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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.21 花一輪(5)

 

「――伏せろッ!」

 

 放たれた種子が爆ぜ、光る針が散弾のように飛び散って、佐伯たちが盾にする大木とその周囲に突き刺さってサボテン状にする。

 

「――ぅぬッ!」

 

 頭を上げ、ライ・ノーズが残った角を突き出して突っ込んで来るのを目にした佐伯は、ジュリアを引っ張ってライトンが照らす先へ駆け出した。背後で衝突される木々が葉擦れの悲鳴を上げ、幹が折れて倒れる音がする。しばらくおとなしかった流動がまたおかしくなり、空間のうねりが横から正面からぶつかって足を鈍らせる。

 

「――負けるなッ! しっかり走れッ!」

「う、うんっ!」

 

 戦闘を避け、ひたすら引っ張って走る――戦いとなれば足手まといになるし、バリアが弱いジュリアが角や針を食らったら重傷は免れない。

 

「――んッッ!」

 

 前方の闇から波のように現れる新手、死霊ヴァン・トマの群れ――流れる泥を削って急減速する佐伯にフード付きマントをはためかせ、尖った指の骨が襲いかかる。

 

「――はああッッ!」

 

 電光石火の斬撃が暗闇を飛ぶ骸骨を袈裟がけに斬り、なぎ払って光のちりを散らす。カパッと口を開いた髑髏どくろが飛ばす人魂を避け、寄らば斬り捨てる佐伯は、後方から猛スピードで突っ込んで来るライ・ノーズを迎え撃たんと振り返った。

 

「――ああッ!」

「――ッ!」

 

 流動に持っていかれそうになるジュリア――腕をつかんでいたがゆえに体勢をガクッと崩す佐伯――

 

 ――九虎流ッッッ!――

 

 影清がライ・ノーズの右目をドグッと突き刺し、白刃から飛び出した闘気の猛虎たちが爪と牙を食い込ませて頭部を派手に爆散させる。だが、巨体が光のちりになって強風に吹き散らされる向こう――佐伯は宙を飛ぶいくつもの黒い種子を見、膝を突いたジュリアを抱くようにかばった。

 

「――ぐぅッッッ!……」

「シューくんッ!」

 

 気を張って強化したバリアを、黒ジャケットを貫き、背中をハリネズミのそれのように変えた光る針――激痛をこらえて両足に鞭打ち、立ち上がって向き直った佐伯は、群がろうとするヴァン・トマとフロメ・デュをライトンの光と影清とで威嚇した。

 

「シューくん、もうええよ……」べそをかくジュリア。「うち、あしでまといにしかならん……ほっといてええから……」

「黙っていろ……!」

 

 佐伯は、細い腕を強くつかんだ。

 

 か弱い少女を、ジュリアを見捨てる訳にはいかない――

 

 それはヤマトオノコとしてのプライドであり、情。この手の平から伝わるぬくもりを手放すことなどできなかった。

 佐伯は呼吸を整えて丹田たんでんで気をり、影清を握る右手を振り上げて上段の構えを取ると、ヴァン・トマの群れが飛び交う前で触手先端からまた種を飛ばそうとするフロメ・デュたちをにらみつけた。

 

(――来るッ!――)

 

 両目がカッとひらめいた瞬間、野蛮な銃撃が斜め後ろからフロメ・デュたちをハチの巣にし、着弾したグレネードが光る軟体をばらばらに吹っ飛ばす。ライトンをそちらに向けた佐伯は十数メートル向こうでライトンを光らせ、右手で構えたごついリボルバーの周りをアサルトライフルやグレネード・ランチャーで花束のように飾ったぼさぼさ金髪少年と、その後ろに立つナックル・ガントレット少年を樹間に認めた。

 

「へっ、ざまあみやがれ、くそクラゲッ!――」

 

 シンは新たな標的に群がろうとするヴァン・トマたちを銃撃で踊らせ、ユキトも鋼のストレートパンチで髑髏を砕き、マントの上から骨格を粉砕して仕留めていく。敵勢が崩れた隙に佐伯はジュリアの手を引いて走り、行く手を阻んだヴァン・トマを真っ二つにして合流した。

 

「お前たち、来るなと言ったのに」

「すみません。だけど、こいつが……」

「ふん、テメーなんかにまかせておけねーんだよ」

「シンちゃー! こわかった! こわかったん……!」

「うわっ! お、おい、ひっつくんじゃねえ!」

 

 がっしりした手を離れ、飛び付くジュリアにシンは赤面し、気まり悪そうな顔でじろっと佐伯をにらんだ。

 

「……いちおう、れいはいっとくぜ。どーもな」

「……当然のことをしたまでだ」

 

 佐伯は、まだつかんでいるように指を曲げていた左手を握り、シンの胸に顔をうずめるジュリアから目をそらしてすげなく返した。

 

「――佐伯さん、モンスターがまたッ!」

 

 ヘブンズ・アイズを見て警告するユキト。マップ上で四方から赤い光点が接近し、再び荒れ出す風雨を従えてうねる闇から二足歩行の怪物ナナフシ――ア・ギスウがわらわら現れる。佐伯はぬくもりと汗が残る左手を刀の柄に添えて握ると、いつにも増して戦闘的な気を全身から放出した。

 

「――また流動がひどくなる前に包囲を突破して帰還するッ! 続けッ!――」

 

 叫んで駆け出し、ジュリアの手を引くシンとユキトが続く。佐伯は押し流そうとする流動ごとア・ギスウをなで斬りにし、ライトンの光を頼りに遺跡を目指してひた走りながら炎のように揺れ動く闇の中で吠えた――



【――そうして囲みを破った佐伯さんたちは追撃を振り切り、命からがら遺跡に帰還することができました。メンバーの多くが事件の原因になったジュリアちゃんを問題視しましたが、新田さんは二度とこんなことをしないよう本人に言い聞かせ、みんなには配慮してくれるように頼んでこの一件は終わりになりました。でも、このとき密かにまかれた種は、私たちから見えないところで根を張り、芽吹いていたのです……――】