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REBEL∝VECTOR

小説/イラスト/詩/俳句 ©永都由崇

Mov.14 72時間を超えて(6)

「……佐伯君、どうしたんだ、その格好は?」

「こんなところで、秘密の話し合いですか?」

 

 後藤を一瞥した佐伯が尋問口調で聞くと、後ろにいる矢萩たちが新田たちをじろっと見る。

 

「今後について話をしていたのですよ」

 

 ブリッジに後藤の右手人差し指が触れ、黒フレームのメガネがスッとずり上がる。

 

「――皆をまとめるための仕組みづくりが必要でしょうとね」

「そうですか。ならば、我々と考えは同じですね」

「と言うと……?」と、新田。

「自分も速やかに体制を整えるべきと考え、まずは有志で治安維持を司るコミュニティ〈警備隊〉を設立したのです」

 

 佐伯は自分に付き従う少年少女たちを振り返って示し、この詰襟つめえりの軍服風制服とマントはStoreZのオーダーメイド・コスチュームショップ〈Metamorphoseメタモルフォーゼ〉で製作させたものだと説明した。そして、自分たちは新田を中心とする組織作りと運営に協力するつもりだと告げた。

 

「――リーダーにふさわしいのは、先のテラ・イセク戦でも皆を引っ張って活躍した新田さんをおいて他におりません」

「……そうか、君にまでそんなふうに言われたら、嫌だとは言えないな……」

 

 新田は口元を右手で固そうに撫で、そして、佐伯の後ろに並ぶ面々に交じる矢萩や真木、中塚、入谷を見て目元に懸念をにじませた。

 

「……佐伯君、断わっておくけど、俺は純血日本人だからってひいき・・・するつもりはないよ。それは分かってくれるよね?」

「はい。そもそもヤマト主義の理念は、純血日本人以外を否定するものではありません。それは彼等にも順守させるつもりです」

「それならいいけど……――それで後藤さん、選挙はどんなふうにやるのか、もう考えてあるのかい?」

「はい。〈エレくしょん・エレン〉というアプリを使います」

「え、えれくしょん、えれん?」

 

 首を傾げる新田の前で後藤がアプリを起動させると、ブラウスからジャケット、スカート、パンプスまで白で統一したヘーゼルナッツ色のミディアムボブ3頭身少女がハンドマイク片手にパッと現れる。

 

「……これがその……」

『はっじめましてぇ! はくちょん!』

 

 手の平大のミディアムボブ少女がハイテンションな挨拶に続いて豪快なくしゃみをかまし、エリーが目の前で風船を割られたようなびっくり顔になる。

 

『――エレくしょん・エレンは、選挙のためのアプリなのなのー! そして、ミーはサポートキャラのエレンちゃん! 立候補から選挙運動、投票、開票までばっちりサポート! 公正中立、品行方正、清廉潔白、金品による買収は、一切受け付けませんよー! はくちょん!』

「……こんなアプリ、あったんだね……」

「いえ、2時間ほど前、あぷりこっとに追加されたものです」

「追加? ずいぶんと都合良く追加されたね」

「そうではありません。私がリクエストしたのです」

「リクエスト?」

「メインメニューの〈サポート〉が含む項目に〈リクエスト〉があるのはご存じでしょう? あそこから選挙に役立つアプリが欲しいとHALYに要望を出してみたのです」

「……そうしたら、要望を聞き入れてくれたのか?」

「はい。私のコネクトにアプリ追加を知らせるメッセージも送ってくれました」

「……」

「それで……」佐伯が腕を上下にぶんぶん振り振りモンキーダンスを踊るエレンを真顔で見て、「このアプリで選挙を行って、正式に新田さんをリーダーとして選出するのか?」と後藤に問う。

「そのつもりです。その上でコミュニティを設立し、運営メンバーを任命していただこうと思っています。組織の枠組みは、私の方ですでに考えてあります」

「そうか。後藤君、君の構想に我々を加えてもらえないか? コミュニティの治安維持及び外敵からの防衛を中心になって担う組織は必要だと思うが?」

 

 佐伯、そして背後の矢萩たちに見据えられた後藤は、それらの視線をメガネレンズで受け止めた。

 

「そうですね。おっしゃる組織の必要性は、私も認めるところですので」

 

 そして後藤は新田に視線を転じ、集会を開いて皆に選挙の話をしようと考えていること、自分が全員にコネクトで集会開催告知のメッセージを送っておくと言った。

 

「――いつまた何が起きるか分かりませんから、今夜にでも開催しましょう。それでよろしいですね?」

「そうだな。任せるよ」

「ありがとうございます。――新田さん、佐伯さん、そして皆さんには、選挙がつつがなく終わるように協力していただければと思います」

 

 新田とその陰のエリー、そして佐伯たち警備隊を順々に見て、後藤は赤い前髪を揺らして慇懃に頭を下げた。