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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.25 アンノウン(3)

 山が隆起するかのような興奮の大津波――ステージへドオオッッと押し寄せ、波頭を砕き続ける熱狂のウェーブ――喉を激しく震わせての喝采、手の骨にひびが入らんばかりの拍手を重ねて沸き返るペンライトの海原へエレガントにお辞儀をし、翼状のツインテールをきらめかせてルルフはシャンパンゴールド――ビスチェタイプのショートドレス姿を舞台袖に引っ込ませ、鼻の穴を膨らませて感涙にむせぶ北倉ロベルト、ジト目をぱっちり見開いて感激に震える鎌田キヨシ、そしてその間で口元を緩めてまばゆい艶姿あですがたに見とれるユキトに熱い拍手で迎えられた。

 

「――すごいッッッ! ルルりんッッ、すご過ぎですゥッッッ!」

 

 ゴリラのドラミングさながらに、北倉が両こぶしを振る。

 

「――この感激はッ、とても言葉では言い表せませんッッッ! これでまたルルラーが増えるのは間違いありませんよッッッッ!」

「さすがはルルりん! 古今東西のDIVAディーヴァを超越したパフォーマンス! 聴衆のみならず世界そのものを絶頂に導く圧倒的なパワー! 天使から神に一歩一歩近付く奇跡を間近で見る、これ以上の幸福はありませんッ!――そうだろう、斯波君?」

「は、はい……最高、でした……」

 

 北倉、鎌田等とおそろいのルルりんキングダム公式半袖Tシャツを着、プラチナのバッジを左胸に付けたユキトは呆けた調子でうなずいた。ライトが照らすステージを背に薄暗い舞台袖に立つルルフは存在の輝きを少年に見せつけ、呪わしいデモン・カーズのことをすっかり忘れさせていた。

 

「うふふ……ありがと、ユッキー♥」

 

 なまめかしく微笑み、ワイン色のショートブーツを進めて近寄られると、かぐわしい汗の匂いが鼻奥に満ち、ユキトを陶然とさせる。

 

(……し、しっかりしなきゃ……僕は、潜入捜査でここにいるんだぞ……)

 

 魂ごとさらってしまいそうな魅力に奥歯をかみ締め、ナックル・ガントレットをはめた右手でこぶしを作って目をバチ、バチッと瞬いたユキトは、北倉たちに続いて揺れるツインテールの後を奴隷のような足取りで付いて行った。ルルフが階段を下りて光あふれる楽屋に入り、回転椅子に腰かけてドレッサーの鏡に正面を映すと、3人は少し離れて横に整列し、ツインテールの天使がイジゲンポケットから取り出した500ミリリットルのペットボトルの口に赤く熟れた唇を付けてごくごく飲む様をうっとり鑑賞した。

 

「それで――」

 

 唇を離し、ルルフは顔を横に傾けた。

 

「――どんな感じでさばけてる?」

「すごい勢いですよ、ルルりん!」

 

 鎌田が手早くグッズショップ『プリティ・ルル』の管理画面を開き、ウインドウをルルフ側に回転させる。そこでは購入履歴が続々更新され、グッズ類が飛ぶように売れていることが示されていた。

 

「――今回のライブ〈ツインテール・トリップ〉の興奮が、購買意欲を激しく刺激しているんです。メディアプレイヤーアプリ〈medikoメディコ〉用の新曲のミュージック・ビデオはもちろん、ライブに合わせて発売した限定フィギュアやポスター、トレーディングカードもボックス単位でどんどん売れていますよ!」

「俺もッ、特典で直筆サイン入り生写真が付く5ボックスセットを速攻で10個購入しましたよッッ!」

 

 北倉が出現させたボックスの山を両手で抱えて見せ、隣のユキトをじろっとにらむ。

 

「――おい、斯波ッ! お前も当然ボックス買いしたんだろッッ?」

「あ、も、もちろんです!」

 

 吠えるような問いにユキトは気持ち身を引き、イジゲンポケットに収納されているグッズの数々を思い浮かべた。

 ルルりんキングダムの主な評価基準は、プリティ・ルルでの購入額。

 それを肝に銘じているルルラーには今のランクから落ちないよう、ランクアップして少しでもルルフに近付けるようにと狩りや仕事で稼いだポイントをつぎ込ませ、ファン未満の者たちにはコネクトでプロモーション・ビデオを送り付け、参加無料のライブに足を運ばせてとりこにする――商才に長けた鎌田が構築したビジネスモデルは、外注しているグッズ類の製作等にかかる経費を差し引いてなおかなりの利益を出していた。

 

「世の中、シビアだからね」

 

 冷ややかに細められたジト目でユキトを斜に見、鎌田がきざっぽく言う。

 

「――ルルりんの特別な計らいで僕らと同じプラチナクラスになったとはいえ、うかうかしていると今の地位を失いかねないよ。気を付けるんだね」

「はい、頑張ります。ルルりんのために」

「ふふ、期待してるよ、ユッキー。狩りでいっぱい、いーっぱい稼いでたくさんお買い物してね~――ところでカマック、また近いうちにライブやるからね」

「は、はい。気合入っていますね」

「当たり前よ。もっとポ――ファンのみんなに感動してもらいたいからね。あと、商品の値段を少し見直してもらえるかな。ルルがハイパーになればなるほど価値は増すはずでしょ?」

「さすがは聡明なルルりん! かしこまりました。すぐに値上げしましょう!」

「お願いね。それと~ルル、車が欲しいな~」

「車ですかッッ?」

「そう」ペットボトルを持った右手が、軽く振り上げられる。「徒歩移動なんてありえないでしょ? ハイパーアイドルならハイパーな車で送迎されて当然じゃない?」

「はいッ、もちろんですッッ! ああッッ! どうして今までこんなことに気付かなかったのかッッッ! 申し訳ありませんッ、ルルりんッッ!」

 

 北倉がマッチョな体をよじり、悔恨で割れそうな顔を両手でわしづかみにして涙する。ルルフの家――ルルフパレスとここルルりんシアターとは200メートルくらいしか離れていないのだが、その程度の距離でも歩いて移動するなんてそぐわないとルルフは主張しているのだ。