REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.15 ハーモニー(6)

「選挙か……」

 

 人いきれでむっとする中、ユキトは目の前に表示された資料を見ながらつぶやいた。

 

「……希望者は、今夜0時までに〈エレくしょん・エレン〉に立候補者として登録……選挙活動は明日の11時30分まで、投票受付は正午から午後2時締め切り……――ずいぶん駆け足だよね」

「仕方ないわよ」潤の視線が、資料から右隣に転じる。「ぐずぐずしている間に、また恐ろしいモンスターが襲って来ないとも限らないんだから。早くリーダーを決めて組織を作る必要があるのよ」

「うん、そうだよね」

「……それにしても、悪賢いわよね」

「えっ?」

「あの子のことよ」

 

 尖った視線をたどったユキトは、焚き火の前に新田と並んで立つ満面スマイルのルルフを見た。主に男性陣から熱視線を集める美少女は、炎の明かりを後光にして翼状のツインテールを荘厳にきらめかせていた。

 

「……何かこそこそ話していると思ったら……」

 

 潤は紗季と並んで資料を精読しているジョアンを横目で刺し、声を暗く潜めた。

 

「――あんな風に自分を売り込むなんて……しかも、死んだ人まで利用して……いやらしいったらないわ」

「ああ……」

 

 あやふやな返事をし、先ほどの出来事を振り返るユキト。突然、いさかいを仲裁すると言い出したルルフは、危ないからと制止しようとする紗季たちに構わず大胆な行動に出たのだった。はらはらしていたジョアンも彼女が歌いながら前に出てからは、手に汗握りながら成功を祈り、声援を送って流れを決定付けるきっかけを作った。潤にとってはトラブルや悲劇を人気取りに利用するルルフも、それに協力するジョアンも軽蔑に値するのだった。

 

「……ともかく、バトルロイヤルとかにならなくて良かったよ。これでちゃんと選挙が行われる――」

 

 ――この選挙案を了承される方は、挙手をお願いします。

 

 焚き火の方からハンドマイクを通じて増幅された新田の声が響くと、周りで一斉に手が挙がる。ユキトも潤と右手を挙げ、資料の案通り選挙が実施されると決まった。

 

「……リーダーは、新田さんで決まりだね。新田さんがリーダーのコミュニティができれば、救助が来るまでの間うまくやっていけるさ。もしかしたら、ここから出る方法を見つけてくれるかもしれないしね」

「そうね……」

 

 どことなく他人事の潤をよそに、ユキトは自分の言葉で己を励ました。ナックル・ガントレットの下から全身を蝕み、死に至らしめる呪い……それから逃れるには、ここから脱出する他ないのだ。

 

 ――それでは、明日の正午から電子投票を始めます。皆さん、よろしくお願いします。

 

 投票を呼びかける新田に大きな拍手が送られる。ルルフの支持表明もあって当選はほぼ確実になっており、ユキトも左手と鋼の右手を強く叩き合わせた。焚き火の前に立つ力強い存在感、彼を支持する割れんばかりの拍手――そのエネルギーは、ユキトに不条理な運命を振り切る希望を与えて高揚させた。

 

(……絶対、リアルに戻ってやる……!)

 

 願いを込めて熱烈に手を叩く横で、潤は形ばかりの拍手をしていた。




【――選挙の結果、予想通り新田さんがリーダーのコミュニティが設立されました。コミュニティには、後藤さんの案に基づいてリーダーをトップとする運営委員会が設置され、そのメンバーである総務、軍務、法務、労務、情報、財務それぞれを管理するマネージャーの下にマネジメント局が置かれて、自薦、他薦やスカウトされた人たちが局員として働くことになりました。みんなの調和を願って〈ハーモニー〉と命名されたコミュニティは、こうして流動する世界に船出したのです……――】