REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.22 甘い腐臭(4)

 

 ――チャームが効かないなんて、とんだ堅物かたぶつだわ。まだカリスマレベルが足りないってことか……――

 

 と、黙考していると、ジョアンが間合いをじりじり詰める態度で遠慮がちに切り出した。

 

「……あのさ、ルルりん……ideaを出した者として色々反省した上で言うんだけどさ、ランキング制度は見直した方がbetterじゃないかな~?」

「んー?」

 

 潤んだ瞳に見つめられた顔が赤くなり、もぞもぞする。

 

「……だってさ、たくさんグッズを買うために高利貸しに手を出したり脱税したりしているメンバーもいるし、今回の事件だって……」

「ジョビーは、ルルが悪いって言いたいの?」

「い、いや、悪いって言うか――」

「シャルマッ! お前はッ、ルルりんをいじめるつもりなのかッッッ!」

「ルルりんが借ポイントしろとか、罪を犯せって命令してるとでも?」

 

 鎌田と北倉がテーブルを回り、ジョアンの左右に立つ。挟まれたジョアンは、裏切り者を責めるように刺さるまなざしにたじろいだものの、くじけずに鎌田のやせ形な体の陰から顔を出して説得を続けた。

 

「購入額でメンバーを差別するのは、かわいそうだと思うんだよ。ポイントを稼ぐ能力は個人差があるし……優劣付けたりしないで、みんなを大切にしようよ」

「ルルは、ポイントで評価します」

 

 優しくかみ切るように言い、ルルフは見据えた。妖艶なまなざしが、捕らえた瞳にクモのごとく見えない糸を巻き付けていく。その甘美な呪縛に固まったジョアンは息をすることさえ忘れたが、バチッと瞬きし、ごくっと唾を飲むと、顔を強引に横へそらして叫んだ。

 

「ポ、ポイントをどれだけつぎ込んだかで評価するなんて、wrongだよッ!」

「シャルマッッ、貴ッッ様ァァッッ!――」

 

 グローブのような手で胸倉をつかまれ、強引に立たされて爪先立つジョアン。つられ、じたばたして逃れようとする無様ぶざま――ルルフは右手で頬杖をつき、我がままパンパンの顔を不機嫌に曇らせた。

 

「グッズをいっぱい買ってくれる人は、それだけルルを豊かにしてくれている。それを評価することの何がいけないのよ?」

「ど、どうしてポイントを基準にするんだよ? どうしても評価したいのなら、人間性とか、もっと色々考慮して……」

「人間性? ふっ、ずいぶん青臭いこと言うんだね。だけど、そんなかすみみたいなものがいくらあっても評価できないよ。必要なのはポイント。これだけ立派な館で何不自由ない生活をさせてくれるポイントが基準なの」

「そうだッッ! ルルりんにたくさん貢ぐ人間が評価されるのは当然だろうがッッ!」

「人間性だの何だのを持ち出すのは、自分の怠慢たいまんをごまかそうとする甘ったれだけだ!」

「そ、そういうmindが、犯罪を助長してるんじゃないのか?――ルルりん、こんなことしていたら、今にきっと罰が当たるよ!」

「何それ? 脅し? ふぅん……ルルを『脅迫』するんだね」

「ち、違うよッ! 目を覚ましてよ、ルルりん! こんなの、ゆがんでるよッ!」

「黙れェッッ!――」

 

 ブオォンン――と、重機を思わせるパワーでぶん投げられ、テーブルの上を飛んで出入り口の引き戸にドッとぶつかり、ドタッと床に倒れて――

 

「……お……oh……」

 

 黒い筋が亀裂のように走る大理石の床に手を突き、乱れた視線をどうにか定める……ジョアンは起き上がり、這い寄ったテーブル越しに訴えた。

 

「……アイドルは、みんなから愛されるようにしなきゃダメだ。ボクが、そうなれるようにmanagementするから……」

「ルルは、ランキング制度をやめる気はないよ」

「ルルりん……!」

 

 いら立つジョアンに、ルルフの奥底から悪意の泡が浮き上がる。チャームに逆らい、価値観を押し付けられたことが、思い知らせてやりたいという残忍な衝動に駆り立てた。

 

「ジョアン、あなたは今から石ころよ」

「は? 石ころって、stone……?」

「石ころクラス――シルバークラスの下、最底辺よ。マネージャーも解任します」

「あはは、石ころ! 最下級の、そのまた下だって!」

「落ちるところまで落ちたなッッ! ざまあないッッ!」

 

 くすくす、けらけら、げらげらと、三者三様の嘲笑になぶられ、ジョアンは顔を青くしたり赤くしたりして、体を小刻みに震わせた。

 

「ふふっ、土下座すれば、許してあげなくもないわよ? どうする?」

「……どうして分かってくれないんだ……ボクは、キミのために言ってるんだぞッ!」

「余計なお世話よ。石ころがルルに意見なんて、身の程知らずもはなはだしいわ」

「――ルッ、ルルフッッ!」

 

 激高してテーブルに飛び乗り、踏み台にして飛びかかろうとするのを横から繰り出された北倉の張り手が阻む。顔面に強烈な一撃をくらい、のけ反りながら吹っ飛んだジョアンは再びぶつかった引き戸を外れさせ、重なって廊下に仰向けに倒れた。

 

「……ル、ルル……」

「――貴ッ様ァッ! 今、何をしようとしたッッ? 何をしようとしたんだァァッッッ!――」

 

 烈火のごとく怒ってマウントを取った北倉が胸倉をつかんでガクガク揺すり、鎌田が「ルルフパレスに傷を付けるなんて……」とジョアンをにらむ。危険を感じたジョアンは右手からボォッと炎を生み出して身を守ろうとしたが、それに先んじて鉄拳が顔面を陥没させんばかりに殴り、意識を破壊する。

 

「……もういいわよ、ロベー。放り出して」

「了解しましたッ、ルルりんッ! 石ころは道端にポイしてやりますよッッ!」

「僕も一緒に行くよ。暴れ出したら厄介だから」

 

 北倉は鼻血が飛び散った半袖Tシャツからプラチナバッジを乱暴に取ると襟首をつかんで引きずり、その後を鎌田が付いて行く。ずるずる引きずられる音が階段を下り、1階の応接間を通って玄関からポーチに出るのをルルフはソファにじっと腰かけたまま聞いていた。

 

「……あんたが悪いんだからね……」

 

 黒レース入りシルバーリボンが飾る胸をムニュッと潰してきつく腕を組み、ルルフはもがくように唇をくねらせた。

 

「……もっと、もっともっとポイントが必要なのよ。パパやママみたいな負け組人生なんて真っ平なんだから……!」