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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.16 テンペスト・ライフ(7)

4.レクリエーション活動の必要性

いつ終わるとも知れないテンペスト・ライフのストレスが、メンバーの心を荒ませ、関係をぎすぎすさせている。これまでに亡くなったメンバーのとむらいも兼ねて、みんなが一致団結していくためのイベントを開催してはどうか?――(ジョアン・シャルマ)

 会議散会直後――運営委員会事務所を飛び出したジョアンは、かつて大遺構と広場を囲んでいた壁の名残なごり――生えかけの乳歯を思わせる大石を越え、薄ぼんやりとした西日を浴びる住居群の間を駆けて遺跡北西部へ急行した。走りながらコネクトを開いてメッセージボックスをチェックすると、メッセージがずらっと並んでさらにどんどん増えていく。

 

「――ボクの速報にもうこんなにレスが! 当然だよなっ!」

 

 息をはずませながらメッセージを開くたび、ウインドウから歓喜の映像がはじけ出してジョアンの目をきらめかせる。整地された住宅地域を抜け、荒れ地のそこかしこにゴロッと転がり、あるいは乱雑に積み重ねられたひずんだ大石、巨石をひょいひょい飛び越え、乗り越えて行くと、貧相なテントに取り巻かれたドールハウスチックなピンクのプレハブハウスがだんだん大きくなる。ラストスパートをかけてぐんぐん急接近したジョアンは、息を切らして玄関ドアのドアノブに飛び付いたところで横からガシッと体を押さえられた。

 

「――ジョアンさん、ハイパープリティ! ハイパープリティッ!」

「あっ、ああ、そ、sorry!――hyper prettyッ!」

 

 警備役の少年にかけ声を返して笑顔を輝かせ合い、玄関に通されたジョアンを壁も天井も床もパステルピンクの小宇宙が迎える。レザーブーツを消して上がり、地に足がつかない足取りで左に曲がってホワイトチョコレート似のドアをノックしてからガチャッと開けると、陶酔を誘う匂いがむっとする熱気を従えて鼻腔を席巻した。

 

「――は、hyper pretty……!」

 

 16畳ほどの部屋に足を踏み入れたジョアンはほろ酔い顔で言い、ピンクの床に上気した顔を並べて正座している少年たちより何より先に床を半分以上占拠するローズカラー・カーペットの領域――その上にクッキーやマカロンなどが山積みの大皿を乗せたロココ調サイドテーブルを侍らせて陣取る巨大紅まんじゅう、ではなくジャンボサイズのビーンバッグ・クッションにシルバーのシュシュでまとめたきらめくツインテールを流し、ロリータ・ファッションをふわあっと沈めて、ミニスカのフリルから太ももを出してレースとリボンが飾る白ソックスに収まる足を組んでいるルルフに鼓動をいっそう激しくし、クラッカーを連発させるごとく両手を振り回した。

 

「や、やったよ、ルルりん! チャリティコンサートの企画が通ったんだ! 委員会が一応監督はするけど、基本的にボクらに任せてくれるって!」

「そうだってね……!」

 

 にんまりしたルルフはティアラ・カチューシャをはめた頭を、次いでフリルと蝶リボンで華やぐローズレッドのワンピースドレス姿をのっそり起こし、胸で羽を広げる黒レース入りシルバーリボンの蝶――その胴体である金バッジを天井の照明の光で艶めかせて、左斜め前方――カーペットの向こうに立つジョアンに甘く微笑み、正面で正座している10人ほどのルルラーことルルフのファンたちにあだっぽい視線を投げた。

 

「――みんなもほら、ジョビーの速報聞いてお祝いに駆け付けてくれたんだよ~」

 

 火照ほてった顔たちが口々にルルフを祝福すると、部屋はいっそう熱気を増して汗がにじみそうなほどになった。ここにいるルルりんキングダムメンバーは、ワークプランで本日が休日とされている者たち。それ以外は、ルルフに寄付するポイントを稼ぐべく狩りに精を出し、彼女に割り当てられているワークを代行してとなが食堂で業務を行っていた。

 

「――こんな大舞台、初めてだねっ! ルル、ハイパーにワクワクしちゃうなあ!」

「そ、そうだね」

 

 ジョアンは心惹かれてカーペットに踏み入りそうになるのをこらえ、両手を上げて、押さえて、押さえてというジェスチャーをした。

 

「――だけど、これは慰霊祭いれいさい一環いっかんだからね。はしゃいじゃダメだよ」

「はーい。死んだ人たちをお弔いするんだもんね」

「うん。それをきっかけに最近ぎくしゃくしているみんなをまとめるのが目的なんだから、責任重大だよ」

「了解っ☆」

 

 ウインクするとルルフは再びクッションに背中をうずめ、頭をのけ反らせてジョアンを見下ろした。

 

「――これもジョビーが委員会メンバーとして頑張ってくれたお陰だね。それじゃ、ご褒美としてカーペットの中に入っていいよ」

「えっ! カーペットの中、OKなの?」

「ただし、このクッションの1メートル手前までね」

「おっ、OK! Thank you!」

 

 感激するジョアンに、カーペットの外に正座する少年たちから羨望せんぼうと嫉妬のまなざしが集中する。ファンを100人近くまで増やし、寄付させたポイントでバス、トイレ、洗面所にキッチンが付いたオーダーメイドの2階建て住宅を入手したルルフは、さらに多くのポイントを得ようと待遇に差をつけてメンバー同士の競争をあおっていた。

 

「……そ、それじゃ、excuse me……」

 

 遠慮がちにローズカラーに足を踏み入れたジョアンはビーンバッグ・クッションの数歩前で正座をして太ももの上にピシッと両手を置き、くつろぐ天使を上目遣いに見てカフェ・ラッテ色の頬をとろっと溶かした。ルルりんキングダムが大きくなるにつれ、いつの間にか広がった距離を縮められたことが嬉しかった。