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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.20 嵐の気配(5)

 

「――こんなんじゃ、ながされちまってるかもしれねーだろうが!」

『そうよ!――斯波、みんなとジュリアちゃんを呼んでみてよ』

「えっ? コネクトで?」

『そうよ。そこからならコネクトできるかもしれないし、ヘブンズ・アイズに反応が出るかも。――お願いします、佐伯さん!』

「分かった」

 

 聞き入れ、佐伯はユキトたちとコネクトによる呼び出し、ヘブンズ・アイズでの位置検索を試みた。のたくるぬかるみを踏み締め、暴風と流動にあおられ、もまれながらシンはコネクトに向かって名を呼び続け、チームメンバーそれぞれの前でヘブンズ・アイズがひたすら反応を捜す。

 

「――あっ!」

 

 ユキトが声を上げ、狂人が描いたような3Dマップに食い入る。

 

「――いたッ!」

「マジか! あっ!」

 

 シンのヘブンズ・アイズにも、ジュリアのキャラクター・アイコンがぼんやり表示される。

 

『見つかったの、斯波?』

「ああ。ここから南に2キロちょっとのところだ」

『そんな遠くまで……――佐伯さん、無理言ってすみませんけど、保護してもらえませんか?』

「保護、か……」

 

 魑魅魍魎ちみもうりょうの狂乱に似た空間を見やり、佐伯がためらう。と――

 

「じ、じょ、冗談じゃないよッ!」

 

 青くなったもやし、もとい市村がどもりながら紗季に食ってかかる。そして新津が早く遺跡に帰りましょうと佐伯にすがり、急かす。気を抜けば、あるいはさらに激しさを増せば、抗し切れずに流されてしまいかねない空間の嵐――身の安全を考えれば、一刻も早く戻るべきだった。

 

『――分かるけど……――今ならまだ間に合いませんか、佐伯さん?』

「……自分は、チームリーダーとしてメンバーの命を預かっている。君の依頼は、コミュニティ・リーダーの了解を得ているのか?」

『それはまだですけど……ちょっと待っていて下さい』

 

 紗季は急いで新田にコールし、コネクトに加わらせた。新田はいきさつに耳を傾けながら驚きや戸惑い、煩悶はんもんのしわを眉根や目元に刻んで深め、運営委員会事務所内からウインドウ越しに佐伯を見、ためらいがちに尋ねた。

 

『……助けに行くのは難しいのか、佐伯君?』

「そこからではお分かりにならないかもしれませんが、我々はこうして立っているのさえやっとなのです。流動ナビによるとますますひどくなるようですし、保護に向かうのは非常に危険と言わざるを得ません」

『うん……』

「カッテにしろよッ!」

 

 シンが激高し、右手の中に出現させたバイオレントⅣを握ってトリガーに指をかける。

 

「――テメーらなんか、アテにしてねーんだよ! とっとといきやがれッ!」

「待てッ!」

 

 別方向へ独り離れるシンを、佐伯が鞭を鳴らす口調で呼び止める。

 

「――勝手な行動は許可しない。戻れ」

「さしずすんじゃねーよ! コシヌケはひっこんでろッ!」

 

 突っぱね、単身空間のうねりに突っ込むシン。その無謀を市村と新津は視界から外し、佐伯を促しながら足早に遺跡の座標へ歩く。その後ろ姿を見ていたユキトは、流動でひどくゆがんだ像に胸が悪くなって視線を脇にそらした。すると、目の端に南へ歩き出す長身の影が映る。

 

「――佐伯さん?」

「斯波、お前は市村たちと遺跡に戻っていろ」

「佐伯さんは、どうするんですか?」

「吉原ジュリアの保護を試みる。それが無理なら、あいつを引きずって戻るつもりだ」

 

 言い残し、黒ジャケットとチャコールグレーのノータック・スラックス姿が、裾をはためかせながら敢然と嵐に挑む。その毅然きぜんとした背を見つめ、醜く揺らぎ乱れる木々の間で小さくなる市村たちと対比させたユキトは、流動に突き飛ばされてよろけながら佐伯の後を追い始めた。

 

『斯波?』

「……僕も行く」

『行くって……佐伯さんと?』

『戻れ、斯波君。君まで危険を冒す必要は無い』

「佐伯さんだけじゃ手こずるかもしれないですし、僕だって少しは役に立ちますよ」

 

 ウインドウを見ずに言い、ナックル・ガントレットをはめた右手を胸の前に上げ、左手でつかむ……勇ましいセリフの空々そらぞらしさに、左の目元が、頬が引きつる。市村と新津がおらず、佐伯とシンと自分の3人だったら、言い付けに従っていたかもしれない。ジュリア……佐伯……シンのことだって気にはなる。しかし、少年には進んで身を危険にさらす覚悟は無かった。だが、保身の醜さを市村たちから見せられたユキトはとっさにかじを反対側に切り、そして後に引けなくなってしまったのだった。

 

(……何カッコつけてんだよ……流動はどんどんひどくなるのに……)

 

 薄っぺらな内面を見透かされまいと、ユキトは新田、紗季とつながっていたコネクトを閉じ、荒波にもまれるごとく前後左右によろめきつつ下半身に力を込めて起伏する泥濘でいねいを踏み、くねる幹をつかみながらふらふら佐伯を追った。