を借りた。

 

「……やる価値があることなんだよね……」

「そうね」

 

 予想以上に素っ気ない声にユキトは鼻白み、両手をうろたえさせながら機嫌を取ろうとした。

 

「も、もし例のコネクトが救助隊からで、無事にリアル復活できたら一緒に遊びに行こうよ。住んでいるところが離れていてもワールドにトべばすぐに会えるんだし。ユニバーサル・ワールド・リゾートとかジャンクリラ・タウンとかどうかな?」

「……そうね。それもいいかもしれないわね……」

 

 潤は切れ長の目の端にユキトを映し、ワンピースの裾を揺らしてソファから立ち上がると、右斜め前の引き戸を見た。

 

「……そろそろ帰るわ。さっきも言ったようにあまり体調が良くないから」

「う、うん。あの、調子が悪いなら医療アプリ――〈ドクター・メディカ〉に診てもらったら? 陰気な女医キャラだけど、やぶじゃないらしいから」

「平気よ。そんなものの世話になる必要は無いわ」

「そう……送ろうか?」

「大丈夫。それじゃ」

 

 見上げる相手を一瞥した潤は引き戸を開けて照明がついていないダイニングに出、見送りに玄関まで来たユキトの前でスリッパを脱いで靴に履き替えると、玄関ドアを開けてさっさと出て行った。

 

「……何なんだよ……」

 

 いら立ちと不安を覚えてつぶやき、ユキトは薄暗いダイニングで立ち尽くした。

 

「……何が気に入らないのか知らないけど……ともあれ、これで僕も調査隊の一員か……謎のコネクト、救助隊からであって欲しいな」

 

 ひとりごち、玄関ドアに鍵をかけたユキトはリビングに戻ってソファに腰を下ろし、そのままごろっと横になった。ナックル・ガントレットをはめた右腕を腹の上に置き、左手を奥二重の目の上に乗せて潤や謎のコネクト、調査隊のことなどあれこれ考えているうち、昼間の狩りの疲れと夕食で満たされた胃袋が少年を眠りへと引きずり込んでいった。