REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.20 嵐の気配(1)

 

 乱暴な流れに押され、スニーカーを下生えにとられてよろけるユキト――そこへ枝状の尖った指数本がギュオォッと高速で伸び、バリアを破り、右胸や左大腿だいたいをザク、ザクッと突き刺してワイシャツとグレーのスラックスを血で汚す。

 

「――ぐうっ!」

「――ぜァァッッ!」

 

 一刀両断――深く食い込もうとする灰褐色の指を高貴かつ凄絶にぎらつく白刃が横からすべて断ち、黒い疾風が二足歩行の化け物ナナフシ〈ア・ギスウ〉へ躍って体長2メートルほどの五体をばらばらに斬り飛ばし、張り出した根や落葉の上にドッ、ドサ、ドサッと落としてちりに変える。

 

「――すみません、佐伯さんっ!」

「礼はいい。――市村、斯波にポーションを!」

「は、はいっ!」

 

 後列でおじけるひょろっとした少年がポーションを出現させて開け、鋼の右手で刺さった指を引き抜くユキトに向けると、瓶の口から光の粒子が宙を流れて傷を塞ぎ、衣類の裂け目を修復する。

 

「きィぬいてんなよッ、ニホンザルゥッ!」

 

 シンが吠え、構えた大型リボルバー――バイオレントⅣを数十メートル先の濁った揺らめきめがけてドォン、ドォン、ドォンッとぶっ放す。

 

「――ヤツら、どんどんきやがるんだぞッ!」

 

 はかなげに揺れる樹間でカクカク動き、迫る丸太状の胴体に連続して開く風穴――ひるむそぶりも見せず機械的に接近する十数体の群れは、仲間をやられた仕返しとばかりに4本指を一斉に標的へ向けた。

 

「――市村、シールドだッ!」

 

 名刀〈影清かげきよ〉を握る佐伯の指示――市村が防御魔法シールドを発動させると、ユキトたち5人それぞれの前に光の円盾が出現して襲いかかる指をガッ、ガガ、ガ、ガ、ガッ――とはじく。そして、倍返しとばかりに反撃するシンのバイオレントⅣと新津にいずという小利口そうな少年が放つ火炎弾――灰褐色の外骨格をぶち抜かれ、節足をブォオッと焼かれて群れが崩れた隙を逃さず黒ジャケットのすそが跳ね、狙い定めて突撃した佐伯が先頭の1体を袈裟けさがけに斬り捨て、視線を稲光のごとく転じて前脚を斬り飛ばし、頭部をドッと地に落としていく。

 

「……やっぱ、すげえな、佐伯さん……」

 

 新津がユキトの後方で呆気に取られ、その横で目を見張っている市村が「アネモイを装着してるだけあって、スピードが半端ないよね」と付け加える。チャコールグレーのスラックスの下、足首にはめられたアネモイ――スピードアップ魔法〈アクセルレイト〉をかけられるのと同じ付加効果を持つアンクレットの力を得た獅子奮迅ぶりは、空間を縦横にぶった斬る勢いの、阿修羅顔負けのすさまじさだった。

 

「感心している場合じゃないだろ……! サポートしないと……!」

 

 苦々しくつぶやき、ユキトが人でも背負っているように重い体を動かして鋼のこぶしをスタンバらせると、弾薬再装填を終えてシリンダーをスイングインさせたシンが振り返る。

 

「へっ、チョーシワリいなら、うしろのサルどもとボンヤリしてろよ」

「ぅるさいッッ!――」

 

 急加速――スニーカーで地を削って飛び出し、ナックルダスターが死角から佐伯を襲わんとするア・ギスウの胴体をベギャッと砕いて陥没させ、そのままくの字に変形させて法螺貝ほらがいの音に似た鳴き声を暗緑の空間に鈍く響かせる。雷光さながらにひらめいて切断していく剛剣――粗削りな打撃で粉砕し、ひしゃげさせる鋼の凶器――揺らめく空間をぶち抜き、外骨格を、血肉を飛び散らせる獰猛どうもうなリボルバー――激闘に尻込みする市村と新津をよそに彼等は三者三様躍動して、たゆたう樹間に光のちりを舞い散らせた。

 

「――よし、下がれッ!」

 

 灰褐色の胴を横一文字に断ち切り、佐伯が熱い息を弾ませる。

 

「――スペシャル・スキルでけりを付ける!」

 

 大上段――と、モンスターの血で汚れた刀身から闘気が燃え上がり、ボウズヘアの頭上で広がって9頭の牙むく猛虎の姿を成す。

 

 ――〈九虎流くこりゅう〉ッッ!――

 

 振り下ろされる闘気の刃――放たれた猛獣群は宙を駆けてア・ギスウたちに飛びかかり、獣性のままにかみ切り、爪で引き裂いて大量の光のちりをまき散らす。それは桜吹雪舞うクライマックスを連想させる、激しくもあでやかな光景だった。ユキトたち――シンさえもたじろぐ力を存分に見せつけて群れを全滅させると、佐伯は静まった影清をイジゲンポケットにしまってメンバーをチェックした。