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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.25 アンノウン(5)

 第13回 運営委員会会議 議事録

 

 日時:テンペスト・ライフ 171日目 10:00~11:00

 

 場所:運営委員会事務所 3階会議室

 

 [出席者]

 新田公仁(コミュニティ・リーダー)

 後藤アンジェラ(サブ・リーダー兼情報マネージャー)

 佐伯修爾(軍務マネージャー)

 篠沢・エリサ・紗季(法務マネージャー)

 里見実央(総務マネージャー)

 鎌田キヨシ(財務マネージャー)

 川瀬慶之(労務マネージャー)

 

 葉エリー(書記)



 [議題]

 昨夜着信した謎のコネクトへの対応について

 

「ボイス・コネクトの発信者、確かめる必要があるんじゃないだろうか?」

 

 開会の挨拶の後、新田は議長席から制服と私服が入り交じる出席者たちへ単刀直入に問うた。このところ曇天続きだった顔の雲間からうっすら陽が差し、目元や口角にたまっていた陰りが薄れている。新田の隣ではボイスレコーダーアプリ『みみガー』を起動させたエリーが黙考する後藤と佐伯、紗季と川瀬、そして一身上の都合を理由にいきなり辞任したジョアンの代わりにルルりんキングダムに貢献する商才を買われて抜擢された鎌田、罷免されたクォンの後任として総務マネジメント局内から選ばれた里見実央みおという丸顔の少女に緊張した小さな目を転々とさせ、その頭上ではワンが黄金こがね色に光りながら会議室を俯瞰していた。

 

「……一部で言われているように、救助が来たって可能性もあると思うんだよ」新田は、まどろっこしげに語りかけた。「声はよく聞き取れないが、俺たちを捜して呼んでいるような気がするんだ」

「思い込みは禁物です」後藤が、横からすっと意見する。「モンスターによる罠かもしれません。――どうなの、ワン?」

『それはございません。アプリケーションを使えるのは人間だけです。仮に外部から侵入した人間がいれば、自動的にあなた方と同じ設定になってコネクト等を使うことができるでしょう』

「……相手が何者なのか、どうしても教えてくれないのか……?」

『何度も申し上げましたようにお教えできません、新田公仁。ご自分たちで確認なさって下さい』

「相手が人間なら――」学生服姿の紗季がワンをにらみ、テーブルの上で両こぶしをぎゅっと固める。「テラ・イセク戦時の大流動に飲まれて行方不明になったメンバーの可能性もありますよね。あたしは、調査隊を出して確かめるべきだと思います」

「簡単に言うが、今の我々のレベルでは相当なリスクが伴うのだぞ」

 

 がっちり腕組みした佐伯が、斜向かいの紗季に厳しいまなざしを向ける。警備隊の黒い隊服を着たその姿は、コの字に並ぶテーブルの一角に動かし難い重みで座している。佐伯はヘブンズ・アイズを開いて遺跡と北北西の山地が収まるように縮尺を調節し、両手の指を組んでテーブルの上に重々しく置いた。

 

「――この遺跡からコネクト発信地点と思われる山との間には岩石砂漠とステップが広がり、森が行く手を阻んでいる。流動で新たに形成されたフィールドは警備隊が調査して報告書を委員会に提出しているのは皆も知っての通り。調査によれば、このエリア――とくに森はレベルの高いモンスターが数多く生息する危険地帯。その森を踏破した先の山地にも多数のモンスターがいるのは、ヘブンズ・アイズで一目瞭然」

 

 佐伯は出席者たちがそれぞれヘブンズ・アイズを開き、森や未踏で漠然としか表示されない山地が赤い光点でびっしりなのを見て深刻な表情になるのを確かめ、続けた。

 

「――我々の調査隊が3分の1ほど入ったところで引き返している森を抜け、標高600メートル以上ある山に登って発信者を確かめる……その間、遺跡の防衛能力が落ちることも併せて考えれば、慎重にならざるを得ないのは当然だ」

「だけど、行方不明の仲間か……もしかしたら救助隊かもしれないんだぞ?」

 

 顔に暗雲を漂わせる新田がやや語気を強め、3Dマップ上の山を指差す。

 

「――救助隊が、ここにジャンプして来たのかもしれない。接触できれば、リアルに戻ることができるかもしれないじゃないか?」

「それは――」後藤が、メガネレンズ越しに新田を見つめる。「可能性の一つに過ぎません」

 

 後藤は続けて、命を危険にさらさせてまで調査隊を出すべきか否か冷静に検討しなければいけないといさめた。

 

