REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.15 ハーモニー(5)

「――とまあ、そんな訳で俺たちは選挙に反対だ。あんたら純血の思い通りにはならないぜ、新田さん」

「……それなら、君はいったいどうやってリーダーを選ぶつもりなんだ?」

「決まってんだろ」

 

 キムが黒靴をはいた右足を1歩前に出すと、佐伯と矢萩が新田を警護しようとそばに寄る。それを見て「何ビビってるんだよ」と嘲ったキムは、固めた右こぶしをグッと前に突き出した。

 

「――ここはモンスターを狩って生きていく世界なんだ。だったら、上に立つのは強者がふさわしいだろ? 立候補者同士やり合って、勝ち残ったヤツがリーダーでいいんじゃないか?」

「貴様――」佐伯が、今にも右手の中に刀を出現させそうな気配で言う。「腕ずくで権力をつかむつもりか?」

「いけないかよ? 世の中ってのは弱肉強食なんだぜ。お前だって、どっちかって言うと俺の考えに近そうな感じだがな」

「貴様などと一緒にするな。集会を荒らすつもりなら、容赦なく排除するぞ」

「できるつもりか? 戦闘スキルが高いのは自分だけだとでも?」

 

 にやにや笑うキムの両脇でチュ・スオとオ・ムミョンが身構え、佐伯の横で矢萩がいきり立つ。赤と黒の相克に、周りは巻き込まれてはたまらないと後ずさった。

 

「やめろ、やめてくれ!」新田が間に入って両手を振る。「今日まで生き延びられたのは、みんなが力を合わせたからなんだ。仲間割れなんかしていたら、リアル復活することだってかなわなくなるぞ!」」

「ふふん、戦闘スキルが上がれば、力を合わせる必要も無くなるだろうさ。それに、リアル復活ってのは、無保険の人間とかにはもう無理かもしれないぜ。まぁ、オレは保険に入っているから心配ないだろうがね」

「ふざけやがって!」吠え立てる矢萩。「保険に入っているから心配ないだと? 貴様らに仕事を奪われたせいで、保険の金さえ払えない日本人がいるってのに!」

「ふん、責任転嫁するんじゃねえよ。まともに稼げない無能な自分が悪いんだろうが」

「貴ッ様ァ!」

 

 激高した矢萩が抜き身の日本刀を出現させて振りかぶり、群衆から悲鳴が上がる。佐伯に左腕で制止されて震える切っ先をキムは面白そうに眺め、炎に油をぶっかけるごとく挑発した。

 

「やろうってのか? いいぜ。いっそ立候補ってのは抜きにして、全員でバトルロイヤルするか?」

 

 キムが仲間ともどもイジゲンポケットから凶器を出そうとしたとき、甘くきらめく歌が流れて殺気を乱す。歌声は群衆を左右に動かし、そこにできた道を歩いて黄金の翼を持った天使が前に出る。

 高峰ルルフ――

 新田たちの前に立ったブロンドのツインテール少女は、瞳のスポットライトを一身に浴びながら調和を優美に歌って緊迫した空気を和らげ、成り行きにはらはらしていた傍観者たちを落ち着かせると両手を華やかに広げてフィニッシュを決め、佐伯と矢萩、それからキムたちコリア・トンジョクを見て、立てた右手人差し指をふるふると左右に振った。

 

「ケンカなんてダメですよ~ みんな、仲良くしなきゃ。ねっ?」

「何のつもりだ、ブラジル女」

 

 調子を狂わされたキムがすごむと、ルルフは切なげに目を潤ませ、群衆に向かって扇情的に訴えた。

 

「だって……仲間割れなんかしていたら、また怖ーいモンスターが襲って来たとき大変なことになっちゃうもの……もう何人も亡くなっているのに……ルルは、そんなの嫌。選挙をやって、新田さんみたいにちゃんとした人を選べば、差別とかが無い素敵なコミュができるとルルは信じています」

 

 群衆から「ルルりんの言う通りだ!」とジョアンの声が上がり、賛同が広がっていく。流れが戻ったのを見て取った新田は、ハンドマイクをしっかり握って皆に語りかけた。

 

「コミュニティは、リーダー1人のものじゃない。ここにいる全員が関わって動かしていくものだ。何か問題があったときは、みんなで考えて解決していけばいいと俺は思う」

 

 後藤が拍手をし、そこに割れんばかりの拍手が重なる。目論見が外れたキムはルルフをにらむと、流れを取り戻そうと向きになって右手に得物を出現させようとした。

 

「待って下さい」

「あン?」

 

 首筋にかかる声にぎょっとして振り返るキム――と、白いパジチョゴリ姿のクォンが背後霊よろしく立っていた。

 

「――びっくりさせやがって! 何だ、クソ犬!」

 

 目を三角にするキムとコリア・トンジョクメンバーに注目されたクォンは薄笑いを浮かべ、拍手にかき消されない声で意見した。

 

「ここはおとなしく引きましょう。ボクら以外すべてを敵に回して戦える力は、まだコリア・トンジョクには無いんですから」

 

「……生意気な口利きやがって! このクソ犬がッ!」

 

 こぶしがクォンの左頬をもろに殴って地面に尻もちをつかせ、後ろにいたユンが危うくぶつかりそうになる。キムは引き止めようとする新田を振り切って仲間たちともども群れから離れ、ユンも地面に尻をついたクォンを後ろめたそうにちら見してからそそくさと後を付いて行く。クォンもすぐに立ち上がってパジチョゴリに付いた土を払うと、小走りに行ってしまった。

 

「どうしよう? 説得して呼び戻すべきかな?」

 

 困り顔の新田が後藤に寄って小声で意見を求めると、「必要ありません」と、きっぱりした答えが返る。

 

「――話し合いを放棄したのですから、その結果について文句を言う資格はありません。彼女が高めてくれた熱が冷めないうちにまとめて下さい」

「わ、分かった」

 

 きらきら手を振って皆に愛嬌を振りまくルルフを見て、その隣に並んで咳払いをし――新田は静まった若者たちに後藤から資料を一斉送信してもらい、選挙について具体的な話を始めた。