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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.16 テンペスト・ライフ(8)

「――みんなもジョビーを見習って頑張ってよ~ ルルりんキングダムをビッグにするためにハイパーファイトだよ!」

 

 頭を起こしたルルフがレーストリムグローブをはめた白い手をパンパン叩いて発破をかけると、カーペットの外に正座している中で目立ってがたいのいい、迷彩柄Tシャツを着た刈り上げモヒカンのマッチョがバッと挙手、固めた両こぶしを高々と上げる。

 

「――自分はッ、ハーモニーのメンバー全員をルルラーにするために全身全霊を捧げますッッ! 今度のコンサートのことも、一人ひとり捕まえてガンガン宣伝しまくりますッッ! うおおおおおおおッッッ!」

 

 四股しこを踏んだ鼻の穴が荒い鼻息で膨らみ、寄ったなた形の太眉が縦じわの稲妻を走らせ、単純に横線を引いたような細目から熱い涙があふれる。ブラジル系日本人、北倉ロベルト――大学でラクビー部に所属していた体育会系青年で、並外れた腕力や体力、高い運動能力、何よりもルルフへ傾ける情熱のパワフルさからルルりんキングダムのメンバーの中では一、二を争う戦力である。北倉に負けじと他のメンバーも手を挙げ、それぞれ自分の熱意をアピールして部屋の体感温度をどんどん上げる中、ワインカラーの七分丈ポロシャツにオリーブ色のチノ・パンツという格好の、マッシュルームヘアのジト目少年が、さかしげな笑みを浮かべて挙手した。

 

「はい、カマック。あなたは、ルルのためにどうしてくれるの?」

「はい。――」

 

 カマックこと鎌田キヨシは立ち上がり、仲間たちに見上げられながら少し気取った調子でプレゼンを始めた。

 

「僕は、システム構築を提案します」

「システム?」

「そうです。ハーモニーのみんなが今よりもっとルルりんキングダムを素晴らしいと感じ、ルルりんのために喜んで働けるようになる仕組みです」

 

 逆三角形顔に関心を集めた鎌田はまぶたを上げて瞳に力をみなぎらせ、グッズショップを立ち上げて魅力的な商品を大々的に売り出しましょうとルルフに向かって両手を広げた。

 

「――トレカとかフィギュアとか、それとメディアプレイヤー・アプリ〈medikoメディコ〉対応のミュージック・ビデオやイメージ・ビデオなども作ろうと考えています」

「すごい話だけど、そんなことできるの?」

「できますよ。サンプルをお見せしましょう」

 

 鎌田の右手が魔法の杖のごとく振られると、宙に全高20数センチの人形がパッと現れて両手でうやうやしく抱えられる。起き上がったルルフが興味津々しんしんに身を乗り出し、見上げる北倉たちの目を真ん丸にして驚嘆させるそれ――ツインテールを華麗になびかせて躍動するコンサートのワンシーンを切り取ったフィギュアは、思わず本物と見間違えてしまいそうなほど精巧緻密せいこうちみつで、今にも歌って踊り出しそうだった。

 

「どうです? StoreZの〈運快堂うんかいどう〉に制作させた『ルルりん ロリータver.』です。繊細かつ力強いツインテールの流れ、見る者をとりこにする魅惑的な表情と生命感あふれる肉体、フリルの細かなしわにまでこだわったロリータ・ワンピースドレス――ルルりんという奇跡を見事に表現しているでしょう?」

 

 思い入れたっぷりに解説すると、鎌田は欲望にかられて伸びる北倉たちの手をかわしてフィギュアをイジゲンポケットに戻した。

 

「グッズはイメージを伝えて発注、ビデオは動画撮影アプリ〈MoBeeムービー〉で撮影、編集して作れます。うちのサイトのファーストビューに使われている動画の制作と同じ要領ですよ。それらのアイテムをきっかけにルルラーになる人たちもいるでしょうし、メンバーに関しては今ご覧になった通りの反応。グッズ販売は新規メンバー獲得プラス、コミュニティ運営の重要な資金源になるでしょう。また、ルルりんへの寄付をグッズ購入という形に変えてしまえば、一部の口さがない連中が言うような『ポイントを貢がせている』という悪印象を払拭するのにも有効です。コミュニティのイメージは、クリーンであるに越したことはありませんからね」

「へぇ~ すごーい! ハイパーに頭いいね、カマック!」

「むうううッッ!……さすがは鎌田だなッッ! 一石何鳥にもなっているッッッ!」

 

 北倉が悔しそうに二つの拳骨げんこつを震わせて評価し、他の少年たちもルルフが乗り気なのもあって渋々認める。そうした自分の頭越しのやり取りに胸がざわめいたジョアンは膝の上でこぶしを固め、鎌田の台頭を抑えようと知恵を絞って開口した。

 

「あ、あのさ、ルルりん、ボクも考えたんだけど、ランキング制度を導入したらどうかな?」

「ん~? ランキング制度?」

「そ、そう。もっとclearlyにメンバーをランク付けするんだ。貢献度に応じて。そうすれば、みんなrank upしようと今よりもっと競い合う。それはルルりんキングダムの発展に大いに役立つはずさ。もちろん、立ち上げのときからずっと尽力して、コミュのために立候補して委員会メンバーにもなっているボクは、最上位になるはずだけど……」

 

 ルルフに執着する余り、ジョアンはそんな思い付きを口にしていた。ポイントをたくさん寄付するために脱税が行われていると知って悩み、そうした違法行為を引き起こさないようにルルりんキングダムを正さなければと密かに考えていたはずなのに……かえって状況を悪化させかねない自らの発言に内心混乱しながら、ジョアンは燃え上がる対抗意識を抑えることができなかった。

 

「それも面白いわね。ありがと、ジョビー。これからもルルの力になってね」

「も、もちろんだよ。ルルりんをhyper idolにするのが、ボクのobjectiveなんだから!」

 

 輝きを放つ少女に目がくらみ、のぼせたジョアンは熱い息を吐きながらうわ言のように言った。