REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.17 慰霊の夜(2)

 

「楽しんでいるか? 斯波。――加賀美」

「あ、佐伯隊長。――矢萩隊員も。すみません、僕たちばかり」

「お2人はパトロールなさっているのに、申し訳ありません」と、潤がほとんど佐伯の方に体を向けて丁寧に頭を下げる。

「気にすることはない。自分は、こうしている方が性に合っているのだから」

「それに、目を光らせておきたいこともあるしな」

 

 矢萩がギラッ、ギラッと左右をにらみ、やや居丈高――周囲に権威を知らしめるように声のトーンを上げる。

 

「――お前たちも、ギャンブルどっぐをやっている連中を見かけただろう?」

 

 ギャンブルにはまってシャイロック金融から限度額一杯ポイントを借り、それ以上借りられず困っているメンバーを矢萩は蔑み、そういう者を狙った高利貸しがいると吐き捨てた。

 

「――高利でポイント貸しをしているのはコリア・トンジョクのメンバー、ギャンブルどっぐを広めているのもヤツらって話だ。――おい、法務マネージャー、いい加減ギャンブルやポイント貸しを取り締まるルールを作れよ」

「それは、法務マネジメント局でも検討しています。あまり規制したくありませんけど、メンバーに悪影響を与えかねないなら放置しておけませんから」

「ふん、だったら、さっさとやれよな。――ところで斯波、お前、コリア・トンジョクの連中を見かけたか?」

「いいえ。慰霊祭でも見かけませんでした。自分たちだけで勝手にやっているんじゃないですか?」

「そうなんだろうが、ステルスにしているのが気に入らないんだよ。『集落』を見張らせてはいるんだけどな」

「矢萩」

 

 ぴしりと打つ声――矢萩がばつの悪い顔で滑らせた口をつぐむと、佐伯は何か気付いたことがあったら知らせるようにとユキトたちに言い含めた。

 

「――では、自分たちは巡回に戻る。何かあったらコネクトで連絡してくれ」

 

 佐伯と矢萩が離れると、小さな目を伏せていたエリーが肩の力を抜いて、ほっと息をつく。佐伯の後ろ姿が見えなくなると、潤はユキトに視線を転じて「気になるわね」と言った。

 

「僕たちも注意しよう。何か隠れてやっているのかもしれないし」

「……何か嫌だな、そういうの」

 

 持っているコップの水滴を指で拭い、紗季がぼそっと言う。

 

「篠沢、僕たちは用心のために――」

「それは分かるわよ。だけど……ああ、もう! ホントにいらいらする! 早くリアルに帰りたい……!」

 

 紗季がジュースをグイッと飲み干し、小皿に盛られた焼きそばを黙々とすすってかむ。うつむき加減のエリーがサンドイッチをちょぼちょぼ口にし、ユキトと潤が黙ってジュースを飲んだりドレッシングまみれのエビを食べたりしていると、にわかに特設会場北側からわっと歓声が上がって群れがそちらに引き寄せられていく。

 

「……何だろう?」

 

 首を伸ばしたユキトは、ジョアンや北倉、鎌田たちルルりんキングダムメンバーに囲まれたルルフの華やかな輝きを遠目に認めた。流れに引きずられて近付くと、慰霊祭のとき着ていたおごそかなフリル付き黒ドレスが、天上の光で仕立てられたのかと思わせるシャンパンゴールドのパーティドレスに変わっているとはっきり分かった。

 

「レンタルなのか購入したのか知らないけど、ずいぶん派手なドレス」潤が冷たく評する。「すっかりハーモニーのアイドル気取りね」

「はは……ジョアンの話だと、彼女はアプリを使いながら独りで作詞、作曲しているんだって。才能はあるんじゃないかな」

「そうね」紗季がうなずく。「あたし、高峰さんの歌はパワーがあると思う。献歌の〈レクイエム〉は、ほとんどの人が涙していたしね」

「わ、わたしも泣いちゃいました……」と、思い出して涙ぐむエリー。

「私は、好きになれないわ。取り巻きにポイントを貢がせ、ワークを代行させて遊んで暮らしているような人間は」

 

 潤にそんな批判をされているとも知らず、例え耳に届いても馬耳東風ばじとうふうに違いないルルフはツインテールの翼を揺らして右から左へとにこやかに手を振り、騒ぎを聞いて食堂から出て来た者たちを加えた群衆に先刻の献歌――チャリティコンサートでの拍手喝采をあらためて感謝した。

 

「――大好きなみんなの役に立てて、ルルはハイパーに嬉しいです! 慰霊祭を企画、運営した運営委員会の人たちの慰労とみんなへの感謝を込めて、ここでとっておきの1曲歌わせてもらってもいいですかぁ?」

 

 歓声、そして熱狂的な拍手が歓迎すると、肉眼では見えないオーラがルルフの全身から火炎のごとく立ちのぼった。

 

「――ありがとう、みんな! それじゃ――」

 

 ルルフは右手の中に現れたハンドマイクを握り、ジョアンたち取り巻きが離れて作ったスペースでクルッと華麗にターンしてツインテールをキラキラッと舞わせ、肉感的な胸元に左手を当てて右手を斜め上に掲げた。

 

「――懇親会にぴったりの新曲をハイパーに披露しちゃいます! 聴いて下さい、〈ゼッタイ♡エイエン♡オンリー・ユー〉!」

 

 脇に下がった取り巻きの最前列――鎌田がジト目に力を込めると、そのそばに手の平より一回り大きいくらいのスピーカーが現れ、アップテンポなメロディをはずませて慰霊祭から引きずっていた湿っぽさをたちまち吹き飛ばす。作曲アプリ〈シーケン作くん〉と連携して音楽を流し、さらにハンドマイクともつながったスピーカーアプリ〈ラウド〉――ルルフは光を得た天使のように生き生きと踊り始め、無垢な乙女の熱烈な愛を一帯に響かせて聴衆の心をわしづかみにした。それは彼女に反感を抱く者でさえもつい耳を傾けてしまう力があり、いわんやユキトなどは隣の潤のことを忘れて聞きほれていた。同じ頃、揺らめく黒い緑の奥で密かに行われていることなど知らずに……