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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.16 テンペスト・ライフ(1)

 第4回 運営委員会会議 議事録

 

 日時:テンペスト・ライフ 39日目 14:00~16:00

 

 場所:運営委員会事務所 3階会議室

 

 [出席者]

 新田公仁(コミュニティ・リーダー)

 後藤アンジェラ(サブ・リーダー 兼 情報マネージャー)

 佐伯修爾(軍務マネージャー)

 篠沢・エリサ・紗季(法務マネージャー)

 クォン・ギュンジ(総務マネージャー)

 ジョアン・シャルマ(財務マネージャー)

 川瀬慶之(労務マネージャー)

 

 葉エリー(書記)



 [議事]

1.メンバー同士のトラブルについて

テンペスト・ライフが始まって1カ月強経つが、最近メンバー間でもめ事が増えている。――(篠沢・エリサ・紗季)

2.ベース・ギャランティ制度について

徴収したコミュニティ税の一部が、ポイントを十分稼げない者たちに生活救済目的で支給されているが、我々は浴場や食堂、共同トイレ等の公共施設購入、それらの施設及び住居の設置に適するように遺跡南側地域を整地するためにシャイロック金融から借りたポイントを返済しなければならないし、脅威に備えて武装強化する必要もある。適切なポイント配分の観点から見て、ベース・ギャランティ制度における現行の最低生活基準額は妥当なのか?――(佐伯修爾)

 

 ずしりとした黒いリボルバー片手にしゃがみ、シンは深緑の揺らめきを密やかに、沼に身を沈めて獲物に忍び寄る肉食獣のごとく進んだ。輪郭が溶けた枝葉の間から陰鬱な空がまだらにのぞく森の空気は、汗でぎらつく肌に冷ややかに触れ、背中がベタッと張り付いた半袖黒Tシャツの袖口やVネックの襟元から入り込んで悪寒を感じさせる。

 

(……2……3……)

 

 行く手に表示される複数の赤い光点――ヘブンズ・アイズをギラッと横目でにらんでまた数を確かめ、絡もうとする下生えを振り切ってスポーツサンダルをはいた足をザサ……ザサ……と前に運ぶと、やがてゆらゆら水草のように揺れる木々を隔てたおよそ100メートル先に斧状の角を生やす頭から尻尾まで重厚な黒い皮膚に覆われた、体高1.5メートルほどある大型の装甲獣たちが垣間見える。

 

『装甲オオカミ〈リュ・パス〉3体、強敵です』

 

 ワンがシンの頭上1メートル強に現れ、警告する。

 

『――独りでは危険です、シン・リュソン。同じチームのメンバーに助けをお求めになる方が賢明です』

「ヒッこんでろ……!」

 

 爪の色が悪い右手親指が、バイオレントⅣの撃鉄をガチリと起こす。傾き、ねじれた木々がたゆたう陰から陰へとくすんだぼさぼさ金髪を跳ねさせて駆け、距離を縮めてごりごりした幹にぴたりと身を寄せると、熱い息と早鐘打つ心臓を殺しながら1体に狙いを定める。

 

 ――ドォンッッ!

 

 50口径の銃口が火を噴いて跳ね、空間のゆがみをぶち抜いた弾丸が背中の装甲にめり込んでギャウッと鳴き声をぜさせる。さらにたたみかける銃撃――リュ・パスたちは装甲にひびを走らせながら尖った耳をそばだて、いかつい頭を巡らせて木陰の敵を見つけるや樹間を縫ってドドドドッッと駆け寄って来た。

 

「――ちっ、しぶてーなッ!」

 

 囲まれないように走り出し、シンは手早く弾薬を再装填して迫るリュ・パスたちに連射したが、仕留め切れないうちに斧状の角が肉を裂こうと襲いかかる。

 

「――ザケやがってッ!」

 

 突進する角をバッと横にかわし、至近距離から側頭部に弾丸をぶち込んで光のちりに変えた直後、シンは別の角を右脇腹に食らって下生えを巻き込みながら流動する地面を転がった。

 

「――ぐぬゥッ!」

 

 五体をはじけさせて起き、突撃をかわした前後でガルル……とうなる装甲獣をバイオレントⅣでけん制し、右脇腹に左手を当てる。手の平にべっとり付く、血の感触……バリアでダメージ軽減されたにもかかわらず右脇腹はTシャツもろとも裂け、カーゴパンツのカーキ色が赤い染みに侵されていく。

 

「……クソったれどもが……!」

『再度、警告します』上空でワンがきらめく。『単独では不利です。コネクトで応援要請なさるか、エスケープを試みて下さい』

「うるせェッ!――」

 

 激発し、ぶっ放しながら前方へ突撃――その蛮勇が右目をぶち抜いてちりを発生させたとき、シンは背後からはね飛ばされて幹に顔と胸とをドオッと激突させ、ふっと意識を失った。

 

「――ぅグッッ!」

 

 意識を引き戻して反射的に脇へ跳ぶと、角が幹を縦にズガァッッと切り裂いて枝葉をガクガクもだえさせる。食い込んだ角を引き抜き、尖端を転じてじりじり迫る牙むく装甲獣――弾薬をリロードしてスイングインしたシンは、ありったけをぶち込んでやろうと半身になり、血まみれの右脇腹の痛みをこらえながら右腕を伸ばして照準線をターゲットに合わせた。

 

 ――ガァァァッッッ!

「――ゥウオオオオッッッ!」

 

 猛り、下生えを散らして地を蹴る獣、迎え撃つ咆哮――と、トリガーを引いたバイオレントⅣが突然八方に分身し、九つの銃口それぞれが火を噴きまくってリュ・パスを黒い欠片と肉片飛び散る花火に、そして立ちのぼる光のちりに変えた。

 

「――ぐぅ……」

 

 深緑の揺らめきに消えていく光のちりを見て息をつき、シンは一つに戻ったバイオレントⅣを不可解そうに矯めつ眇めつした。

 

「おい、いまのはナンだ?」

『〈デストロイ・ブーケ〉をお覚えになったのです』

「デストロイ・ブーケぇ?」

『スペシャル・スキルです。銃器を一時的に分身させて火力を高めます。イジゲンポケットにしまってある銃器を出現させるように設定もできます』

「へぇ……モノさえあれば、ドハデにヤレるってことか――づっ……」

 

 右脇腹を左手で押さえ、一撃を受けた背中の痛みをかみ殺す耳に下生えを蹴って駆け寄る足音が聞こえる。汗まみれのしかめ面をそちらに向けたシンは、赤いハンドルの洋弓左手に揺らぎから浮かび上がるオレンジジャージ少女を認めてうっとうしそうに舌打ちした。