REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.23 ツインテール・エクスタシー(4)

 

(――!)

 

 そのとき――今にもステージに飛び上がりそうな姿を目にしたユキトは、ルルフを守らなければという熱っぽい衝動に駆られて飛び出し、斜め前からタックルしてドッと地面に倒した。

 

「……ユ、ユキトっ……!」

「……ジョ、ジョアン……」

 

 恨めしそうな目にはっとしたユキトをどかし、北倉たちルル・ガーディアンズが抵抗するジョアンを押さえ付け、舞台袖から小走りに出て来た鎌田がルルフを守らんとそばに付く。観衆は突然のハプニングにざわめき、背伸びしたり体を左右に動かしたりしてステージ前をうかがった。

 

「――貴ッッ様ァァァァァァ――! 神聖なライブをぶち壊すつもりかァァァァ――!」

『待って、ロベー』

 

 怒り心頭の北倉が横腹を蹴ろうとするのを、ステージのへりに立ったルルフが止める。

 

「しッ、しかしッ、こいつは制止を振り切ってステージに駆け寄ったんですよッッ! またルルりんを襲うつもりだったに違いありませんッッッ!」

「襲ったりなんかするもんかッ!」

 

 腹這いにされ、両手両足をガーディアンたちに押さえ付けられたジョアンが叫ぶ。

 

「――ボクは話を聞いてもらいたかっただけだッ! コネクトは拒否される、近付こうにも外に出て来ないんじゃ、ライブのときしかないじゃないかッ!」

『しつこいんだね……』

 

 うっとうしげにため息をついてルルフは立ち上がり、注目する観衆に切なげな表情で向き直ると、ツインテールを揺らしてぺこりと頭を下げた。

 

『皆さん、ごめんなさい。彼は、ルルが自分の言いなりにならないのが気に入らないんです。それで嫌がらせにこんな騒ぎを……本当にごめんなさい』

 

 会場からルルフへの同情とジョアンへの激しい非難が沸き起こる。観衆を味方につけたルルフはほくそ笑み、ステージ上から余裕たっぷりに無様な拘束者を見下ろした。

 

『ま、これも、ものすごーく好意的に解釈すればルルのためを思ってなんだろうけど、ライブを妨害してくれちゃったペナルティはどうしようかな~』

 

 そして、ぼう然と立っているユキトにいたずらっぽい目をやり、右手を挙げて振り、観衆を見渡して声高に宣言したのは――

 

『皆さ~ん、ここでスペシャル・イベントでーす! この闖入者とルルりんキングダム期待の星、ユッキーが戦いまーす!』

「……えッ? え? ええッ? ぼっ、僕が戦う?」

『そうよ。ルルラーなら、お仕置きを手伝ってくれなくちゃ』

 

 そして、捕らえた獲物を弄ぶまなざしが、ジョアンを斜に見下ろす。

 

『――罰としてみんなを楽しませてよ。勝ったら、話とやらを聞いてあげなくもないわ』

「……本当だね……」

 

 拒めば叩き出されるだけのジョアンはあいまいな口約束にすがり、ガーディアンたちに解放されて立ち上がった。一方のユキトも機嫌を損ねて捜査に支障が出るのを避けたい気持ちと、彼女がもたらした微熱に操られて動いた。

 

「……ジョアン……」

 

 ステージ前でジョアンと対峙するユキト。ルルフが鎌田に促されて下がり、ルル・ガーディアンズの誘導で観客の潮が引いて、戦いのスペースが作られる。

 

「……ユキト、悪いけどserious battleさせてもらうよ……!」

「く……」

 

 腹を決め、腰を入れて身構えるジョアンにユキトは下唇をかみ、鋼の右こぶしを上げ、いまいち気合の入らないファイティング・ポーズを取ってナックルダスターを見せつけた。褐色の右手の平でボオッと火が生まれ、炎の玉になって低いうなりを上げる。

 

『一本勝負よ。先にダウンした方が負け』

 

 ルルフの右手が、高々と挙がる。

 

『――ファイト、スタートっ!』

 

 かけ声とともに右手がギロチンのように落ち、突き出されたジョアンの右手からバスケットボール大の炎――ファイヤー・ブリッドがドッッと相手へ飛ぶ。

 

「――くッ!」

 

 横に跳んだユキトを追って、炎の弾がグゥンッと軌道を変える。驚きつつナックルダスターでボォンッと殴り散らすと、3発のファイヤー・ブリッドがたたみかけて左肩とナックル・ガントレットに当たり、『Pretty Angel』の金文字を焦がして吹っ飛ばす。ファイヤー・ブリッドをコントロールできるようになっていたジョアンは、フェイントやトリッキーな動きで惑わして被弾させ、そのたびに観衆から激しいブーイングを浴びた。

 

「――ジョアン……! だけどッ!」

 

 ナックル・ガントレットの下で右腕が熱くなり、デモニック・バースト発動――血肉が燃え上がる。

 

「――ォォッ!」

 

 ボォオン!――と強度が増したバリアで炎の弾をはじき、一気に間合いを詰めたユキトから繰り出された光のこぶしがドレスシャツの胸にドォンッと炸裂する。

 

 時間にすれば、ほんの数秒――

 

 優勢と思える状況から一転、スペシャル・スキル〈ブレイキング・ソウル〉を食らったジョアンは体を折り曲げて後ろに飛び、地面に背中をしたたか打ち付けてうめいた。

 

『――ユッキー、WINッ!』

 

 ルルフが満面の笑みで手を叩き、会場から拍手喝采が起こる。見回して戸惑うユキトは起き上がろうとしているジョアンに気付き、手を貸さなければと申し訳なさそうな顔で近付いた。

 

「……だ、大丈夫か、ジョア――」

 

 遠慮がちに差し出した鋼の右手を、熱を帯びた褐色の手がバシッとはじく。がく然とするユキトと目を合わせずにジョアンは立ち上がり、屈辱やら怒りやらでねじれ、歯ぎしりする顔を伏せると、バッと身を翻して会場の外へ走り出した。

 

「あッ、ジョ――」

「よくやったなァァ! 斯波ァァァ!」

 

 遮った北倉が両肩をガシッとつかんで感動し、ステージ前方に立つルルフとその斜め後ろに控える鎌田が拍手を送る。

 

『さっすがユッキー! ハイパーにカッコ良かったよー!』

「やるじゃないか。僕も多少は認めざるを得ないね」

『みんなぁ! もう一度ユッキーに大きな拍手をお願いしまぁーす!』

 

 再び会場から起こる、割れんばかりの拍手。耳をろうする音と数多あまたの熱視線は、ジョアンを気にするユキトを見えない渦に引き込み、その場に足止めした。

 

(……どうして、こんなことに……)

 

 仲間の姿を見失った目に半分まぶたを下ろし、ユキトは独りぼう然と立ち尽くしていた。