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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.17 慰霊の夜(3)

 鈍重どんじゅうに揺らめき、すべてをあいまいにして飲み込もうとする暗黒……方角さえもたゆたう重苦しい混沌の底――枯れた落葉をガサッと踏み、下生えを蹴る音をつらね、ヘッドギアに暗視スコープを装着した黒装束くろしょうぞくの一団が、めまいを誘う闇に紛れてひそやかに歩を進める。

 

「……ちっ、海の底を歩いているみたいでぞっとするな」

 

 黒ずんだ顔をしかめるキムはのろのろした流れを黒靴で踏み、装着した暗視ゴーグル越しの緑光りょくこうの視界――樹皮がひび割れ、ささくれた広葉樹群がおどろおどろしくくねる様を見回すと、それらがいびつに伸び上がるどぶねずみ色の夜空を枝葉のギザギザした狭間から見上げた。その胸の前には、戦斧せんぷとアサルトライフルが合体したワイルドなデザインのアックスガンが両手で握られている。後ろには湾曲した3本刃――クローを両腕に装着したオ・ムミョン、巨岩を粗く削ったようなごついハンマーを携えるチュ・スオが続き、ホン・シギやイ・ジソン、おじけたユンが武器を手に従い、しんがりには両端で刃が尖る漆黒のスピアを持つクォンが控えている。ユキトたちがルルフの歌に聞きほれているとき、彼等10人弱は夜陰に乗じて警備隊の監視をかいくぐり、石垣が崩れて坂になった場所からこっそり遺跡を抜け出して森に入っていた。

 

「おー、いるいる、いるっスよ、兄貴」

 

 マップ上のモンスター反応を見て、チュ・スオが浮かれる。

 

「――狩って、狩って、狩りまくってやるっス!」

「デュフフッ」オ・ムミョンが、くぐもった笑いを漏らす。「張り切るのはいいけど、派手に音や光が出る銃器とか攻撃魔法はダメだぞ。それと、なるべく鳴き声を上げられないように素早く仕留めるか、喉を狙うかしなくちゃな」

「その通りだ。遺跡にいる連中の耳に届かないように、アラートだって念には念を入れてサイレント・モードにしているんだからな」

 

 一同にあらためて注意を与えたキムは続けて、モンスターは獲得できるポイントが多い種をなるべく狙うことを再確認した。

 

「――ガッツリ稼いだポイントは、武器やバリアの強化に回すんだ。そうすれば、いずれ俺たちはハーモニー最強になれるぜ」

「そうっスよね。リアルTV見てても救助が来る様子は無いし、出る方法も全然分かんないんス。ここでずっと暮らしていくかもしれないんなら、力を付けておいた方が利口っスもんね」

「デュフフフフ」

 

 肩を揺らし、オ・ムミョンは後ろのメンバーを振り返った。

 

「――そういうことだ。――おい、ユン、そんなビクつくなよ。デュフフッ」

 ライトンが起動され、微かにカチカチ鳴る歯と鼻の上のスコープを照らしてびっくりさせる。キムとチュにも嘲笑されたユンは、両手で握ったショートソードを胸元で震わせた。

 

「何だ、ユ~ン、ビビってるのかぁ~?」

 

 チュとオの間から、キムが引きつった頬を見てからかう。

 

「――お前、戦闘スキルはそこそこあるだろう。仲間だっているんだし、ビクつくことなんかないだろうが」

「……で、でも、ぼ、ぼくら、勝手に狩りを……もしばれたら……」

「ふん、そのときはそのとき。そんなだから、チョッパリどもにバカにされるんだぞ」

「――族長、キム族長」

 

 薄笑いをたたえたクォンが、最後尾からやにわに進み出る。

 

「――やっぱりやめませんか? 暗いし危ないですよ」

「黙ってろ、クソ犬」

 

 キムが曲がった口で罵倒し、腰巾着こしぎんちゃくのチュとオが脇からなじる。そのそばでユンはうつむき、他のメンバーは黙って傍観していた。

 

「――臆病風に吹かれたんなら、戻って慰霊祭でも懇親会でも参加してこいよ」

「そんな~ ボクは仮病で慰霊祭を欠席してここにいるんですよ。総務マネージャーって責任ある立場より、族長たちとのことを優先しているんです。つれないことおっしゃらないで下さいよ」

「デュフッ、何が責任ある立場だよ。あんなの、ただの雑用係じゃんか。委員会が純血日本人に牛耳ぎゅうじられているって批判をかわすために『イジン枠』にあてがわれただけだろ」

「けど――」

 

 チュがハンマーを右肩にドカッと担ぎ、クォンを見下ろす。

 

「――自薦したコリア・トンジョクメンバーの中から、こいつが選ばれるとは思わなかったっスよね」

「いえいえ恐縮です。――とにかく、ボクは皆さんのことを心配しているんです。心からね。いくら暗視スコープがあっても視界が悪いじゃないですか。ねぇ?」

「だから好都合なんだろうが。流動と闇が、俺たちを隠してくれる。もし警備隊が捜しに来ても、現場を押さえるのは難しいだろうさ。北韓のクソ犬の分際で、小賢しい口利くんじゃねえよ」

『密猟ですか』

「――うおっ?」

 

 突然頭上できらめくワン――キムが驚いてのけ反り、黒装束たちがはじけて後ずさる。