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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.16 テンペスト・ライフ(4)

3.警備隊の強化について

軍務マネジメント局の管轄下に入った警備隊は、コミュニティ防衛のかなめ。いつまた強力なモンスターが襲来するとも限らないことを考えると、有事に備えて組織を強化する必要がある。そのためのポイントをもっと支給してもらいたい。――(佐伯修爾)

「――なるほど、事情はよく分かった」

 

 そう言って佐伯はオフィスチェアから立ち上がり、日没間も無い蒼い空を映す窓の前を横切ってデスクの横を回り、並んで立つユキトと潤の前で足を止めた。

 

「――加賀美君から見て、斯波君の行動は適切だったのだな?」

「はい」

 

 緊張した面持ちで2,3歩前に立つ佐伯に答え、潤は椿色の唇を動かした。

 

「――相手は私たちを軽んじ、侮辱さえしたのです。斯波隊員は、警備隊の権威を守ろうとしたのです」

 

 潤の隣で、ユキトはそびえる城のような佐伯を見上げた。シンとの乱闘を紗季に通報され、駆け付けた警備隊員に取り押さえられたユキトは、警備隊本部で取り調べを受けたのち、上階にある軍務マネジメント局事務所の軍務マネージャー室で潤ともども釈明する羽目になっていた。

 

「そうか。しかし、君たちは警備隊員であると同時に皆の手本になるべきヤマトオノコとヤマトナデシコ。挑発されたとはいえ、殴り合いまですることはなかったな」

「……はい……」

 

 弱々しく答え、ユキトは奥二重の目を伏せて眉間にうっすらしわを寄せた。

 

「……すみませんでした。騒ぎを大きくしてしまって……」

「責めているのではない」

 

 佐伯は腕組みをし、やや声を重くした。

 

「――最近、コミュニティの一部に乱れが生じている。それを正すのはもちろんだが、模範となる行動を心がけることも安寧秩序につながるのだと理解してもらいたいのだ」

「はい……」

「分かってくれればいい。君たちの処分だが、法務マネジメント局が暴行とそれを容認していたペナルティとして罰ポイント刑を科してきている。君たちのコネクトにも法務マネジメント局からメッセージが届いているだろう。不服申し立てをして裁判で争うこともできるが、どうする?」

「僕――自分は、争うつもりはありません。ポイントを支払います」

「私もです」

「そうか。では、速やかに納付するように。以上だ。帰ってゆっくり休め」

 

 ありがとうございます、と頭を下げた両名は応接用のテーブルと椅子の横を通って退室し、並んで歩ける幅の廊下を歩いて総務室前の引き戸を開け、外廊下に出た。飾り気が無い手すりの向こう――事務所東側には、警備隊員の訓練スペースである投光器が設置された小さなグランドが見え、その後方にある、かつて付近をぐるりと囲んでいた壁の名残の外側では、プレハブハウスとテントが夜に染まり始めた空に見下ろされながら間隔を置いて群れている。かつて大遺構と広場だった場所は、運営委員会事務所と警備隊本部が入る軍務マネジメント局事務所が斜に並び立つコミュニティの中心に変わっていた。

 

「……ごめんな、潤」

「うん?」

 

 足を止め、ユキトは振り返って巻き込んでしまったことをわびた。

 

「――いいのよ。それより、今日の分の申告を忘れずにしないとね」

「あ、コミュ税か」

「もう日給が振り込まれているはずだから、財務マネジメント局にアクセスして納付しないと。遅れるとうるさいからね、あの人たち」

「そうだね」

 

 事務所横にある警備隊・夜勤者用の休憩所を一瞥し、ユキトはタン、タン、タン……と音を立てて外階段を下りながら財務マネジメント局のサイトにアクセスしてため息をついた。

 

「……稼ぎの4分の1を納めて、さらに罰ポイント……プレハブとはいえ、家のローンがまだあるのにな……」

「それは私も同じよ。でも、ユキトなら心配いらないでしょう。警備隊の仕事を頑張っているし、狩りに出ればしっかり稼いでいるんだから。もしものときは、コミュ税や罰ポイントよりシャイロック金融を優先しないとね。返済が滞ると利息が高くなるから」

「……がめついからな。シャイロック金融の社長――ゴンザレス・ナニワは」

 

 外階段を下り切り、後から下りて来た潤と並んで自己申告と納付を終えたユキトは、自分の右手に立つプレハブ建築の地下1階・地上2階建ての軍務マネジメント局事務所と、その斜め前――大遺構跡地に左右から照明灯に照らされて立つ、やはりプレハブの地上3階建てのハーモニー運営委員会事務所をしげしげと眺めた。どちらもシャイロック金融から借りたポイントを土木工事アプリ〈DAIDARAダイダラBOCHIボッチ〉に払って整地し、StoreZに出店している建築ショップ〈ダイダロス組〉に施設をオーダーメイドで注文、購入して設置したものである。

 

「どうかしたの?」

「いや、今さらだけど、どっちも僕たちが建てた――っていうか、買ったんだなと思って」

「感慨にふけったのね」

 

 ふふっと微笑み、潤は右手でサラッと黒髪ロングヘアを撫で付けて建物を見上げた。

 

「――〈テルマエランド〉や〈となが食堂〉、ランドリーなんかもね。こんな風に住みやすくしていけるのなら、リアルよりもこっちの方がいいかもって思う人が出て来るのも分かるわ」

「そうかな……僕は……」

 

 ユキトはナックル・ガントレットをはめた右手にちらっと見、言葉を飲み込んだ。デモン・カーズは鋼の下を源に日一日と全身を蝕んでおり、頭痛やだるさに悩まされることが多くなっていた。

 

「……お腹すいたな……となが食堂に行こうか」

 

 力無く言って歩き出したところで、ユキトは自分たちの方へ歩いて来る集団に気付いた。薄暗い上に距離があってまだよく見えなかったが、手錠を前でかけられているらしい2人を連れた、隊服姿の4人――やがて、ユキトはそれが矢萩あすろと〈矢萩三人衆〉と一部で呼ばれる真木カズキ、中塚崇史、入谷玲莉だと認識した。