「――私は、正直反対です。どうも嫌な予感がします」

「予感?……君はそんなあいまいなもので判断するのか? 確かに危険はあるのだろうが、俺は篠沢さんが言うように調査隊を出すべきだと思う。何なら俺が行ってもいい」

「必要ならあたしも行きます」と紗季。「皆さんはどう思います?」

 

 紗季は隣で両手の指を絡ませている鎌田や向かい側で眉を八の字にする川瀬、その横でうんうんうなずいている里見に意見を求めた。

 

「……一つ聞きたいんですけど――」川瀬が、上目遣いに新田を見る。「もし調査隊を出すとしたら、どのくらいの人数をいつ出すことになるんですかね……?」

「俺は、すぐにでも派遣したいと思っている。人数は決めていないが、モンスターが巣食う森を踏破して山に登れるだけの戦力をそろえる必要があるだろう」

「そうですか……そうなると、ワークプランをかなり作り直さなきゃいけないですね……」

 

 下膨れ顔が、面倒臭そうにゆがむ。コミュニティ・メンバーの労働計画書――ワークプラン作成責任者の川瀬は、急きょ調査隊が編成されることでプランを修正しなければならなくなるのが嫌なのである。プランはある程度アプリで作成できるが、人間関係などに配慮した細かい調整は行わなければならない。チーム編成についてたびたびクレームを受けている川瀬は、作成に神経を使っているのだ。しかし、そんな発言はリアル復活を切望する新田をいたずらにいらつかせた。

 

「ワークプラン? 川瀬君、君はそっちの方が大事なのか? リアルに戻れるかもしれないのに?」

「い、いいえ、別にそういう訳じゃ……」

「まあまあ、落ち着いて下さいよ。ねっ?」愛想笑いをたたえ、里見がなだめる。「新田リーダーのお気持ちはよく分かりますよ、うん。でも、佐伯マネージャーや後藤マネージャーがおっしゃることも、もっともだなってわたし思います。難しいですよね、うん。――鎌田マネージャーは、どうお考えですか?」

 

 振られた鎌田はまぶたを下げてジト目を細め、しがみつき合うような指をうごめかせた。

 

「……正直、答えに窮しますね。リスクを冒すより今のままが良いと考えるメンバーもいるでしょうし」

 

 それは、本音が垣間見える発言だった。ルルフに取り込まれた鎌田には、リアルに戻れば自分たちの世界が壊れてしまうという気がしていた。

 

「……そんなバカな話があるものか! 誰だってリアルに戻りたいに決まっているじゃないか!」

「そうとは限りませんよ」

 

 後藤がブリッジに右手人差し指を当ててメガネをずり上げ、リアルよりもここでの暮らしに満足を覚える者が少なくないと指摘した。

 

「――リアルでは底辺でも、ここでは狩りでポイントをたくさん稼いで豊かに暮らしているメンバーが少なからずいます。その中にこちらの方が良いと考える者がいるのは自然なことです。それに、お忘れかもしれませんが、独り暮らしや引きこもりなどが原因で発見が遅れ、適切な生命維持措置を受けられずにリアルボディが使い物にならなくなったかもしれないメンバーもいるのです。そうした者たちは、リアルへの執着が無いでしょうね」

「……だけど、ほとんどはリアル復活を望んでいるはずだ! 家族や友人、恋人に会いたいって願っているはずだッ!――」

 

 バンッとテーブルを両手で叩いて立ち上がった新田は身を乗り出し、隣席のエリーにびっくりした目で見上げられながら断固とした口調で言った。

 

「――俺はリーダーとして調査隊派遣を決定したい! 例え危険が伴うとしても、それが大多数の利益になると信じているからだ!」

 

 異論を許さない剣幕に場が静まり返る。会議はあくまで形式的なもの――左手薬指にマリッジリングをはめている新田の中では、最初から絶対に譲れない結論が出ていたのだ。

 

「……リーダーがそうまでおっしゃるのであれば、もう何も申しません。協力させていただきます」

 

 微かな冷たさを帯びた後藤の発言をきっかけに鎌田、川瀬、里見たちは仕方なさそうに、あるいは渋々同意したが、佐伯だけは両手指を固く組み合わせたまま新田を見据え、間合いに踏み込む口調で呼んだ。

 

「何か意見があるのか、佐伯マネージャー?」

「いいえ。自分もリーダーに従います。ただ、調査隊派遣を提案し、強引に決定したのがご自分だということは忘れないで下さい」

「……責任は取るよ。調査隊の指揮も俺が執る」

 

 佐伯を見返して言い、新田は会議をぎくしゃくと進行させて調査隊の編成方法や調査日程等を決めていった。