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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.16 テンペスト・ライフ(3)

「――さっさとよこせよ、ポイントッ!」

 

 血と汗で汚れた褐色顔がいきりたち、不敵な面構えを狙ってショットガンの銃口をバッと上げる。バイオレントⅣの銃身で自分の右肩をトントン叩き、蔑みで唇を曲げたシン――ガシャッとポンプ・アクションして紗季に押さえられるペルー系少年、稲森アラン――そのいさかいを服があちこち裂け、流血して痛々しい格好の少年少女4人が、重苦しい深緑の揺らめきになぶられながら殺気立って囲んでいた。

 

「――ちょ、ちょっと、落ち着いてよ!――シン、あんた謝んなさいよ!」

「はァん? なんであやまんなきゃなんねーんだよ?」

「あんた、勝手にこの人たちの獲物に手を出しちゃったんでしょ? そういうときは、謝って獲得したポイントを渡すルールなのよ」

「そうだッ!」

 

 アランが今にも暴発しそうなショットガン越しに怒鳴ると、得物を手に取り囲むチームメンバーたちも口々にルールを守れとシンをなじり、責め立てた。

 

「フン、よくゆーぜ。てこずってヒーヒーいってたくせによ」

「このガキッ!――」

 

 ショットガンで殴りかかろうとするアランをなだめ、紗季はともかくルールを守るように指示したが、シンはフンと鼻で笑っただけだった。自チームを離れたシンがアランたちと交戦するモンスターに出くわし、鬱憤うっぷん晴らしにデストロイ・ブーケを食らわせて倒してしまったことがトラブルの発端だった。

 

「――俺たちは、あのモンスターに少しずつダメージを与えていたんだ! それなのに、いきなり横から余計なことしやがって!」

「セコいことほざいてんなよ。テメーたちだって、ダメージあたえたぶんはもらってんだろーが」

「ふざけるな! これだから中国系は嫌いなんだよ! 性根がいやしいカスどもめ!」

「ああ? ブッころされてーのか、テメー!」

「やめなさいって!――仲間同士でけんかしてどうすんのよ!」

「もういいよ、アラン君」

 

 囲む1人――モーニングスターを両手で握ったインドネシア系少女の中西へルマが、目の前に浮かぶコネクトのウインドウをギョロッとした目で示す。

 

「――警備隊に通報したから。すぐに来てくれるわ」

「よし!――みんな、こいつを逃がすなよ!」

 

 アランが紗季を押しのけて再びショットガンの照準を合わせ、バイオレントⅣで迎え撃つ構えのシンをヘルマたちが得物でけん制する。紗季が紅潮した頬を引きつらせて間に入っていると、揺らめきの向こうから駆け足の音が近付いて、浮かび上がった影が黒い隊服姿の少年少女――斯波ユキトと加賀美潤になって事件現場に到着する。

 

「――こいつが許可なく獲物に手を出したって?」

 

 荒い息を吐くユキトが感情的にシンをにらみつけ、力んだ鋼の右手を重たげに振って双方武器をいったんイジゲンポケットに収めるようつっけんどんに指示すると、アランたちはトラブル相手への怒りを抑えながら権威に従った。

 

「あなたもよ」

 

 潤が銃口を上に外したリボルバーを握り続けるシンに迫ったが、返って来たのはそっぽを向くせせら笑い。見かねた紗季に無理矢理奪い取られそうになってようやくバイオレントⅣがイジゲンポケットに引っ込むと、ユキトと潤は紗季に口を挟まれながらアランたちの訴えを聞いていった。

 

「――悪気があった訳じゃないのよ。少し大目に見てあげてよ、斯波」

「……事情は、よく分かったよ」

 

 右脇で求める紗季からどこかだるそうな眉根の溝をそらし、ユキトは悪びれた様子がないシンを潤と並んで詰問した。

 

「お前が勝手に他チームの獲物に手を出し、倒してしまった。そうだな?」

「その場合、獲得したポイントを渡すってルール、知っているわよね?」

「それがなんだってんだ? オレは、こいつらをたすけてやったんだぜ?」

「例え、そうだとしても――」

 

 じりじりする顔で唇が尖り、ねじ伏せようと曲がっていく。

 

「――違反は違反だ。ルールに従ってポイントを渡すべきだろ」

「はん、ルール、ルール、ルールか。ルールがそんなにただしいのかよ」

 

 聞く耳を持たないシンに、アランたちから罵声のつぶてが飛ぶ。ルールに固執しないで解決策を話し合う道もあったのだろうが、程度の差こそあれ皆頭に血がのぼっていたせいで事態はどんどん紛糾し、警備隊員の面目を保とうと躍起になるユキトの顔を赤黒くさせ、怒りを幾重にも刻み付けた。

 

「――みんなのためにルールがあるんだぞ! 身勝手を許したら、コミュニティはどんどん乱れていくんだ! そんなことも分からないのか!」

「ワカりたくもねーよ。ペアルックだからってイキがりやがって」

「はァ?」

「そのババアとペアルックだからって、ウカれてんじゃねえっていってんだよ。ケイビタイとかってのにはいったからって、チョーシにのりやがって。またキンタマけっとばすぞ、テメー」

「!――」

 

 紗季が止める間も無く飛びかかったユキトはシンと取っ組み合いになり、不気味にたゆたう地面に倒れてめちゃくちゃに転がりながら鋼の右こぶしで憤怒の形相を殴り付けた。

 

「――バカにしやがってッ! ルールを守らずに勝手ばかりする! 最悪なんだよッッ!」

「そうだろうよ! なにしろオレには、うすギタねえニホンザルがはんぶんマジってんだからなァッ!」

 

 シンの右肘がバリア越しに左頬を打って理性を粉砕すると、たちまち頭の血が沸騰したユキトは牙をむき出しにして激情のままこぶしを振るった。

 

「――このイジンめッ!」

「るせェんだよ、クソニホンザルッ!――」

 

 止めるよう求める紗季に、これも警備隊の公務の一環だとにべもなく返す潤と暴力的な声援を送るアランたちの前で血走った目をむき、顔面で憎悪を燃え上がらせて殴り合う少年たちの姿は、衝動のまま闘争に狂う猿に似ていた。