REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©NaG∀T∴

Mov.14 72時間を超えて(7)

「――ボクたちは、団結しなければいけないんだよ。分かるだろう?」

 

 車座くるまざになった10人ほどの中心に立ち、クォン・ギュンジは教師を気取って語りかけた。彼等が寝起きできるサイズのドーム型テント内――締め切られた薄暗い環境であぐらをかいたり立て膝で座ったりして耳を傾ける学生服やカジュアルな服装の少年少女たち。その中には、矢萩たちから暴行を受けた王生雅哉ことユン・ハジンの暗い顔もあった。

 

「ボクたちの状況はそれぞれだ。確かにね」

 

 クォンは紫の長袖に通った両手を広げ、ぐるりと見回した。

 

「――貧しい家の者もいれば、裕福な家の者もいる。保険に入っていなくてリアルボディがどうなっているか分からない者、きっと医療機関で生命維持措置を受けられている者など様々だ。だけど、一つだけ共通していることがある。――何だか答えられるかい、ファン?」

「……韓国系ってこと?」

 

 問われたファン・ヨンミが、細い目でクォンを見つめ返す。セミロングの黒髪にブラウンのカチューシャをつけた、鶴を連想させる細身、細面のハイティーン少女。生徒会で書記をやっていそうな雰囲気がある。

 

「その通り!」

 

 ぱんと手を叩いて満足げに微笑み、クォンは続けた。

 

「――そんなボクらを、純血日本人たちは韓国系イジンと蔑む。このイジンめって。――なぁ、ホン?」

「うん……」ひょろっとした体を丸めるメガネ少年ホン・シギがうなずき、のっぺりした顔でもぞもぞ口を動かして「あいつらはいつも……!」と、呪わしげに漏らす。

「そうだろ? そうだよな。分かる、よーく分かるよ、ホン」

 

 近付いてしゃがみ、肩を撫でて慰めたクォンは再び立ち上がって、そういう差別をする者たちが大多数を占める環境で暮らしていかなければならないのだとこぶしを作って強調した。

 

「――だから、ボクらだけのコミュニティを作ろうと思う。名前はもう考えてあるんだ。〈コリア・トンジョク〉――朝鮮同族って意味だよ。どうだい?」

「僕たちだけの……?」

 

 イ・ジソンという名の、アンパンっぽい顔にぽっちゃり体形の少年が見上げて聞くと、クォンはにんまりして大きくうなずいた。

 

「そう、ボクらだけのさ。純血日本人やブラジル系の奴らには嫌な思いをさせられているからね。やっぱり仲間は同じルーツに限るだろ?」

「だけど……」立て膝座りのファンの唇が、さかしげに尖る。「純血日本人だって、ワタシたちを差別する人ばっかりじゃないと思いますけど?」

「良いことを言うね。さすがだ」

 

 ファンを手で示して褒めたクォンは、「だけど……」と継ぎ、膝を抱えて目を伏せている王生の前でしゃがみ、白ブレザーの左肩を叩いた。

 

「なぁ、ユン。キミがどんな目に遭ったか話してくれないか?」

「え?……」

「テラ・イセク戦に向けたトレーニングのとき、純血日本人の奴らにどんなはずかしめを受けたかだよ。まぁ、見ていた者も多いとは思うけれどね。――」

 

 立ち上がったクォンは、一昨日のトレーニング時に王生が矢萩たちに侮辱され、暴力を受けた事件を過剰に演出して扇情的に、まるで毒霧どくむをまき散らすような身振り手振りを交えて語った。それを聞かされる少年少女たちは、やがて眉根の溝を深め、唇をきつく結んでへの字に曲げた。

 

「――ひどいよな! 悔しいよな! こんな屈辱許せないよな、ユンッ!」

 

 問いかけに王生――ユン・ハジンは、引き合いに出された恥ずかしさも相まって涙ぐみ、黙ってうつむいていた。それをいいことにクォンはこぶしをぶんぶん振り回しながら『代弁』し、矢萩たちはもちろん、傍観者たちも激しく非難し、それを巧みに純血日本人への怒りにつなげていった。

 

「――確かに純血日本人の中にも良心的な者が少しはいるかもしれない。ちょっとはね。だが、ほとんどはユンを助けようともしない冷酷非情なサイコパスだ。さらにひどいことには、そういうやからの中でヤマト主義という純血日本人至上主義がはびこりはじめている。リアル同様にね。だから、ボクらは団結して身を守らなければいけない。そうしなければ、ボクら全員同じ目に遭ってしまうぞ」

 

 閉ざされた空間に充満する毒にやられ、少年少女たちは――冷静な思考ができていたファン・ヨンミでさえも――あおられるまま、体験した純血日本人絡みの忌まわしいエピソードを語り合って相乗的に怒りを募らせていった。純血日本人という『敵』がつながりを強め、意志を束ねていく様にほくそ笑むクォン――と、そのとき突然テントの出入り口が乱暴に開けられ――

 

「――んッ?」

 

 ぎょっとするクォンの視界にずかずか踏み込み、驚きの目を集める傍若無人な若者たち――

 グレーの学生服を着崩し、パーマがきついアッシュ・ベージュの髪を刈り上げた、どことなくオタクっぽい小太り少年――

 薄汚れたダーク・ブラウンの長袖ツナギ服を着た、目付きの悪い馬面うまづら、がっしり長身の黒髪リーゼント・モヒカン――

 その2人を左右に従える、派手で毒々しい花柄・七分袖シャツと赤いムラ染めダメージ・デニムに黒のハイカット・スニーカーを履いた赤茶色ウルフヘアの肉食系チンピラ風――

 彼等は同じ韓国系――全員のプロフをチェック済みのクォンは知っていたが、厄介そうな印象から今まで声をかけてはいなかった。ともかく、友好的に対応するに越したことはない――軽く両手が広がり、闖入ちんにゅう者たちを迎える愛想笑い。