REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.14 72時間を超えて(8)

「やあ、いらっしゃい。あなたたちも同ルーツでしょう? 今、これからのことを話し合っていたんです。よかったら一緒にどうですか?」

「んん……?」

 

 チンピラ風がねじ曲がった左口角をいぶかしげにゆがめ、左右とともに近付くと、進行方向に座っていた少年少女がばらっと脇にどいて円座が崩れる。そして、クォンの前に立った赤茶髪は、息がかかる距離でじろじろ相手を眺め回していびつな口を動かした。

 

「……クォン・ギュンジだったか。お前、何たくらんでるんだよ?」

「たくらむなんて人聞きが悪いなあ、キム・ジュクさん――そう呼んでいいですかね?」

 

 年上に媚び、クォンは「へへっ」とおせじ笑いをした。

 

「――コミュニティを作ろうって話をしていたんですよ。登録すれば、メンバー同士のコネクトレベルが上がるし、何よりも連帯感が生まれますからね。純血日本人にはたちの悪い輩が多いですから、同じルーツの者同士手を取り合おうってことですよ」

「ふぅん……」

 

 横柄に腕組みしたキムは固唾かたずんだ少年少女たちをちらっと見、クォンのキツネ顏をねちっこく観察すると、アドレスブックを開いてプロフィールをチェックした。

 

「……出身はどこだよ?」

「ソウルですよ。中学卒業に合わせて両親と日本に移住しましてね」

「……へぇ」

 

 嘲笑を漏らし、キムは性悪げなまなざしをぎらつかせた。

 

「――お前、〈北韓プッカン〉だよな?」

「え?」

 

 愛想笑いがわずかに引きつり、そしてすぐにあきれ混じりの破顔はがんで上書きされる。

 

「ボクが北韓だって? 全然違いますよ。今言ったようにボクはソウル生まれで、旧北朝鮮地域出身じゃありません。プロフにもそんなこと書いてないでしょう。困るなあ、変な言いがかりは」

「確かに、プロフには『韓国系日本人』としか書かれていないさ――」

「――ッ!」

 

 アドレスブックを閉じるやキムはいきなりクォンの胸倉をガッとつかんで締め上げ、抵抗しようとする両腕をリーゼント・モヒカンのチュ・スオと小太りパーマのオ・ムミョンが左右から素早くガッチリつかんだ。

 

「――なっ、何をするんですか?」

「クソ犬のくせにしゃべんじゃねえよ。おお、臭ェ!」

 

 キムは黒ポロシャツをつかんでいた手を放し、自分のふてぶてしい段鼻をつまんで露骨に臭そうな顔をした。

 

「マジで臭いな! 北の畜生臭がプンプンだ!――なあ?」

「ホントっすよね、キム兄貴」

 

 右腕を押さえるチュ・スオが馬面をしかめ、左腕をつかむオ・ムミョンが「デュフフフ」と気色悪く笑う。

 

「……何なんですか。誤解はやめて下さいよ」

「とぼけるなよ、クソ犬」

 

 キムはクォンのあごをガシッとつかんですごみ、蔑視のドリルで掘り進んだ。

 

「学生だった時分に、同じクラスに北韓出身のヤツがいてな、そいつ、自分の出自を隠そうと南っぽいしゃべり方をしやがるんだけど、染みついたもんがつい出ちまうんだよな。北韓特有の訛りがよ。普通のヤツらには分からなくても俺には分かるんだよな。そいつをずいぶんとかわいがっていたからなァッ!」

 

 あごを放した手がこぶしになって腹にドグッと炸裂し、とっさに張ったバリアを破った一撃にクォンの顔がグシャッとゆがむ。

 

「バリアなんか張ってんじゃねえよ」

 

 うめいてうつむくと黒髪がむんずとつかまれ、顔がグイッと上に向けられる。

 

「南北統一をきっかけにお前ら貧民どもが流れ込んできたせいで、治安は悪化するわ、援助だ何だで金が無くなって不景気になるわで目も当てられなくなったんだ。そのせいで俺たちのオヤジやオフクロは、少しでもいい暮らしをしようと日本なんぞに移住する羽目になっちまった。その落とし前は、どうつけてくれるんだよ? ええ、クソ犬ゥッ!」

 

 平手がクォンの左頬を張り、右側頭部を打って左右に揺らす。その蛮行にファンやホンたち、そしてユンはおののき、テントの端で縮こまって目をそらしていた。とばっちり覚悟で助ける勇気は無かったし、クォンが北韓――旧北朝鮮地域出身者なら、彼等にとっても差別の対象だった。ルーツに基づく差別、それは統一によって生じた問題に手を焼く為政者たちが、批判を和らげようとマスメディアを抱き込んで北韓をスケープゴートにした結果だった。

 

「――ったく、とんでもない疫病神だぜ、お前らは」

 

 顔に「ぺっ」とつばを吐きかけ、黒ポロシャツをハイカット・スニーカーの爪先でドッと蹴り上げると、キムはおびえて固まっているファンたちをにらみつけた。

 

「だがまぁ、コミュニティを作ろうってアイデアだけは認めてやる。――おい、お前ら。俺がこのコミュニティの頭だ。文句は無いよな?」

 

 チュ・スオとオ・ムミョンにもガンをつけられた少年少女たちに異論が無いのを確かめると、キムはひん曲がった左口角をつり上げ、うな垂れたクォンの髪をつかんで唾で汚れた顔を上げさせた。

 

「お前も文句は無いよな、クソ犬?」

「……も、もちろんです……」

「ふん、いい答え、だッ!――」

 

 顔面にガァンとこぶしを食らい、チュとオに腕を放されてドタッと不格好に尻もちをついたクォンをあざ笑い、キムは再び腕組みをして肉付いたあごを上げた。

 

「あいつ同様、お前もたっぷりかわいがってやるぜ、クソ犬」