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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.20 嵐の気配(4)

 

 枝葉に、バリアに叩き付ける、弾幕のごとき横殴りの土砂降り――ゴオォォ、ゴオォォォッと海鳴りに似た葉擦れを響かせ、しぶきを散らす暴風――むさぼるように張った太い根ごと半ば泥沼の地面がのたうち、どす黒い広葉樹群が踊り狂うシュルレアリスムをひたすら踏み締め、素手で空間をかきながら押し流されまいと懸命に抗う五つの連なり――たびたびよろけ、縦列を崩してはどうにかこうにか戻すそれらの影は、バリアの内側で汗まみれの体に衣類をべったり貼り付け、熱く荒い息を繰り返していた。

 

「――おいッッ!」

 

 最後尾――金髪を逆立て、シンが雷鳴さながらに怒鳴る。

 

「――おいッ! こっちであってんのかよォッ!」

「合っているッ!」

 

 縦列の先頭で、佐伯がゆがんだ行く手を凝視したまま叩き返す。ユキト、市村、新津を従えるボウズヘア青年の視線脇には、いくつもの渦潮うずしおに翻弄されるごとく乱れに乱れた世界を3Dで表すマップが表示され、画面隅でコンパスの針がグルグル、グルグルと混乱し続けている。

 

「テキトーいってんじゃねーぞ! さっきからチョコチョコむきかえてやがるくせによォ!」

「進行方向を修正しているんだ!」

 

 佐伯がぐにゃんぐにゃん左右に揺れ、上下に引きつる木々と樹間を視線で薙ぎ払う。

 

「――大流動のとき、コンコルディ遺跡は変形こそしたが、位置自体はほとんど変わっていなかった。マップがまともに表示されず、荒れる空間が我々を流そうとも、遺跡の座標を目指して進めば帰れるはずだ!」

「そうだッ!」

 

 佐伯のすぐ後ろでユキトが振り返り、乱れ髪のしかめ面で市村と新津越しにののしる。

 

「――バカみたいにかみ付くことしかできないのかよッ! 少しは頭使えよッ!」

「ンだとォ……!」

 

 シンが大股で新津、市村を追い越し、ユキトの左肩をガッとつかむ。バリア越しにワイシャツへ食い込んだ爪ごとバシッと払いのけた左手が次につかまれ、両者はうねりのただ中で炎のごとく髪を荒ぶらせて取っ組み合った。うろたえる市村と新津の前で割って入った佐伯が争いを両断し、頭に血がのぼった少年たちを力尽くで左右に引き離す。

 

「やめろ、斯波!――貴様もだ!」

「るせェッ! ニホンザルどうしベタつきやがってッ!」

 

 シンは泥水にペッと唾を吐き捨て、ユキト、そして彼をかばって立つ佐伯に両目を切れ上がらせた。

 

「暴力行為は犯罪だ。態度をあらためなければ、警備隊の長としてしかるべき対処をするぞ」

「へぇ、どうするってんだよ……!」

 

 見えないとげを全身で逆立てるシン――と、佐伯の右手が何かをつかむ形に指を曲げる。

 

 凶器を――抜き身の影清を出す――

 

 シンが雨粒の弾丸をはじいて飛びすさり、イジゲンポケットからバイオレントⅣを出そうとしたとき、いさかいの渦に飲まれかけた5人それぞれの前でコネクトが起動し、テクノポップなコール音が銃撃然とした雨音に混じる。

 

「……篠沢……」

 

 紗季の名前付き顔アイコンを見てユキトが応答すると、現れたグチャグチャの映像から不明瞭な声が聞こえてくる。

 

『……なの……聞こえ……ます?……』

「こちらAチームの佐伯だ」佐伯がコネクトをつなげる。

『……佐……伯さん!』

 

 ひずんだ映像がいくらか整い、雨をバリアではじき、強風に乱される栗色の髪を手で押さえるオレンジジャージのバストアップを形作る。嵐に見舞われる遺跡を背にコネクトする紗季は、吠え猛る風に負けじと腹の底から声を出した。

 

『みんな無事ですか、佐伯さん?』

「全員無事だ。現在位置は……ポイント58.539594766640484、91.23046875。そちらの、遺跡の座標に大きな変化は無いな?」

『はい。コンマ以下の僅かな変動があるだけです』

「だから言っただろ」ユキトがシンに、そら見ろという顔をする。

「ふん、チョーシにのりやがって……!」

『ちょっと、あんたたちまたケンカしてんの?』

「うるさいな、関係ないだろ」

『あのさ、仲間同士いがみ合ってる場合じゃないでしょ』

「ちっ、だれとだれがナカマだよ」

『シン! あっ、それよりあんた、ジュリアちゃん見なかった?』

「あ?」

 

 クエスチョン顔のシンに、紗季はジュリアが行方不明だと知らせた。

 

「はァッ? どういうことだよッ!」

『仕事中に飛び出したんだって。ヘブンズ・アイズで捜したけど、遺跡の中には見当たらないのよ。あんたのこと、すごい気にしてたらしいんだけど……』

「遺跡を出たとして――」佐伯が冷静に問う。「位置検索やコネクトはできないのか?」

『ダメなんです。空間が乱れ過ぎてて』

「ザケんなよ……!」

 

 暴力的にかき乱される暗緑を見回し、焦りを強めるシン。