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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.19 査問会議(1)

 

 供述調書

 

 所属 ハーモニー/コリア・トンジョク

 氏名 キム・ジュク

 年齢 21歳

 ――ユン・ハジンこと王生雅哉の供述通り、私は他のコリア・トンジョクメンバーと共謀し、コミュニティ・ルールで狩りが禁止されている夜間に森へ赴いて密猟を行いました。フィールドにダメージを与えると、モンスターが減少すると分かった上でのことです。ただ一点、事実と異なるのは、密猟の首謀者は自分ではなくクォン・ギュンジだということです。――

「――以上が、一昨夜の密猟に関わった者たちの供述調書の内容です」

 

 報告を終えた隊服姿の佐伯は目の前のウインドウを閉じ、コの字型に並んだテーブルの中、部屋のほぼ中央でそっくり返って椅子に背中をもたれ、大股開きで足を投げ出して座るふてぶてしい面構えの赤い韓服姿――キム・ジュクを、次いでその向こう――議長席寄りに座る佐伯とはちょうど対角線上、向かいに並ぶテーブルの端に着席している白いパジ・チョゴリ姿――半笑いのクォンに猛禽類的なまなざしを食い込ませた。キムの真正面に位置する議長席では、両手の指をテーブル上で絡ませた新田が渋い顔で座り、その右隣では地味な顔をこわばらせた書記のエリーが、マイクのアイコンを映してそばに浮かぶ手の平サイズのウインドウ――ボイス・レコーダーアプリ〈みみガー〉で発言を録音している。

 

 天井の角張った照明が白く照らす、運営委員会事務所3階会議室――

 

 席には他に後藤やジョアン、紗季たち運営委員会のメンバーが着いてウインドウに表示された調書をにらみ、召喚されたキムと、総務マネージャーという立場でありながら密猟に加担し、しかも首謀者とされるクォンに厳しい目を注いでいた。

 

「お手柔らかに頼むぜ、皆さん。こっちは警備隊にさんざん絞られて、まいっているんだからさ」

 

 ひん曲がった口でキムがへへっと笑い、佐伯の後方――薄暗く濁り始めた窓の外に目をやる。一昨夜、遺跡に戻ったところを警備隊に拘束された彼等は、警備隊事務所が入る軍務マネジメント局事務所地下の留置場に留置され、取り調べを受けていた。

 

「本来であれば、これらの調書を元に法務マネジメント局が処分を下す訳ですが――」

 

 佐伯は、斜向かいに座る制服姿――ワイシャツの襟元でピンクのリボンを結び、キャメルカラーのブレザー、ベージュ地に水色チェック柄のミニスカート――の紗季を一瞥で抑え、正眼に構えるように新田を見据えた。

 

「――コミュニティ全体に損害を与える違法行為、しかも、その首謀者が運営委員会メンバーの1人だという重大性をかんがみ、この査問会議で処分を決定することになったのです。自分はクォン・ギュンジを罷免ひめんし、密猟に関わった者たちには重いペナルティを科すべきと考えています」

 

 強い口調で述べられると、新田はストライプ柄ドゥエボットーニ・シャツの襟を苦しげに右手でいじり、頭を左に傾けて小馬鹿にしたようにだらけるキム、それからテーブルの上に貧相な白い両袖と手をぺたっと置いたクォンを見つめた。

 

「……本当に君が首謀者なのか、クォン・ギュンジ君?」

「本当も何も――」キムが腕組みし、朱の袖にいくつもしわを寄せる。「みんなそう証言しているだろ。俺たちは、こいつにそそのかされたんだよ」

「君に聞いているんじゃない。――どうなんだ、クォン君?」

「キム族長のおっしゃる通りですよ」

 

 クォンは神妙ぶったていで身を乗り出し、両手をテーブルに突いた。

 

「――ボクが計画してみんなを引き入れたんです。本当ですよ。どうもすいません。申し訳ないです」

 

 腰かけたまま方々にペコペコすると、左手側から紗季が釈然としない顔で問う。

 

「どうしてこんなことをしたんですか、クォンさん? ポイントは十分獲得していたんでしょう?」

「一応はね。だけど、もっと欲しくなったんだよ。――ジョアン・シャルマ、君ならその気持ち分かるだろう? ねぇ?」

 

 いきなり正面――向かいのテーブルから振られたジョアンは「えっ?」という顔をし、数メートル離れたキツネ目をうかがった。

 

「……どうしてボクが……?」

「だって、ずいぶんとポイントを食うらしいじゃないか? 君のところの天使ちゃんは」

「はっ? そ、それは……」

「まず、この場で総務マネージャーを罷免しましょう」

 

 後藤が、書類に判を押すごとく言う。

 

「――そして、佐伯軍務マネージャーがおっしゃるように関与した者たちを厳罰に処すのがよろしいかと思います」

「賛成です」

 

 労務マネージャーを務めるずんぐりむっくり青年――川瀬慶之よしゆきが、軽くうなずく。

 

「――やったことを考えれば、財産没収くらいしてもいいんじゃないですかね?」

「ふん、ブタが調子に乗りやがって」

 

 ぎろっとガンをつけるキムに川瀬は下膨れ顔をこわばらせ、右隣の佐伯に視線をすがらせた。

 

「やめなさいよ」と紗季。「反省が全然見えないわよ」

「へっ、しおらしくなんかしていられるか」

 

 キムはグッと身を乗り出し、断罪しようとする者たちを順々ににらむと、左斜め後ろに位置するクォンの方にあごをしゃくった。

 

「――主犯はこいつ。俺たちはちょっと魔が差しただけなんだ。なのに、ここぞとばかりに叩きやがってよ!」

「罪を犯した人間の台詞ではないな」

 

 佐伯が視線を辛辣に突き刺すと、キムは鼻で笑ってにらみ返し、相手を不敵に指差した。

 

「分かってるんだぞ。お前、そこにいる川瀬を使って俺たちの狩りの回数を減らしているだろ? だから、こっちはその分を埋めようとしたんだよ!」

「そっ、そんなことしていない!」

 

 ワークプラン作成責任者の川瀬が声を引きつらせて否定し、その横で佐伯が「とんだ言いがかりだな」とあきれて僅かに顔をそらしたが、キムは不正があると言い張ってわめいた。

 

「――こいつらは俺たちを差別しているんですよ、新田さァんッ! ワークプランをチェックすれば、俺の言っていることが本当だって分かりますよッ!」

「……俺も一応ワークプランに目を通しているが……色々配慮して作っているから、多少偏りが生じる場合もあるだろうし……」

「……ああ、そうですか。やっぱり、あんたもそういうスタンスなんだね。分かったよ」

 

 ふてくされたキムは椅子の背にもたれてこれ見よがしにため息をつき、あごを上げて新田をにらみつけた。

 

「――そういうことなら、俺たちはハーモニーを抜けさせてもらいますよ」

「抜けるって……」

 

 しばしあ然とする紗季。

 

「――抜けてどうするのよ?」

「遺跡を出て行くのさ。俺たちだけで好きにやらせてもらうぜ」

 

 発言にジョアンたちは困惑し、新田を見た。もしコリア・トンジョクが離脱した場合、堂々と密猟を行って森にさらなるダメージを与える可能性があるし、それをきっかけに人間同士が争うことにもなりかねない。そうした予測で張り詰めた空気にキムは姿勢を少し正し、言葉にきゅうしている正面の新田に、にやりと笑いかけた。