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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.19 査問会議(2)

 

「だけどまあ、俺たちもやり方が少し乱暴だったかなって反省はしているんだ。なるべくなら穏便おんびんに解決したいとも思っている。そこで、どうだろう? 特定の個人や集団に不利益をもたらすようなワークプランが作られないようにしっかりチェックしてくれるんなら、俺たちは二度と密猟をしないと誓うよ。もちろん、あんたらの顔を立ててペナルティも受けるさ。そうだなあ……関与した者1人当たり20000ポイントの罰ポイント刑でどうだ? 平均的な1日の稼ぎより多い額だぞ?」

「調子に乗り過ぎではありませんか?」

 

 後藤が黒光るブリッジに右手人差し指を当て、メガネをずり上げる。

 

「ふん、嫌なら蹴ってもらって構わないんだぜ?」

「いや……分かったよ、キム君」

 

 新田が胸苦しげに言う。

 

「――ただし、また過ちを犯したときは厳罰に処す。だが、俺は正直そんなことしたくはない。君たちには、自分たちがしたことをよく反省してもらいたいんだ。いいかな?」

「甘過ぎるのではないですか?」

 

 佐伯が語気を強めたが、新田は顔を斜に向けて「自分に一任させてくれ」と退け、両手の指を組み合わせたまま返事を待った。

 

「へへっ、了解しました、リーダー様」

「……これで処分は決定か……――篠沢マネージャー、罰ポイント刑の手続き、頼んだよ」

「はい……」

 

 そして新田は会議室の外で待機していた警備隊員を呼び、クォンとキムを退室させた。キムの提案をそのまま飲む形になってしまったのは、仲間同士が争う事態を避けたい、皆で協力してやっていきたいという思い故だった。そんな新田の横顔を眉根にうっすら溝を刻んで見据える佐伯は、話し合いたい議題があると発言して注目を集めた。

 

「佐伯君、話し合いたいこととは?」

「はい。警備隊強化のため、さらなるポイント提供をお願いしたいのです」

 

 佐伯は内外の脅威に対抗するため、戦力を増強したいのだと説明した。

 

「――また怪物が襲って来たとき、先頭に立って防衛する組織に育てたいと考えています。また、そうした組織がにらみを利かせていれば、秩序が乱れることもないでしょう」

「確かに必要でしょうね、そうした力は」後藤が、メガネレンズの奥でまぶたを閉じる。

「あたしは……分かるんだけど、どうも引っかかるのよね……」

「僕は賛成だよ」

 

 川瀬が、佐伯をちらっと見る。

 

「――今回のことだって、あいつに有無を言わせない力があれば……」

「川瀬君、俺がああいう決断をしたのは、彼等にチャンスを与えたかったからなんだぞ」

「ええ、それはそれで分かりますけど……こちらにもっと力があれば、あいつの出方も変わったんじゃないですか?――なあ、シャルマ君?」

「そうですよ!」

 

 褐色の右こぶしが、憤りのままにドンとテーブルを叩く。

 

「――ああいう連中をきっちりmonitoringしていくためにも、警備隊の強化は必要だと思います!」

「……あたしは……この場の雰囲気で決めてしまうのはどうかと思うんだけど……また日をあらためて話し合った方がいいんじゃないかな……?」

「速やかな決断が必要な場合もあるのだ、篠沢マネージャー」

 

 断固たるまなざしが紗季へ飛び、憂い混じりに訴えかける。

 

「――我々は、公益のために奉仕するつもりだ。自分を信頼して任せて欲しい」

「……分かりました……信じます、その言葉……」

 

 喉奥が詰まったような声が返ると、佐伯は新田に転じた視線を強めて再度申し入れた。

 

「……分かった。概算とその内訳うちわけをまとめて、財務マネージャーに提出してくれ。最終的な判断はこちらでさせてもらう」

「ありがとうございます」

 

 ボウズヘアの頭が儀礼的に下げられ、「書類は今夜中に提出します」と締めくくられる。続いて後藤が新たな総務マネージャーをどうするかと提起し、議論の結果、総務マネジメント局スタッフの中から登用すると決まった。

 

「――以上で今回の会議は終了とする。みんな、お疲れ様」

 

 新田の挨拶で出席者たちは席を立ち、会議室を出てそれぞれの担当局に戻って行く。なかなか腰を上げない新田の隣では、エリーが録音した音声データを文書作成アプリのTextスターに転送してテキスト化していた。

 

「……エリーちゃん、議事録の作成は、そんなに急がなくてもいいからね」

「あ、は、はい」

 

 素直に返事をし、エリーは純朴なまなざしを向けた。どこか、あどけない小動物を思わせる印象……それにつられ、新田は安らぎを欲して少女の頭を優しく撫でた。

 

「に、新田さん……?」

「あ、ご、ごめんな。こんなことしたら、『セクハラ!』って言われちゃうよな」

「そ、そんなこと……その……新田さん……ゆっくり休んで下さいね……」

「ん?……ああ、やっぱり疲れたような顔してるかあ……」

 

 二人っきりの会議室で新田は大きく伸びをし、うな垂れて重いため息をついた。

 

「……大変ですもんね。色々……」

「……助けが来る気配は無いし、脱出方法も分からない……どうなるんだろうな……」

「……新田さん……」

「……ごめんな。情けないこと言っちゃって。しっかりしないといけないよな。リーダーなんだから……」

「……わたし、できることなら何でもします……だから、無理しないで下さい……」

「……ありがとう」

 

 健気な思いに新田は頬を緩め、左手薬指で鈍く光るプラチナを、次いで四角い窓枠に切り取られる陰った黄昏の揺らめきを半ばぼんやりと見つめた。



【――疲れ、不安、焦り、いら立ち……いつ終わるともしれない日々が、私たちの心に影を落とし続けていました……少しずつ、確実に、嵐は勢力を増していたのです……――】