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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.16 テンペスト・ライフ(5)

「よう、斯波、加賀美」

 

 右手を軽く上げ、やや興奮気味に声をかけた矢萩は、後ろで真木と中塚がそれぞれ引っ立てる少年たちを自慢げに振り返った。スペシャル・スキルからアプリまですべて封じる〈封印の手錠〉で拘束された2人は、唇を切っていたり鼻血を出していたりする腫れた顔を軍務マネジメント局事務所の窓から漏れる明かりに照らされ、浮かび上がらせていた。

 

「……その2人――」ユキトの目が、傷や腫れから矢萩に転じる。「どうしたんですか?」

「騒ぎを起こしたんだよ、こいつらは」

「騒ぎ?」

「ケンカよ、ケンカ」入谷がキーの高い声で嘲笑し、指差す。「マギくんに引っ立てられてるのが狩り代行者で、中ちゃんのが依頼人。手数料でトラブったらしいわよん」

 

 むっつりの真木が純血日本人少年の右肩を後ろからつかんで揺すり、「純血の恥さらしめ」と罵りの一突きを加える。狩りで稼げないメンバーから代行を請け負う者たちが最近現れたのだが、中には依頼者に手数料の追加を要求したり獲得ポイントをごまかしたりする者がいて、トラブルに発展することがあった。そうした事態に憤る矢萩は、法務マネジメント局が入る運営委員会事務所2階をにらんで批判を口にした。

 

「委員会が体調不良とかでの交代を認めるから、こういう輩が出て来るんだ。チームメンバーが欠けたら、狩りを許可しないくらいのルールを作ればいいものを……!」

 

 中塚が襟首をつかんでいるミックスらしい少年の顔を横からのぞき、「足手まといと組むよりは、使えるヤツが来た方がチームメンバーは嬉しいだろうけど」と嘲り、入谷が左右お団子頭を揺らして、「ダメ人間はつらいね~」と小馬鹿にする。イジンの依頼者を蔑んだ目で刺していた矢萩は顔を前に戻し、軽く腕組みをすると、ユキトに焦点を合わせてなめるように自分のあごを一撫でした。

 

「斯波、お前、イジンのガキとやり合ったんだってな」

「はい、あいつ……シン・リュソンと……それで、佐伯さんに呼び出されました」

「ふぅん。何て言われたんだ?」

「ヤマトとして、他人の手本になるようにとたしなめられました」

「そうか……けど、イジン――とくにあのクソガキみたいなのは、ボコボコにしなきゃ分からないんだ。あいつらは低能だからな」

 

 三人衆とせせら笑う矢萩にユキトも薄笑いを浮かべ、潤が口角の両端を少しだけ上げる。同じ隊服を着て同じ空気を吸っているうち、ユキトは警備隊内に蔓延まんえんするヤマト主義にじわじわ毒されていた。純血日本人を最も優れた種族、それ以外の者は劣等と見なす思想――佐伯にしろ矢萩にしろ、咲かせている花の色形が違うだけで根は同じだった。

 

「あー、出動したら汗かいちゃったなぁ」

 

 入谷が隊服の詰襟と第一、二ボタンを外し、右手で貧しい胸元に風を送る。

 

「――こいつらを夜勤者に引き渡したら、テルマエランド行って汗流そうっと。――ねえ、加賀美隊員も一緒にどう? 洗いっこでもしない?」

「ありがとうございます。でも、私たちこれから食事に行くところなんです。また今度誘って下さい」

 

 一学年下の入谷の誘いを丁重に断った潤は、矢萩たちに頭を下げるとユキトを促して軍務マネジメント局事務所から少し足早に離れた。ちらっと振り返ったユキトは矢萩たちが事務所内に消えたのを確かめると、薄暗がりを黙って見つめながら歩く潤に並んでライトンを起動させ、光を放つブタ鼻で行く手をささやかに照らしながらとなが食堂に向かった。