REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.17 慰霊の夜(4)

 

「――お前、俺たちを見張っていたのか?」

『私は常にるものです、キム・ジュク。あなた方がステルス・モードにして位置情報を隠そうとも、私から逃れることはできません』

「ちっ……!――」

 

 アックスガンがグォッと上がって光球に照準を合わせ、トリガーに指をかけたキムの双眸が暗視スコープの奥でぎらつく。

 

「……告げ口、するつもりか?」

『いいえ。私は、余計な干渉をするつもりはございません』

「そうかい」

 

 銃口が下がって黒装束たちが肩の力を抜くと、ワンは「サポート・ソフトウェアの立場から発言させていただいてもよろしいでしょうか?」ときらめき、許可を待たずに続けた。

 

『――モンスターは、日中フィールドから生み出されます。そして、そのためには人間が夜眠って休むのと同じようにフィールドにも休息が必要だとご説明申し上げたのは、覚えていらっしゃいますか?』

「覚えているぜ。だから、夜の狩りは禁止されているんだ」

『モンスターを狩ると、フィールドは減った分だけまたモンスターを生み出そうとします。夜間狩りを行うと、休息を妨げられたフィールドはダメージを受けてそのエリアに出現するモンスターが減る設定になっています。下手をすると、この森――モンスターが豊富に生み出される地を失うことになりかねませんが、よろしいのでしょうか?』

「別に構わねえよ。そうなる前に俺たちはしっかり稼がせてもらうからな。それもこれも、委員会が俺たちをなるべく狩りに出さないようなワークプランを作りやがるからさ。ま、もしここで狩りができなくなったときは、生息数が少ない上に厄介なモンスターばかりの西の砂漠でも北の沼地でもどこでも行かせればいいんだ。俺たちの支配下に入った新田たちにな」

 

 チュとオがにたにた笑う。調子に乗ったキムはうつむいているユンに寄って首に左手を回し、馴れ馴れしく肩を組んだ。

 

「怖いのか、ユ~ン? だけどな、世の中ってのは勝つか負けるかなんだ。弱けりゃ一生負け犬のままなんだぞ。それとも、お前をバカにしたチョッパリどもに這いつくばって仲間にしてもらうか? んー?」

 

 からかいにユンは下唇をかんだ。衆人の前で辱められた記憶が口元をゆがませ、頬をぴくつかせていた。

 

「――お前らもなァ――」キムは、他の黒装束たちをグリーンの視界にとらえた。「嫌ならやめていいぞ。やめてコリア・トンジョクから出て行っちまえ。ただし、――」

 

 振り下ろされたアックスガンが地面にザクッと刃を食い込ませ、ホンやイたちをたじろがせる。

 

「――そいつは裏切り者だ! それなりの覚悟はしておけよッ!」

 従属者たちが震え上がると、キムはにやついた口元を側近と見せ合い、左口角をいっそういやらしくつり上げた。

『意思統一ができたようですね』

「ああ、俺たちコリア・トンジョクは、固い絆で結ばれた兄弟だからな」

『なるほど。ところで、お話の間にモンスターとの距離が狭まりました。戦闘準備をなさった方がよろしいでしょう』

「ん?」

「兄貴!」チュ・スオがヘブンズ・アイズから視線を転じ、報告する。「〈ラ・アバ〉の群れが接近しているっス! 2時の方向、距離約200メートル!」

「おう! ラ・アバか――」

 

 キムが3Dマップ上に映る20ばかりの赤い光点の集まりを注視して拡大させると、その一つを指して詳細が表示される。そこには身長130~140センチメートルくらいの股の小鬼が、なたと木の楯を持っている画像及びステータスが表示された。ハーモニーのメンバーの誰かが倒したモンスターのデータは、このように共有され、確認できるのだ。

 

「……そこそこの強さだが、ポイントもまずまずだしな。――ようし! やるぞ、お前ら!」

 

 ユンを押しやって離し、アックスガンを引き抜いたキムが気勢をあげ、チュとオが呼応すると、他のメンバーもそれぞれ得物を胸に引き寄せた。

 

「おい、クソ犬!」

 

 キムはクォンを呼び、ラ・アバの集団に奇襲をかけるようにとあごをしゃくった。

 

「――お前に先駆けさせてやる。おら、突っ込め!」

「……分っかりました、族長っ!」

 

 僅かに間を置いて威勢のいい声が返り、黒塗りのスピアがガチャッと音を立てて真ん中の接続部から分離する。そうして左右の手にショートスピアを握ると、クォンはおりを思わせる影の間を吹き抜けるように縫って前方へ駆け、やがてドロドロした闇の向こうで金属的な鳴き声がいくつも火花のように飛び散る。はらはらしているユン、黙って待機しているメンバーを背にキムは腕組みして悠然と様子を見、頃合いを見計らってチュ、オとゆっくり前進、慌てて後を追う者たちを従えて木陰から戦闘をうかがった。

 

「……おー、おー、頑張ってるじゃないか。クソ犬のくせに」

 

 四方から鉈で切りつけられ、黒装束をずたずたにされながら両手のショートスピアをひたすら振るうクォン――派手な音や光が出る攻撃魔法を使えないという制約が、スピアと魔法を併用する戦闘スタイルの彼を苦戦させていた。

 

「……それなりにダメージ与えてるっスね。そろそろどうっスか、兄貴?」

「デュフフッ、ラ・アバもクソ犬に気を取られていますしね」

「ふぅん……よし、行くぞッ!――」

 

 突風さながらに飛び出し、グォンンッと振り下ろしたキムの一撃がラ・アバの頭を豪快に割って首の根元まで達し、アックスの刃に断たれた断末魔の叫びごと光のちりに変える。不意を突かれた小鬼たちは、ぶん回されるハンマーで粉砕された頭部から脳漿をビシュッと飛び散らせ、クローに腹を裂かれて臓腑をデロッとこぼし、追随する刃の群れにかかって次々消滅していった。それを暗視スコープ越しに刹那とらえて奇怪な顔面にスピアを突き刺したクォンは、手首をグッとひねって刃を肉に深くねじ込んだ。