陰りを帯びた陽に照らされ、不穏なさざ波を立てる砂の海原……スポーツサンダルを履いた足ではかなげな砂を踏み、ぼさぼさ髪を微かに逆立てながらバイオレントⅣを握って脇に下げるシン、その近くで不安げに顔を曇らせて座るジュリアにざらついた砂色のゆがみから近付く、
「お前ら、こんなところで何をしている?」
数メートル隔てて矢萩が足を止め、自分より4,5歳年下のシンとジュリアに傲然と問う。その左右では、矢萩三人衆――真木カズキ、中塚崇史、入谷玲莉が下卑たにやにや顔を並べている。彼等はヘブンズ・アイズの位置検索機能を使って2人がいる場所を特定し、やって来たのだった。
「決まってるじゃないですか、矢萩さん」中塚が濃い眉をくねらせ、卑猥ににやつく。「こいつらは野良猫とかと同じ。食って寝て、ヤるしか頭にないんですから」
「やだ、キモォッ!」
入谷が気持ち悪げに身震いし、中塚の右上腕をバシッと叩く。
「――想像しちゃったじゃん! やめてよね~!」
「くくっ……」
むっつりの真木が口角をつり上げてせせら笑うと、入谷は矢萩越しに「あんた、何想像してんのよ~」とアヒル口で突っ込んだ。
「そういうことかよ、イジンども」
矢萩は嘲笑し、シンの陰でおびえているジュリアを
「――この体は基本的にリアルボディと変わらないから、セックスでも何でもできるものな。ふふん……」
「ナンなんだよ、テメーらッ!」
「『ナンなんだよ、テメーらッ!』」
すごみを利かせたシンを入谷が真似して小馬鹿にし、仲間たちの笑いを誘う。数の上で優位に立つ者たちは醜悪な幼稚さを相乗的に増幅させ、標的を見据えて舌なめずりした。そして、矢萩が黒マントからのぞく腕を胸で組み、あごを少し上げ、肩を怒らせて答える。
「見回りだ」
「みまわりィ?」
「最近、合成麻薬SOMAが闇で出回っているからな。あれは、使い過ぎるとアストラルがダメージを受け、最悪廃人になる危険な代物だ」
「まぁ、バカな連中がどうなろうと、アタシらは別にいいんだけどさ~」
入谷がマスカラで刺々しいまつ毛を向けて言い、真木がその後を低くこもった声で「……だけど、警備隊の職務上、取り締まらなければならない……」と引き取る。
「そういうこと」
中塚が、パチッと指を鳴らす。
「――さぁて、じゃ、まずお前らのイジゲンポケットを調べるぞ。収納リストをこっちに見えるように表示しろ。それから、服を残らず脱いで裸になってもらおうか」
「ああッ?」
シンが吠えると、中塚はおびえたふりをして受けを狙う。応じる醜い笑いの重なりにむかれる牙をにらみ、ジュリアをぬめっと眺めて、矢萩は居丈高に命じた。
「さっさと素っ裸になれ! 汚い体の隅々まで調べてやるよ!」
「ザケんなッッ!」
「シ、シンちゃー……」
「さがってろッ!――」
おびえるジュリアに指示するや、シンはバッと両手でバイオレントⅣを構えて矢萩の黒い胸に狙いを付け、トリガーに指をかけた。
「!――警備隊に逆らうつもりかッ! どうなるか、分かってんだろうなッ!」
「うるせえ、パーマザルッ!」
一撃必殺の気を発するシンに、矢萩の目元が引きつる。バリアがあるとはいえ、戦闘スキルを上げ、ポイントを使って武器を強化しているであろう銃撃をまともに食らったら、それなりの衝撃――もしかしたらバリアを貫通してかなりのダメージを負うかもしれない。徒党を組んで気が大きくなり、得物を手にしてさえいなかった矢萩たちは、自分たちの油断を悔みながら対峙した。砂っぽい空間がうねり、こう着した少年少女たちの周りで起伏した砂砂漠が波立つ。
「……ふふん……!」
流動でマントの裾を揺らす矢萩が強がった笑いを浮かべ、馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの顔をする。
「――ムキになりやがって。どうせ、お前らみたいなガキは、SOMAよりママのおっぱいが好きなんだろ。――なぁ?」
振られた中塚たちがうなずき、疑うだけ時間の無駄とか、本気にしてバカみたいと嘲って
「ゴチャゴチャうるせーんだよッ! とっとと、うせやがれッッ!」
「ふん、いきがりやがって。今日のところは許してやるが、いつまでも生意気な口が利けると思うなよ。貴様のようなクソには、そのうちしかるべき罰を与えてやるからな。――帰るぞ」
吐き捨てた矢萩は黒マントを翻らせて背を向けると、自分たちの足跡をたどって遺跡の方へ歩き出し、三人衆が薄ら笑いや捨て台詞を残してその後に続く。影たちが像をゆがめながら遠ざかり、ぼんやりとした染みになったところでシンはようやく撃鉄を戻し、バイオレントⅣを下ろした。
「ベぇー、だっ!」
緊張から解放されたジュリアが、彼方の染みに舌を突き出す。それをよそにシンはひどく冷めた顔でバイオレントⅣを消し、カーゴパンツのポケットに両手を深く突っ込むと、矢萩たちの足跡を避けてふらっと歩き出した。
「あっ、まってよ、シンちゃー!」
「……そばにくんな……!」
「えっ……?」
「……ワリぃ……しばらくひとりにしてくれ……」
困惑しながらジュリアは従い、少し間を空けて後ろをとぼとぼ歩いた。足元に取り憑いた影に目を落としたシンは