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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.25 アンノウン(4)

「かしこまりました」鎌田が神妙にうなずく。「StoreZに〈GOULDグールド〉ってカーショップがありますから、そこでルルりんにふさわしいラグジュアリーカーを購入しましょう」

「オーダーメイドじゃないとダメだよ。既成品はルルにふさわしくないから」

「オーダーメイドですか? ちょっと待って下さい……」

 

 鎌田がStoreZからGOULDにアクセスすると、問い合わせを受けてマスコットガールのミセっちがだるそうに現れる。

 

『――オーダーメイドでも何でもできるよ。その分ポイントはかかるけどね。で、どんなのが希望なわけ?』

「パレード車よ」

 

 ルルフは回転椅子を回して身を乗り出し、鎌田の前に浮かぶ手の平大の少女をきらめき潤む瞳で見据えた。

 

「――ルルがデザインするから、それを元に造って。それくらいできるんでしょ?」

『まぁね。けど、大したもんね。パレード車なんて』

 

 ルルフは後でデザインを見せると言ってミセっちを引っ込ませ、空いている左手の人差し指を鼻歌交じりに動かして宙にスケッチした。

 

「ルルりん、マルチクリエイターですねッッ! どんなすごいものができるのかッ、ときめきMAXですッッッ!」

「天使が創造する唯一無二の芸術品が、地上に姿を現そうとしているのですからね!」

「ぼ、僕も……――」

 

 左右の2人に熱せられ、正面のルルフに照らされたユキトは、のぼせた声で追従した。

 

「――僕も、すごく楽しみです。どんな車なのか……」

「ふふ、期待しててよ。ルルにふさわしいハイパーなものを造ってもらっちゃうから」

 

 ルルフはドリンクの残りを一気に飲み干し、空になったペットボトルが右手から消えると足を組んでふんぞり返った。

 

「ライブをやる度にルルラーが増え、プリティ・ルルの売り上げは右肩上がり。順風満帆だね。これならルルもどんどん輝けるわ」

「はいッッ! どんどん輝いて下さいッ、ルルりんッッ! 目も眩まんばかりに輝きまくってッ、俺たちの太陽になっちゃって下さいッッッ!」

 

 北倉が二つの拳固を高く突き上げたとき、それぞれの前でテクノポップなコール音とともにコネクトが開いて着信を知らせる。だが、ウインドウには相手の名前が表示されずUnknownとなっていた。

 

「……何、この『Unknown』って?」とルルフ。

「未登録の相手か、通信環境が悪くて相手を判別できない以外ではUnknown表示は出ないはずですがね……」

 

 鎌田が首を傾げ、ヘブンズ・アイズを開く。コネクトとヘブンズ・アイズを連携させて発信地点を調べると、遺跡の北北西約40キロ――岩石砂漠とステップ、森を抜けた先にある山地に微かな反応が見られる。いただきに近いそのポイントの数百メートル四方の空間は台風の目のようにほとんど乱れることなく安定しており、流動の影響を受けにくいフェイス・スポットらしかった。

 

「――こんなところからコネクト? いったい誰が?」

「音声オンリーのボイス・コネクト……気味が悪いけど気になるわね。――ユッキー、応答してみてよ」

「えっ? 僕?」

「そうだなッ! 斯波、出てみろッ!」

「怖がらなくてもいいさ。音声だけなんだから、応答した途端恐ろしい映像が目に飛び込んで来たりはしないだろう」

「……変なものが聞こえるかもしれないじゃないですか……分かりましたよ」

 

 仕方なく、ユキトは執拗な着信コールにおっかなびっくり応答した。すると、『VOICE ONLY』と表示された画面からザーッという音が聞こえてきた。

 

「……ノイズ音しか聞こえないみたいですけど……」

「もしかして故障かッ? ワンを呼び出して聞いてみるかッ?」

「つまんないなぁ。刺激的なのを期待してたのにぃ」

「しっ!」鎌田が人差し指を立てる。「何か聞こえます。――ボリュームを上げて」

 

 音量が上がると砂嵐然とした音が高くなり、それに混じって微かに人の声のようなものが聞こえる。いぶかるルルフたちもそれぞれ応答して耳をそばだててみたが、まともに聞き取ることはできなかった。

 

「……何となくですけどッ、呼びかけているみたいじゃないですかッ、ルルりんッ?」

「うーん、よく分からないなあ……――どう思う、ユッキー?」

「さあ……」

 

 困惑するユキトの横で鎌田が外にいるルルりんキングダムメンバーにコネクトすると、自分たち以外にもこの奇妙なコネクトが入ってちょっとした騒ぎになっていると分かった。

 

「……何なの、これ。不気味ねえ」

 

 ルルフが気味悪がりながら面白がる。じっと耳を澄ましていたユキトは、ある可能性に思い当って、はっと目を見開いた。

 

「もしかして、助けが来たんじゃないですか?」

「助けだってッッ?」

「そうですよ! だって、このゾーンにいるのは僕たちだけですよね? だったら、ワールド・ポリスとかがここを発見して救助に来たのかもしれませんよ! テンペスト2.0への侵入に成功して、僕らと同じ設定になってコネクトを使っているのかも!」

 

 興奮し、ユキトは願望に基づく推測を熱っぽく語った。確かに呼びかけるような声がそうである可能性も無くはなかった。

 

(――きっと、そうだ! これで……これでこの呪いから解放されるかもしれない……!)

 

 鋼の右腕を左手でつかみ、ユキトはUnknownの正体について意見を交わす周りをよそに微かな希望に浮かれていた。