REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.22 甘い腐臭(3)

 

 〈ルルフパレス〉――

 

 ルルりんキングダムのメンバーからポイントを吸い上げ、シャイロック金融から融資を受けて建てられた館――それは、外観も内装も尊大な厳かさをなまめかしい曲線美が装飾する、旭日昇天きょくじつしょうてんの勢いたる新興国の麗しき女王をほうふつとさせるバロック建築風の建物。

 あだっぽくそびえる丸屋根を始めとする屋根はシルバー、外壁は陽を浴びてきらめくシャンパンゴールド。警備を担う〈ルル・ガーディアンズ〉のバッジを左胸に付けたメンバーに守られ、いかめしい金の柵に囲まれ、金の門が来訪者に威容を誇る内側に鮮やかな芝生の庭を持つ延べ床面積約150平方メートル超のポーチ付き2階建ては、室内の床は艶めく大理石、主要な部屋にはきらびやかなシャンデリアがつり下がり、半円型の張り出し部分が1階で応接間の一部、2階ではベランダになっている。

 その宮殿と見まごう館の2階の居間で、定番のロリータ・ワンピース姿をした高峰ルルフはロココ調の高級ソファに悠然と腰かけ、ローズレッドのフリルスカートから出た、思わずむしゃぶりつきたくなるむっちりとした足を組んで、コネクトのウインドウに映る佐伯とスマイルで化粧した顔で相対していた。その前方に向かい合って置かれた応接ソファの片方にはマネージャーのジョアン、もう一方には鎌田キヨシと北倉ロベルトが並んで座っており、3人とも前に『Pretty Angel』の金文字、背中にはツインテールを躍らすルルフの金シルエットが入った半袖Tシャツの左胸にプラチナバッジを付けている。彼等は本日たまたま公休日で、ルルフが警備隊から事情聴取を受けると聞いて同席していた。

 

『――つまり、岸野クラウジオの件に関して、自分たちに責任は無いと言うのだな』

「はいっ♥」

 

 厳しい目付きの佐伯に、ルルフはベランダに続く背後のガラス戸越しに中天へ昇らんとする陽の光を浴びながら愛嬌たっぷりに微笑み、お腹の前で組み合わせた手をこそばゆそうに動かした。

 

「――SOMA密売なんて犯罪に手を染めたのは、彼個人の問題ですよ。ホント、どこから手に入れたんでしょうね~」

『君たちがHALYにリクエストして導入したランキング制度――グッズ購入額に応じてメンバーに順位を付け、プラチナ、ゴールド、シルバーとクラス分けする仕組みが競争をあおり、犯罪を誘発したとは思わないのか?』

「えー? 思いませんよぉ。無関係です~」

「え、Excuse me !」

 

 慌てて右手を挙げたジョアンがソファから腰を浮かして発言を求め、許可されてコネクトに加わると、開口一番謝罪した。

 

「――こちらも反省すべきところは反省します。当コミュニティのメンバーがご迷惑をおかけして、大変申し訳ありませんでした」

「――おいッッ、シャルマッッッ!」

 

 つやつやしたテーブルを挟んだ斜向かいで北倉がぶっとい眉をグワッとつり上げ、ドオッと立ち上がる。190センチほどの上背、筋肉が岩石のように盛り上がったが、一段と巨大に見える。

 

「――何で頭を下げるんだッッ! それじゃ、ルルりんに非があるみたいじゃないかッッッ!」

「そうだよ! 勝手なことをするなッ!」

 

 鎌田も立ち上がり、凸凹な壁を成して激しくとがめる。両名とも熱に浮かされた、あるいは何かに取り憑かれたような、そこはかとなく病んだ顔付きをしていた。

 

「――すみませんが、僕もコネクトいいですか?」

 

 鎌田は許可されて加わると、佐伯に「これは任意の取り調べなんですよね?」と突っかかった。

 

「――ルルりんが好意で応じてくれているのに、まるで悪者みたいな扱いはひどいんじゃないですか? 問題がある人間は、どんなシステムの中にいてもトラブルを起こすんです。こっちとしてもいい迷惑なんですよ!」

「そうだッ! まったくその通りだッッ!」

「ルルりんを槍玉に挙げるような事情聴取には、付き合っていられません。――ルルりん、もう終わりにしましょう」

「まあまあ、ロベーもカマックも落ち着いて」

 

 ルルフは2人をなだめて腰を下ろさせると、ツインテールを揺らして気持ち身を乗り出し、妖しい光を宿す瞳で佐伯をはっきりとらえた。

 

「――ルルは、警備隊の皆さんと仲良くやっていきたいんです。だから、あんまりいじめないで下さーい」

「……そちらの言い分はよく分かった」

 

 猫なで声に、佐伯の顔が鉄壁のようになる。

 

「――今回はあくまで任意聴取。協力、感謝する」

「いいえ~ 佐伯さんも色々と大変ですよね。そうだ!」

 

 レーストリムグローブをはめた手が、豊満な胸の前でパンと打ち合わされる。

 

「特等席を押さえておきますから、今度開催するライブ『ツインテール・エクスタシー』にぜひいらして下さい。ルルの歌、きっとお気に召すと思いますよ~」

「今回の事件と君等のコミュニティとの因果関係、それを今一度よく考えてもらいたいものだな」

 

 誘いには応えず、反省を求めてコネクトは終了になった。ウインドウが閉じて消えると、北倉と鎌田が憤慨して佐伯を非難する。それを視界の端にぼんやりとらえながらルルフはソファに背をもたれ、ぷりっとした唇を僅かに尖らせた。