REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.15 ハーモニー(1)

 井桁組みの薪を焼いて炎が噴き上がり、乾いた暗闇を照らす赤橙光のドームが大遺構前広場で揺れ動く若者たちを浮かび上がらせる。強制転送されてから丸3日過ぎ――無保険者はリアルボディがどうなっているのか、まだリアル復活できるのか気を揉み、保険加入者はいつ出られるのか、それまでどのように暮らしていけばいいのか悩みながら疲れた青い顔を並べている。

 そうした群れにジョアンたちと交じったユキトは、前にいる者の肩越し、頭の間から焚き火――その向こうの大遺構内で打ち合わせをしているらしい新田と後藤、その近くに所在無げに立つエリーの小さな影を遠目に見て、左脇に立つ潤に顔を向けた。

 

「……この集会で今後のことを決めるそうだけど、どうするつもりなんだろうね?」

「そうね……」

 

 潤の細い右手指が、胸で結ばれたえんじ色のスカーフを触る。

 

「――組織を作るつもりじゃないかしら。これだけの人間が長く暮らしていくには、ちゃんとした体制が必要でしょう?」

 

 ルルフを伴ったジョアンと紗季がうなずき、どんなふうになるのだろうとか、リーダーはやっぱり新田さんだろうと言葉を交わす。皆が新田の名を借りた後藤の呼びかけに応じていることが、彼の求心力を雄弁に物語っていた。

 

「新田さんは、すごいよね」

 

 紗季が、新田を見つめて称賛する。

 

「――あたしたちをリードしてくれて、戦いのときも大活躍。頼りになるわ~」

「That’s rightだね! ニッタさんに任せておけば安心だよ。――ねぇ、ルルりん?」

「ん? んー、そうねぇ……それより、ルルは早く帰って眠りたいなあ~」

 

 新調された艶めく紫ジャージを伸ばしてルルフがふわあっとあくびをすると、ジョアンが顔色を変えて周りを見回す。

 

「――ダメだよ、ルルりん。あくびするときは、ちゃんと口に手を当てなきゃdisgracefulだよ。それにみんな色々不安や悩みを抱えているんだから、どうでもいいみたいな発言は印象良くないよ」

「へーきだよ。ほら」

 

 余裕たっぷりに答えて、ルルフは辺りに視線をキラキラッと流した。すると、目が合った近くの男子たちがどぎまぎし、デレッとしながら手を振るといったレスポンスがある。実は、ユキトたちの周りには少しでも彼女の近くにいたいファン――ルルりんキングダムのメンバーが集まっているのだ。甘い愛嬌を振りまき終わるとツインテール少女はにんまりし、得意げな腕組みで巨乳をむにゅっと潰した。

 

「そんなに心配しなくても、ルルの魅力で大抵のことは帳消しだよ。そうでしょ、ジョビー?」

「い、いや、ボ、ボクは、いいのかもしれないけど、好感度というかイメージというか……」

「気にし過ぎだよー――ねえ、ユッキー?」

「え? あ、その……」

 

 吸い込むような瞳に見つめられてユキトはうろたえ、頬を赤らめてぎくしゃくと答えた。

 

「……そ、そうかもしれないけど、その……」

「何赤くなってんのよ、ジョアンも斯波も。――って言うか、つい数時間前に起きたばかりなのに、もう眠いの?」

「だぁってえ、お腹ぺこぺこでパクパク食べてたら、また眠くなってきたんだもん。ほとんど生身そのまんまの設定がいけないんだよ~」

「別に無理して参加しなくてもいいんじゃないの」

 

 潤がいら立たしげに腕組みし、ルルフから顔を背ける。

 

「――そういう人がいても、かえって迷惑だと思うわ」

「やぁん、怖いなあ。ジェラシーって怖い、怖い」

「はい? それ、どういう意味?」

「ま、まあ、潤、落ち着いて」

 

 にらむ潤をユキトがなだめ、ジョアンが間に入って取りなそうとする。そんないざこざに紗季があきれていると、海が割れるような動きが起こり、その間を通って黒い制服姿の男女数人が近付いて来た。

 

「あっ、警備隊」

 

 ユキトが声を上げ、潤やジョアンが佐伯と彼に率いられた矢萩たちを見ておとなしくなる。警備隊発足の知らせはコネクトを通じて佐伯から皆に伝えられており、初任務として広場の要所に立って警備に当たる隊員たちを実際に目にした若者たちは、黒い隊服姿に自然と畏敬の念を抱いていた。ユキトたちのところに来た佐伯は決まりが悪そうなハイティーンたちを見、何かあったのかと職務質問調に尋ねた。

 

「いえいえ、No problemですよ、サエキさ~ん」両手を振ってごまかすジョアン。「仲良し同士で、ちょっと騒いでいただけですよ」

「ちっ」矢萩が、佐伯の後ろで舌打ちする。「口の利き方を知らないのか、イジン」

「矢萩」

 

 振り返った佐伯はたしなめ、騒ぎを起こさないようにと一同を注意すると、ナックルダスターが強がる鋼の右手に目を止めた。

 

「はめたままなのだな、ナックル・ガントレット」

「は、はい……戦いの覚悟を忘れないために……」

「立派だな。その勇ましさ、警備隊で生かしてみる気はないか?」

「えっ?」

「我々警備隊の目的は、コミュニティを守ること。そのためには、たくさんの力が必要なのだ」

「え、ええ……わっ?」

 

 逡巡――と、ブレザーの右袖がグッと引っ張られ、紗季が耳元で「やめときなさいよ」とささやく。ジャージのオレンジ・カラーが、ユキトにはいつになくまぶしく感じられた。

 

「――純血日本人ばっか集めてんのよ。どういうコミュか、分かるでしょ?」

「ん……」

「入りましょうよ、ユキト」

「潤……?」

 

 ユキトの左腕をしっかりつかんだ潤は、入隊を強く勧めた。

 

「――スカウトされるなんてすばらしいことじゃない。ね?」

「……うん……」

 

 ためらいをとらえる期待のまなざし――失望されるのを恐れて少年はうなずき、本音をもっともらしいめっき・・・で粉飾した。