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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.15 ハーモニー(4)

「皆さん、お疲れのところお集まりいただき、ありがとうございます」

 

 揺れ動く焚き火の斜め前に立った後藤は、オーボエの音色を思わせる声をハンドマイクとワイヤレスでつながった脇のアンプ内蔵スピーカーで増幅して挨拶し、翼を広げた形で広場に群れた六百数十名をメガネレンズに映した。横では新田が炎を光背こうはいにして立ち、その頭上でいつの間にか現れたワンが黄金こがね色に光っている。羊の群れに似た群衆の周りには警備隊員が牧羊犬よろしく立っており、彼等のリーダーは集団の右翼そばから矢萩とスピーチを聞いていた。

 

「――今回、皆さんに集まっていただいたのは、これからどのように暮らしていくか決めるためです。――」

 

 後藤はテラ・イセクのような脅威への備えや生活のためにモンスター狩りをしなければならないことを考えると、きちんとした組織を作るのが望ましいだろうと前置きしてハンドマイクを新田に手渡した。

 

「新田公仁です。こうして皆さんが集まってくれたことに、まずは礼を言います」

 

 頭を下げ、真剣な顔の集まりを見ながら全員を包括するコミュニティ設立を提案する新田。

 

「――救助を待つにしろ、脱出ルートを探すにしろ、まずはここでみんなが問題なく暮らしていける仕組み作りが必要だと思う。調べたところだと、金融アプリ〈シャイロック金融〉に立ち上げたコミュニティが毎日どのくらいポイントを稼げるかアセスメントしてもらえば、その評価に基づいた融資を受けることができるそうだ。ポイントを融通できれば、StoreZからもっとちゃんとした共同トイレや入浴施設、食堂なんかを購入できる。この遺跡を俺たちの望む町に変えることができるんだ」

 

 コミュニティ構想――それはキャンプ生活に疲れ始め、先行きへの不安を募らせていた者たちの心をつかんだ。この遺跡を快適に変えていくことができれば、いつまで続くのか分からないここでの生活が大分増しになるのは間違いなく、彼等はそれぞれの瞳に話を続ける新田を映して熱心に耳を傾けた。

 

「――組織を作るに当たって、まずリーダーを決めようと思う。立候補、選挙運動といった手順を踏んだ上で投票して選出するんだ。どうだろう? 異論がある人はいるか?」

「大ありだな!」

 

 張り上げられた声に広場は水を打ったようになり、新田の目が群衆の左翼端に動く。キム・ジュク――朱のパジチョゴリに赤ベスト、黒い靴をはいた十数名を従えて腕組みする青年は、ひん曲がった唇をそり返らせて紫煙を吐くようににやついていた。

 

「君は……」新田はアドレスブックでさっとプロフィールを確かめ、「意見があるのなら聞くよ。キム・ジュク君」と体を向けた。

「出来レースだよな。それって」

「出来レース?」

「そうだよ」

 

 キムはハンドマイクを持つ新田をにらむと、自分たちを遠くからねめつける佐伯と矢萩を見て段鼻で笑い、声高に指摘した。

 

「ここにいる者の3分の2以上は純血日本人。それで選挙をやれば、純血日本人のリーダーが生まれるのは目に見えている。そうなれば、当然純血日本人が優遇されて俺たちみたいな移民やミックスは冷遇されるに決まってるんだ」

「ルーツで人を差別したりはしない」きっぱり否定する新田。「俺がリーダーになったらの話だけど。立候補するつもりだからね」

「ふん、そんなのしょせん口だけだろ。共生だの何だの言いながらリアルでは非純血が事あるごとに差別され、アストラルをデザれるワールドでも移民やミックスだと目星を付けられた者が誹謗中傷されるのは日常茶飯事。それで、どうしてあんたの話を信用できるんだ?」

 

 虎を思わせる目でキムは新田、そして佐伯と矢萩をにらんで牙をむいた。その左右ではチュ・スオが追従して茶番劇だとなじり、オ・ムミョンが後ろのホンやイたちをあおって非難の炎を上げさせる。純血日本人やブラジル系が騒ぎに嫌悪のまなざしを向ける一方、キムたちの発言に不安をあおられてざわめく者も少なくなかった。