REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.18 闇の声(1)

 

警備隊会議 第4回議事録



1. 日時 テンペスト・ライフ 81日目 15:00~16:00

 

2. 場所 軍務マネジメント局事務所 2階 軍務マネージャー室

 

3. 出席者 佐伯修爾(警備隊隊長)

[佐伯警備隊隊長]

 流動が緩やかでフィールドに大きな変化が無いにもかかわらず、最近、森に出現するモンスターが減っているようだという報告が上がっている。原因は今のところ不明だが、何者かが夜間に密猟を行ってフィールドにダメージを与えている可能性もある。そうだとすれば、放置しておく訳にはいかない。――

 虫食いのような枝葉の隙間から灰青はいあお色がのぞき、うっそうとした森を溶かした闇が粘っこく揺らめき、流れる……その重苦しい流れに黒い隊服を着た身を沈め、明るさを最低にしたヘブンズ・アイズとヘッドギアに装着した暗視スコープを頼りにして、ユキトと潤のコンビは1.3倍速ほどのスピード――素早さアップの特殊効果があるアンクレット『アネモイ』をはめた足で広葉樹群の間を努めて密やかに、メキョッと地面に張り出した木の根に注意しながら進んでいた。

 

「……うまくいくかな……?」

 

 鋼の右手でうごめく幹に触れ、ユキトが傍らで闇に染まる潤にささやく。

 

「いってもらわないと。今まで泳がせてきたのは、油断させて尻尾をつかむためなんだから」

 

 抜刀寸前のような声で返し、「後は、現場を押さえるだけ……」と続けた潤は、3Dマップ上にばらばら表示される赤い光点をチェックした。

 

「……ユキトもよく見ていて。これは、警備隊を挙げての作戦なのよ」

「うん……所有ポイントやアイテムの情報を素直に開示する相手なら、こんな面倒なことにはならなかったのに……」

「仮に開示したとしても、ギャンブルどっくで儲けたとか言ってごまかそうとするに決まっているわ。だから、言い逃れができないようにしなきゃ」

 

 うなずき、ユキトは緑光の視界に映る幹や低木の枝を避け、下生えを撫でるように足を運んでくねった根をまたいだ。

 

「……まったく……密猟なんて――んっ?」

 

 横目で見ていたマップで光点が消えた気がして、ユキトはウインドウを正面に滑らせた。

 

「――あっ、また!」

「間違いないわ。矢萩さんに連絡を!」

「う、うん。――矢萩さん!」

 

 ユキトは現場メンバーを指揮する矢萩をコネクトで呼び出し、密猟が行われているとおぼしき場所の座標を報告した。

 

『……そうか、分かった』

 

 矢萩は口元をグネッと緩めて下唇をなめ、現場を押さえろとユキトたちに指示した。

 

「え? 僕たちだけでですか?」

『もたもたしていたら、現行犯逮捕できなくなるだろ。俺たちもすぐに行く』

「分かりました。じゅ――加賀美隊員と現場に急行します」

『頼んだぞ』

 

 コネクトをスタンバイにしてウインドウを消すと、ユキトは潤と赤い光点が消えていくポイントへ急いだ。暗視スコープとアネモイに助けられてぐんぐん近付くと、怒れるモンスターの鳴き声や刃が肉を切る音が聞こえてくる。足を緩めた2人は身をかがめて距離を縮め、揺らめく木陰越しに現場をうかがった。

 

「……相手はフロメ・デュとスミ・ウスよ」

 

 ほんの数十メートル先で、見られているとも知らない10名弱の影が、のっしのっしとナックル・ウォーキングして丸太並みに太い両腕をブォンブォン振り回す体高2.5メートルほどのゴリラの怪物〈スミ・ウス〉1体と、ほの光りながら闇にゆらゆら浮かんで触手を振る全長2メートル強の化け物クラゲ〈フロメ・デュ〉2体相手にハイエナのごとく群がり、飛びかかって斬り付けていた。

 

「……あのアックスガンやハンマー、コリア・トンジョクのメンバーの得物に間違いないわ」

「こうやって夜な夜な密猟をしていたのか……!」

 

 鋼の右こぶしをガチッと固め、ナックルダスターをスタンバらせるユキトの脇で、潤がイジゲンポケットから出現させた抜き身――赤い柄巻の日本刀〈ともえ〉を握る。じき駆け付ける矢萩たちを頼みに2人は肩の上にライトンを出現させ、逮捕の妨げにならないようにモンスターが全滅するまで待った。

 

「――よし! 行くよ、潤!」

「ええ!」

 

 最後のモンスターがとどめを刺されたところで飛び出し、ユキトたちは密猟者たちにライトンの鼻から強烈な光線を浴びせた。

 

「動くなッ! 警備隊だッ!」

「全員、武器をイジゲンポケットにしまいなさいッ!」

 

 手榴弾を投げ付けるように大声を食らわせると、黒装束たちは身を翻してばらばらに逃げ出した。

 

「あっ、待てッ!」

 

 逃げられてたまるかと焦り、ユキトはツーテンポほど反応が遅れた影を遮二無二追った。必死に逃げるターゲットは慌てるあまり蠕動ぜんどうする木の根につまずいて顔面から下生えに突っ込み、飛びかかったユキトに腕をつかまれてガチャッと後ろ手に封印の手錠をかけられた。

 

「――さあ、立てッ!」

 

 強引に立たせ、暗視スコープを乱暴に外してあらわにした顔をライトンで照らすと、ユン・ハジンこと王生雅哉の青ざめた顔が明瞭になる。無性に忌々いまいましい女々めめしさ、そして、いじめを傍観した罪悪感を想起させられる不快さから、ユキトは頭を垂れる年下の少年をいとわしげににらみつけた。