読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.15 ハーモニー(2)

「……警備隊の活動は、みんなを守るものだからね。やるよ、僕」

「決まりね。――あの、よければ私も加えていただけませんか、佐伯さん?」

「もちろんだ。2人とも歓迎する」

「ふっ、これからは、お前らも俺たちの仲間だな」

 

 矢萩が右袖を放した紗季やジョアンを押しのける勢いで近付き、ユキトの右肩をなれなれしく叩く。佐伯に促され、ユキトは渋面の紗季やどうでも良さそうなルルフの隣で表情を硬くしたジョアンの前で潤とともに『警備隊』のサイトにアクセス――入隊申請し、承認されて一員になった。それを確認すると、佐伯はコネクトを開いた。

 

「君たちのコネクトに隊服一式とブーツ、契約書を添付したメッセージを送ったから確認してくれ」

「あ、はい」

 

 ユキトは入隊を歓迎するメッセージと添付データを確かめ、緊張したまなざしで契約書を読んだ。

 

「……本格的ですね」

「形式的なものだよ。さ、袖を通してみてくれないか」

 

 佐伯の希望に応じ、ユキトと潤はセットをイジゲンポケットにダウンロードすると、早速着替えに取りかかった。と言っても、頭で考えれば一瞬で済む。ユキトは右前腕のナックル・ガントレットはそのままにブレザーとスラックス、ローファーから、潤はセーラーブレザーとミニスカート、ローファーから佐伯たちと同じ詰襟、5つボタンの黒い隊服と黒革ブーツへと――

 

「2人ともよく似合っている」

 

 褒められて潤ははにかみ、ユキトは佐伯と同じ格好になったことで気が強くなって、両手でこぶしを作った。

 

「これからよろしく頼む。斯波、加賀美」

「は、はい、こちらこそ――」

 

 ユキトの挨拶途中で佐伯の視線が鋭く脇にひらめき、直後に矢萩が、紗季やジョアンたちの後方をにらんで、「佐伯さん!……」と警戒の声を発する。どうしたのかと振り返ったユキトは、たじろいで横にどく少年少女たち――そこにできた道を肩で風を切って歩いて来る10人ほどの赤い影を認めて眉を上げた。

 

(――な、何だ、あれ?)

 

 朱色のパジチョゴリの上に赤ベスト、白いポソン(靴下)に黒のカプシン(靴)――まるで韓国時代劇から飛び出して来た衣装で統一された一団は、先頭のキム・ジュクに従って真っ直ぐ佐伯たち警備隊に接近し、巻き添えを恐れてジョアンやユキトたちが脇にどいた空間を隔てて対峙した。

 

「――何だ、そのふざけた格好はァ!」

 

 目をつり上げた矢萩が佐伯の前に出、周りに人垣を作った傍観者たちが一触即発の空気にうろたえながら注目する。矢萩たちににらみつけられるパジチョゴリ軍団の中には、伏し目がちな王生雅哉ことユン・ハジンもおり、最後尾には1人だけベスト無しで白パジチョゴリ姿の、どことなく賎民せんみんを思わせるクォンもいた。

 

「――聞いてるんだよ! 答えろ、イジンども!」

「うるッせえなぁ」

 

 右耳の穴をほじったキムが右手小指に付いた耳垢を親指の腹でこすって地面にぱらぱら落とし、左右に立つ小太り刈り上げパーマのオ・ムミョン、馬面長身のチュ・スオと視線を交わしてせせら笑う。その態度にいきり立つ矢萩を制止し、佐伯が厳しく問いただす。

 

「その格好は、どういうことだ?」

「人のこと言えるのかよ」ふんと鼻で笑って腕組みし、切り返すキム。「お前らと同じようにオーダーメイドで作らせたんだよ。俺たち〈コリア・トンジョク〉の団結の証としてな」

「コリア・トンジョク?」

「そうさ」

 

 にやにや笑うキムは振り返ってユンを呼び、おじけて足をすくませているのを見ると、チュ・スオを使って無理矢理前に引っ張り出した。キムの前に立たされ、佐伯と面と向かわさたユンは、まるで虎を相手にするねずみのごとく体をぶるぶる震わせた。

 

「おい、ユンッ!」

 

 ひ弱げな両肩が、後ろからガシッとつかまれる。

 

「――教えてやれ! コリア・トンジョクのことを!」

「……あ、あの、で、でも……」

「度胸をつける機会を与えてやってんだぞ! 言えってんだよッ!」

「は、はい……――その、コリア・トンジョクは……韓国ルーツのコミュニティです……」

「何『です』とか言ってんだよ! 言い直せ!」

「……あ、あ、集まり、だ……」

 

 強要されたユンは佐伯と矢萩たちの視線にめった刺しにされ、今にも息絶えそうなほど血の気を失った。

 

「あなたたち!」横からキムに食ってかかる紗季。「嫌がってるじゃないの! やめなさいよ!」

「あん? 女は引っ込んでろ!」

「何よ、『女は』とかっ――」

「勝手にコミュニティを設立したのか」

 

 黒い胸で腕組みした佐伯が紗季を遮り、とがめる。

 

「あ? 誰かの許可がなきゃ作っちゃいけない決まりでもあるのか? だったら、そこの女のルルりんキングダムとかってのはどうなんだ?――おい、お前ら、どっかから許可を取ってるのか?」

 

 ルルフとジョアンは不意の飛び火にびっくりし、警備隊とコリア・トンジョクに愛想笑いしまくってごまかそうとした。それを横目で見た佐伯は声のトーンを少し下げ、和を乱すような真似は好ましくないと批判した。

 

「――我々警備隊は、治安維持と安全保障を目的に活動している。それに引き換え、お前たちはいたずらに群れて不和の種をまいているように見えるがな」

「へっ、とんだ言いがかりだな。俺たちは、いざこざを起こすために集まっている訳じゃないぜ。――なぁ、ユン?」

「は、はい……」

 

 盾にしているユンの両肩をもんだキムは、新田たちが大遺構から何の騒ぎなのかと注視しているのに気付き、仲良くやろうぜと佐伯たちににやつくとユンの肩に腕を回して踵を返し、仲間たちを引き連れて離れて行った。その後ろ姿を警備隊と一緒ににらむユキトの左隣で、潤がくすぶるような低い声でけなす。

 

「……下品な男ね」

「うん……」

「ふざけやがって……!」矢萩が切歯扼腕せっしやくわんし、「いいんですか? このままにして?」と佐伯に不満をぶつける。

「これから集会というときに騒ぎは起こしたくない。だが、目に余るようなことがあれば、実力行使も辞さないつもりだ」

 

 なだめると、佐伯はコネクトで問い合わせてきた新田に「問題ありません」と報告し、ウインドウを閉じてユキトたちに向き直った。

 

「すまなかったな。ああいう輩が出て来ると、ますます我々の力が必要になってくるだろう。期待しているぞ」

 

 力んだ返事をするユキトと潤に佐伯は微笑み、契約書にサインをしたら自分宛てに返信してくれるように言うと、矢萩たちを連れて元来た方に戻って行った。それでようやく人垣は崩れ、ユキトたちの周りに人が戻る。ジョアンとルルフは物珍しそうに、紗季はむっとした顔で右手を腰に当てて隊服姿の2人をじろじろ眺めた。