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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.23 ツインテール・エクスタシー(1)

 

 ――告知――

 

 高峰ルルフ LIVE 『ツインテール・エクスタシー』 

 

 テンペスト・ライフ 156日目 

 

 場所 屋外特設ステージ・ルルりんシアター(ルルフパレスそば)

 

 OPEN 18:00 /START 19:00

 

 入場無料

 

 ハーモニーのアイドル高峰ルルフが、ルルりんシアターに降臨! エクスタシーに導く天使の歌声をお聞かせ致します! ぜひお誘い合わせの上、ご来場下さい!

 

 お問い合わせ ルルりんキングダム ライブ運営チーム

「……ルルりんシアター、ライトアップされると、ずいぶん派手になるんだな……」

 

 夕日が燃え尽きて没し、宵が闇を濃くしていく時分、ユキトは地面に設置されたガーデンライトと案内係の腕章を付けて立つ『Pretty Angel』金文字入り半袖Tシャツ姿を目印にオープン間も無いライブ会場に着き、ルルフパレスのほど近くに建てられた屋外特設ステージに目を見張った。ヴェルサイユ宮殿に代表されるバロック建築風――荘厳さを志向し、全体を細かな彫刻で執拗に装飾した建物が、下からライトアップされて燦然さんぜん、そして高慢に存在を主張している。

 メインステージは、学園祭などで使われるものと同サイズ。そこにライトが取り付けられたバックイントレ、スピーカーが設置されたサイドイントレ及び舞台袖がセット。委員会に事前提出された届によれば、バックステージにはパウダールーム付属のルルフ専用楽屋もあるという。このステージは、日本ビジュアルアカデミー在籍の鎌田がリーダーを務めるライブ運営チームが、テルマエランドやとなが食堂を販売したStoreZ出店の建築ショップ〈ダイダロス組〉にオーダーメイドで造らせたもの。

 

「……はぁ……」

 

 豪華な威容に圧倒されたユキトは周囲に目を転じ、ステージ前に整然と横列おうれつに並ぶ100人ほどを眺め、狩りや仕事が終わってばらばら駆けつける者たちの気配に振り返り、自分が彼、彼女たちとおそろいで着ているルルりんキングダム公式半袖Tシャツと胸に付けたシルバーのバッジを恥ずかしそうに見て、とんだことになったなと人知れずため息をついた。

 

「……いくら任務とはいえ、僕はそういうキャラじゃないんだけどなぁ……――」

 

 ――遡ること2日前――

 

 佐伯から呼び出しを受けたユキトは、警備隊隊長室を兼ねる軍務マネージャー室でルルりんキングダムへの潜入捜査を命じられた。

 

 ――ルルりんキングダムが、SOMA密造に関わっているといううわさがある――その真偽を確かめるため、佐伯はルルりんキングダムに登録しているユキトに白羽の矢を立てたのだ。

 

 もちろん、スパイだと疑われる可能性は大いにある。

 

 だが、戦闘スキルが高くてポイントをたくさん稼げる者ならば、彼女は怪しんで排除するよりも取り込もうとするだろう。その誘惑に屈することなく捜査に取り組んでもらいたい――そうした命令を、潤は任務だからと理解して送り出してくれたが、前には『Pretty Angel』の金文字、背にはツインテールを躍らすルルフの金シルエット入りの半袖Tシャツ姿にいい顔はしなかった。

 

「……そもそも、ジョアンに半ば強引に登録されただけなんだよな……そういえば、あいつどうしてるんだろう?」

 

 最近、警備隊がルルりんキングダムを問題視しているので、ユキトは関係者のジョアンと疎遠になっていた。任務とはいえ、こんなのは彼のこともだますようで嫌だなと悩みながらたたずんでいると、人型の怪物オーガを思わせる大男を先頭に、左胸に付けたゴールドバッジの脇に翼と剣をあしらったガーディアンズバッジをプラスした公式半袖Tシャツの一団がずんずん近付いて来た。

 

(――〈ルル・ガーディアンズ〉のリーダー、北倉ロベルト……)

 

 ライブ開始を待つ若者たちが何だろうと目を向ける中、彼等はユキトをグルッと取り囲み、プラチナバッジとガーディアンズバッジを付けた分厚い胸を反らし、ガッチリ腕組みをした北倉が真正面から問い質す。

 

「警備隊の斯波ユキトじゃないかッ! そんな格好で何をしてるんだッ?」

 

 子宮にいるときから筋肉の塊だったのではないかと思えるマッチョに頭の先から公式半袖Tシャツと右腕にはめているナックル・ガントレット、ベージュのチノパンツを経てスニーカーの先まで見下ろされたユキトは落ち着いてコネクトを開き、『ツインテール・エクスタシー』への招待メッセージを提示した。

 

「これが届いたから来たんです。ハーモニーのメンバー全員に送っているんだから、僕が来たっておかしくないでしょう。それに、僕だって一応ルルラーなんですよ」

「それはそうだがッ、何か魂胆があるんじゃないのかッ?」

「そんなものありませんよ」ユキトは表情を暗くし、「僕だって色々あるんです。ルルりんの生歌で癒されたいと思ったっていいでしょう?」と目を伏せてつたない芝居をした。

「ふぅん……」

 

 疑わしげに首を傾けた北倉はコネクトを開き、鎌田、そしてルルフと連絡を取ってユキトのことを相談し、ウインドウに向かって難色を示したり、慌てて媚びたりでれでれしたりした。

 

「……分ッかりましたッ! ルルりんのお申し付け通りに致しますッ! はいッ!」

 

 威勢良く返事をして北倉はコネクトを閉じ、ユキトと目が合うときまり悪そうに咳払いをして、しゃちほこばった。

 

「ルルりんがお呼びだッ! 一緒に楽屋まで来てもらおうッ!」

「楽屋に?」

「特別に歓待して下さるそうだッ! 身に余り過ぎる光栄だなッッ!」

 

 嫉妬混じりの声をぶつけ、「付いて来いッ!」と分厚い背が向けられる。ユキトは囲まれながらシアター横から裏に回り、ガーディアンに警備される楽屋口から北倉に続いて入った。北倉が入ってすぐ左手にあるドアをノックして、連れてまいりましたと報告すると、はずんだ声が中から答える。

 

「はーい、入ってもらってぇ♥」

 

 むすっとした北倉に促されてユキトが横開きのドアを開けると、煌々こうこうとした明かりがハグし、甘い芳香が鼻腔をまさぐってうっとりさせた。

 

「遠慮しないで入って。ドアはちゃんと閉めてね」

「……あ、う、うん」

 

 ドアを閉め、瞬きして光に目を凝らしたユキトは、白革張りの回転椅子から自分を見つめるあでやかな聖天使に息を呑んだ。

 ツインテールの根元を飾る羽毛のシュシュ――張りのある胸の膨らみを強調し、翼を模したリボンをくびれた腰で結び、純白の羽根を集めてしたてられたスカートから理性を溶かしそうな太ももを出すビスチェタイプの白いショートドレス――芸術的な脚線美を損なうことなく納める白のショートブーツ――着飾って映えるルルフは、気を抜けばたちまち吸い込まれそうな瞳でとらえて甘ったるく微笑んだ。頬を緩めて口を半開きにしたユキトは、以前生で見たときよりも一段と魅力を増したブロンド美少女に膝を折りそうになった。