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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.21 花一輪(4)

 

「……シューくんは、シンちゃーがキライなん?」

「……急に何だ」

「だって、シンちゃーにつめたいやろ。シンちゃーだけじゃのうて、イジンとかいわれるひとたちみんなに。なんでなん?」

「……別に嫌っている訳ではない。ただ、――」

 

 ほの暗い行く手を見つめ、まなざしがきつくなる。

 

「――人は自らを高め、高貴さを身に付けるべきなのだ。それを理解せず、未熟で下品なままでいる者は軽蔑に値する。そうした人間がいわゆるイジンに多い――それだけのことだ」

「……なんや、ややこしゅーてワカらへん……」

「イジンには愚か者が多い、ということだ」

「おろかって?」

「バカという意味だ」

 

 さえぎる低木の枝を白刃で斬り払い、佐伯は言った。

 

「……バカ……バカかぁ……そやね……」

 

 裾をつかんでいた指が外れる。足を止めて振り返った佐伯の目に、バリアが消えて雨にもろに打たれ、パールピンクの髪の先からぽたぽた滴を垂らしてしおれているエプロン姿の濡れねずみが黒ずんで映った。

 

「……うちもママにバカやアホやっていわれてた……かんにんな、シューくん……」

「……イジンのすべてがそうだというのではない」

 

 間を置いて、佐伯はフォローした。

 

「――誰でも、心がけ次第で自らを高めることができる。いたずらに卑下――自分を悪く考えることはない」

 

 語りながら、佐伯は言葉に微かな熱がこもるのを感じた。それは、いたいけな花を暴風から守ろうとする情動に近かった。

 

「けど、うち……」

「それよりも、ちゃんと気を入れてバリアを張れ。それと、つかむならちゃんとつかんでいろ」

「……うん」

 

 遠慮がちに少女の右手が伸びたとき、スタンバイさせていた佐伯のコネクトが開き、ずたずたの映像からひずんだ声が聞こえた。

 

『……き……さん……聞こえま……佐伯……ん……』

「斯波? 斯波か!」

『――佐――伯さん?』

 

 映像が少しましになり、しびれた手で描いたようなユキトの顔がウインドウに映る。

 

『――よかった! 無事だったんですね!』

「幸いな。お前たちはどうだ?」

「無事です。僕も、あいつも……」

「そうか」

 

 ヘブンズ・アイズをチェックすると、マップ上にぼんやりユキトたちのアイコンが表示される。そこはほぼ遺跡との直線上だったが、まだかなり距離があった。

 

「先に遺跡へ戻れ。いつまた流動がひどくなるか分からないぞ」

『で、ですけど――』

『おい、ボーズザル!』コネクトにシンがいきなり交ざる。『ジュリは、ジュリはぶじなのかよッ?』

「ぶじだよ、シンちゃー!」

 

 ぴょんぴょん跳ねてウインドウをのぞこうとするジュリアが自分で開けばいいと気付き、コネクトしてシンの顔を見るや表情を崩落させてぼろぼろ涙した。

 

「シンちゃー! シンちゃー……! う、うわあああん……!」

『な、ないてんじゃねーよ!――おいボーズ、いまそっちにいくからなっ!』

「駄目だ! 我々がそちらに――」

 

 突然のアラートが遮り、WARNING表示が赤く点滅する。ぐずぐずのマップをチェックした佐伯は急接近する複数の赤い光点を認め、きょとんとするジュリアの右腕をつかんだ。

 

『佐伯さん?』

「お前たちはそこで待機していろ! いいな!」

 

 コネクトを閉じる佐伯にドオッ、ドオッ、ドオッッ――と地を蹴る音が迫り、ライトンが照らすゆがんだ薄暗がりから象並みの巨体が飛び出す。ジュリアを引っ張って横に跳ぶ――恐竜トロサウルスに似た怪物はとらえ損ねて揺らめく広葉樹に激突し、鼻の角を食い込ませた部分からベキベキベキッと折って枝葉もろともドオッンンと倒した。

 

「――〈ライ・ノーズ〉か!」

 

 ジュリアをかばって影清を正眼に構える方にのそのそ向きを変え、盾に似たフリルが厳めしい頭部と鼻から突き出た角で狙い定めるモンスター――

 

「――あっ! ひっ、ひかるクラゲやあ!」

 

 斜め後ろでジュリアが叫び、すでにとらえていた佐伯の瞳で2体の空飛ぶ発光クラゲが2本の長い触手をくねらせる。

 

「ライ・ノーズとフロメ・デュ2体……!――ッ!」

 

 巨獣の猛突進――かわしざま左の角をドザッと斬り落とし、佐伯はジュリアと大木の陰へ飛び込んだ。直後、その幹に数十の光る針がズドドドドドッッと突き刺さる。木陰から針が飛んで来た方を照らした佐伯は、フロメ・デュたちが触手を振ってその先端――ハエトリグサ状のさやから黒い種を放出したのを見て、ジュリアに覆いかぶさった。